第3話 女神
「少々お待ちください。担当者を呼んで参ります」
驚きを隠せていない事務員は、そう言って立ち上がると急ぐ様子でブースを出た。
(適性がある……俺の人生は、変わるのか……)
人生が大きく変わるであろう展開を目の当たりにした大希は、徐々に湧き上がってくる興奮を鎮めるように何度か深呼吸した。
数分後に大希が待機する個室ブースに入ってきたのは、事務員ではなく長身の女性だった。
濃紺のパンツスーツとメタルフレームの眼鏡が似合う、見るからに仕事ができそうな女性は、椅子に腰掛けてファイルを机の上に置くと名刺を差し出した。
「
「三代大希です」
大希は受け取った名刺に目を落とした。
特異空間対策庁総務部人事課人材戦略企画室主任という役所らしい長い肩書。
「三代さんのコーディネーターを務めます。よろしくお願いします」
「はい……よろしくお願いします」
大希が軽く頭を下げると、咲山は微笑を浮かべてみせた。
「では早速、攻略士について説明を……ご存知の内容も含むかと思いますが、確認だと思ってください」
「分かりました」
「まず地下層宮、通称ダンジョンについて。今年の三月二十三日、台東区根岸の
「はい……」
「そのモンスターを倒すことができるのは、地下層宮と魔力に対し適性を有する適応者である攻略士だけです。そして、モンスターは地下層宮素材と我々が名付けた物質をドロップします」
「……はい」
「地下層宮素材は、人類にとって夢の物質とも呼べる常温常圧超伝導体であり、それを受けて日本政府は速やかに地下層宮の攻略を決定しました」
「ニュースで見ました。女神がもたらした夢の素材、ですよね」
「その女神に、これから面会していただきます」
「え? 会えるんですか?」
「はい。ゲートの出現と同時に降臨した女神イナンナによって作られた石板は適性を確かめるためのものですが、通常は青白く発光します。紫色に発光するのはユニークスキルを有する方だけです」
「ユニークスキル……?」
「その個人のみが保有する専有スキルです。五千人に一人と見られる適応者の中でも、ごく少数の方だけが持つ希少なスキルで、ユニークスキル保有者は女神イナンナと面会し、そのスキルの内容を確認していただきます」
大希は展開の速さに困惑しながらも、興奮し始めていた。
自分には適性があっただけではなく、希少なスキルまで持っている。
その興奮を表に出さないように、大希は努めてゆっくりと呼吸した。
「これから、ですか?」
「他の細かい説明は、ユニークスキルを確認してからにしましょう。女神イナンナとの面会の準備は整っています」
会話を切り上げるように言った咲山が立ち上がった。
つられて大希も立ち上がる。
咲山に先導され、大希はビッグサイト会議棟の最上階である八階にある会議室の前まで移動した。
立ち止まった咲山が重厚な造りのドアをノックする。
「はい。どうぞ」
会議室の中から凜とした女性の声が返ってくる。
「失礼します」
咲山がゆっくりとドアを開ける。
広い会議室の中央に立っているのは、深紅のワンピースドレスを身に纏った可憐な女性だった。
「ワタシがイナンナよ。入りなさい」
イナンナと名乗った女神は、清々しいまでに尊大なオーラを放っていた。
高圧的に振る舞おうとする必要のない生粋の威圧。
その威圧感は大希にとって心地好くさえあった。
「三代大希です」
大希は初めての感覚に戸惑いながらも、自分の名前を言って頭を下げた。
「ダイキね。よろしく」
「は、はい……」
緊張を隠せない大希に、イナンナはツカツカと軽快な足取りで近付いた。
イナンナが発する尊厳なオーラと、嗅いだことのない馥郁とした香りに気圧されながらも、大希は直立不動を何とか保った。
「んー……そう、あなたなのね」
「えっ?」
「まあ話は、覚醒してから」
「え……?」
理解が追いつかない大希を無視して、イナンナが右手の人差し指を立ててクルリと回した。
大希の全身が明るいオレンジ色の光に包まれる。光は数秒で消えた。
何が起こったのか分からない大希は、自分の姿を確認した。外見には何の変化もなかった。
「うん……ダイキ、あなたはユニークスキルを四つ持ってる」
「え!?」
咲山が希少だと言っていたユニークスキル。それは一つだと思い込んでいた大希は驚きを隠せなかった。
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