第7話 まさしく、イッツ ショウタイム!

いよいよショー本番の日。早朝から快晴!

幸先良いと思うことにする。

さて、文字通りアロンを叩き起こし、ショー出演者一同、食堂に集合。

「なあ、ユウ。おいら、そのパレードってのがよくわからいけど、本番衣装でただ歩けばいいのか?それか、ずっと側転とかしたらいいのか?」

うん、ずっと側転しつつ町を一周出来たら誉めてやるけど

「普通にしろ。歩け。そんで、中央広場で子供も楽しめる英雄芝居をやるとでも宣伝しろ」

「ふーん、わかった」

わかっていない確率67%くらいだが、仕方がない。

他のメンバーは分かってるはずだ…よな?

「ザムド、レイガ、ルリハ、カーラ、メルは大丈夫だよな?」

「あんたのせいで、ユウが不安になったでしょうが!」

とカーラがアロンにバックブリーカーをかけているのを尻目に、皆がうなづくのを確認。

「マクセル、適当に明るい曲を弾きながら、随行を頼む」

「朝は酒が抜けてて調子出ないんだが、まぁ、頑張るわ。仕事だもんな」

頼りになるのかならんのか、この男…

「帰ってきたら、たっぷり食事準備しておきますから、皆さん、頑張ってくださいね」

と、ネーベラに送り出され、俺たちは町へと繰り出した。

朝食直後くらいの時間で町が活気づき始めている中、おかしな集団が芝居を観に来いと各々叫びながら練り歩くさまは、中々良くも悪くも目立っている。

特に腹も満たされ体力有り余って駆けずり回っている子供たちの目を惹いたのは、カーラとメルに持たせた販売用の剣だ。

「芝居を観に来ると、この剣が買えちゃうわよ!」

「ほら、当たっても痛くないのにギンギラギンでかっこいいんだよ!」

カーラは自分の頭を剣で叩いて安全性もアピール。

指示してないのに、中々気の回ることをしてくれる。

「うわー」「すげー」「ほしー」「かあちゃん買ってくれっかな」「それいくらすんの?」という子供たちの声に答えたりしながら、俺たちは町中を一周し、広場まで戻ってきた。

「よっしゃ、いい反応だったぜ」

俺は思わずガッツポーズ。

「まだ本番見せてもいないのに、気が早くいないか、ユウ?」

ザムドがやれやれとい言った顔で、俺の肩を叩いた。こいつはこいつで若い娘さんたちにワーキャー言われてたわけだが。

「確かにそうだが、勢いが付くって言うかさ」

「ユウってば、はしゃいじゃって」

ルリハに笑われた。確かにテンション上がってるが、世界は違えど、ヒーローショーの仕事に戻ってきた感が俺を高ぶらせるから仕方がない。

「よし、飯にしよう!」

俺たちはネーベラの待つ食堂へと急いだ。

ちなみに止めろ行ったはずの側転をやりまくって、気持ち悪くなってる馬鹿が1名だけいたが、フォローしない。めんどくさいからな。


さて、本番!なわけだが、実はこの世界、時計がない。時間は町のあちこちの建物の壁面に取り付けられている日時計を基準に認識する程度。

なので、呼び込みの際の開始時間の案内は、日時計の影がどこを指しているか、による。

日の出ている時間が10段階に分割されている。なので、5の刻から始めるって言えば、そこいらの日時計見て来てくれるってわけだ。

ちなみに昼飯が6の刻あたり基準なんで、昼前、午前中の公演、といった感じ。

午後にも1回予定していて、それは7の刻からの予定。

腹ごなしの軽い運動とショーの流れの確認は食堂で。ぼちぼち気の早い客も来始めているようだし、本番当日の練習は極力客の目の届かないところでやりたい。新鮮さってのは大事だからな。

客の整理やグッズ販売は座長やデニガンがやってくれている、はずだ。

ネーベラは水飴を準備中。ちらっと厨房を覗いたが、汗だくになりながらも楽しそうだった。

「メル、司会の声出し練習も兼ねて、舞台側から客の整理や案内を頼む。マクセル、客寄せも兼ねて、適当に何か弾いててくれ」

「はーい…自信ないけど」

「おぅ、景気よく奏でるぜ」

トボトボと歩いてくメルとは対照的に、マクセルの足取りが軽い。さっきの食事で酒飲んでたからなぁ。

「よぉし、もう一回、流そう。そしたら開演まで休憩、みたいなもんだ」

そして、あっという間に開演時間と相成った。


メルからの報告によると、グッズ売り上げも水飴売り上げも好調らしい。

さぁ、始めるぜ。


「皆さまお待たせいたしました!ケルシュマン一座がお送りする、英雄ザムドの物語、始まります!」

マイクなんてないから、手製のメガホンで声を張り上げる。

観客がざわつく。

行け、メル。

メルが舞台へ走り出し、観客に向かい第一声。

「みなさーん、こんにちわー!」

ノリのいい、数人の子供たちからだけ「こんにちわ」の返答がある。

「あれあれ?声が小さいぞ。もう一回行くよ、こんにちわー!」

思ったよりもスムーズにやってくれてる。いいぞ。

子供たちもノッて来ている。「こんにちわー!」を絶叫し始めた。これだ。この空気だ。

「今日は、英雄ザムドが皆に会いに来てくれるよ!さぁ、皆で呼ぶよ、せーの」

『ザムドー!』

完全に来た。よし、ここからだ。

「もう一回呼ぶよー!せーの!」

『ザムドー!』

「わーはっはっはっは。ザムドなどここには来ぬわ!行くぞ魔獣兵!」

そう陰から叫び、俺とアロンとカーラが舞台に飛び出す!

黒づくめで顔の上半分をマスクで覆い、俺だけ胸当てを着けている。魔物軍団登場だ!

「さぁ、魔獣兵ども、ここに来ている連中を魔神レイガ様の生贄にするのだ!」

「イーッ!」

俺の号令でアロンとカーラが観客の間に飛び込み駆け回る。

ただし、観客には一切手を触れるな。叩かれようが何されようが奇声を上げて走り回れと命じてある。

「待て!そこまでだ、魔獣兵!」

ここでザムドの登場だ。

子供たちが歓声を上げる。ほんと、ノリがいいな。

「おのれ、英雄ザムド!魔獣兵どもよ、ザムドを倒すのだ!」

「イーッ」

さぁ、ここからが前半のアクション。

1対3の戦いが始まる。

襲い掛かるアロンとカーラを避け、まずはアロンのボディにパンチからのアッパー。吹っ飛ぶアロン。

そして近づいてきたカーラに二段蹴り。

べたべたの古い立ち回りだが、演じる方も見る方も最初なんだ。これでいい。二人のやられるリアクションもイイ感じだ。

俺が剣を構えると、ザムドも抜刀し、対峙。

マクセルの戦闘BGMもイイ感じ!

数手打ち合い、離れる。

そこからザムドが踏み込み、胴薙ぎ!

ここで、ザムドの踏み込みが練習時よりも深く、俺も反応できず、まともに脇腹にザムドの一閃が入った。

呼吸が止まる…強いんだよ、ザムド…

ザムドがハッとして焦る表情を見せるが、俺は芝居を続ける。

「お、お、おのれザムド!ここは一旦引き上げるぞ!」

俺は無理矢理に声を絞り出して叫び、舞台袖にアロンとカーラ共々駆け込む。


「失敗したぁ、まともに食らっちまった」

「ね、ね、大丈夫、ユウ」

心配げに寄り添ってくるカーラに

「よくあることだ。気にすんな。お前らも気を付けろ。だがビビルな。いいな」

「う、うん」


「よぉし、魔獣兵は逃げたようだ。ぼくはこの辺りを見回ってくる。また後で会おう!」


ザムドも舞台袖に走りこんできた。

「ユウ、すまない、ぼくは」

「気にすんな!まだまだこれからだ。さぁ、アロン、カーラ、出番だ!」


俺たちは何とか逃げてきたような雰囲気を出しつつ、再び舞台へ。

「くっそ!英雄ザムドめ。やはり強いな」

「イ、イーッ」

さっきからイーイー言ってんのはアロンな。下手に喋らせるより戦闘員的奇声の方がいい。

「よし、ここで、戦力強化を試してみるか。魔獣兵どもよ、ここにいる子供たちを攫ってこい!俺様たちの味方になれるか、試してくれる!」

「イーッ!」

アロンとカーラが観客席向かい、4~5歳の子供2名を連れてくる。

ある程度、受け答えが出来て、妙に反抗的にならないであろう年齢だ(得てして思い通りにならないのも、またその年齢ではあるのだが)。

「ふっふっふ、よく来た子供たちよ。まぁ、俺たちが攫ったんだがな」

観客席からクスクス笑いが漏れる。

「さて、一人ずつ話をしていこうではないか。まずは少年、お前だ」

おそらくは観客席の親の方を見ているのだろう。こちらへの反応が鈍い。

「こんにちわ!」

びくっとしたな。

「まずは挨拶から始めようではないか。こんにちわ!」

「こ、こんにち…わ」

これ以上押すと泣くな…

「よし。では名前を教えてくれ」

「…マルケス」

「マルケスくんか。何歳かな?」

今度は黙って右手を広げて差し出した。

「5歳、というわけか。マルケスくん、魔物と勇者、どっちが好きだ?」

「勇者」

「観客の諸君!今のを聞いたかね?このマルケスくん、我ら魔物軍団に攫われて尚、勇者を讃えている。その勇気に拍手をしてやってくれ」

ようやく観客がこちらの意図を汲んできたようだ。拍手が巻き起こった。

「さて、もう一人のお嬢さんだ」

と、アロンが連れてきた女の子を見やると、俺を睨んでいた。

面白い。

「あたしはナル!4歳!魔物なんか嫌い!」

「わはははは、聞く前に答えるか!その胆力、将来は良いお嫁さんになるだろうな!」

「うん!」

観客が爆笑。

「そうかそうか、お前たちの勇気を讃え、今日は帰してやろう。俺らが後ろから蹴飛ばされそうだしな」

観客、また爆笑。

掴めたぜ。

「ようし、おい、魔獣兵ども、手ぶらで帰しては我らの名折れ。この二人にお土産を持ってこい!」

「イーッ!」

アロンとカーラが舞台袖から袋詰めしたグッズ。販売している子供向けの剣の柄の部分を赤に塗った特製バージョンを渡す。

俺の世界では年式落ちの古いヒーロー文房具の在庫品だったりするが、こちらの世界にそんなものは無いし、今後の集客のためにも、ちょっとしたスペシャルバージョンを用意したっていうこと。

「よし、人から物をもらったら、何と言うのだ?」

「「ありがとー」」

「よぅし!元の席、わかるか?気を付けて戻れよ。さぁ、観客ども、この勇気ある礼儀正しい子供たちに拍手を!」

観客から万雷の拍手。

これこれこれだよ。


アロンとカーラが「これでよかったの?」的な目でこちらを見てくる。

俺は大きくうなづいてやった。


「さぁ、お遊びもここまでだ!我らの魔神レイガ様をお呼びする時が来た。さぁ、お出でくださいレイガ様!共に人間どもを滅ぼしましょうぞ!」

レイガが舞台袖から、ゆったりとした歩みで現れる。片手に持った鎖の先に繋がれているのは、ルリハである。

「おぉ、その女はザムドの婚約者ルリハ姫。なるほど、ザムドの目の前で、ルリハ姫を処刑し、ザムドを絶望の淵に叩き込むという作戦ですな?」

鷹揚にうなづくレイガ。

そこにザムドが駆け込んでくる。

「おのれ、きさまら!ルリハを返せ!」

「諦めてルリハ姫の最期を見届けよ、ザムド!」

「くそ!そうはさせん!フレイムアロー!」

ザムドが勢いよく右手を突き出すと、ルリハを繋ぐ鎖が吹っ飛んだ(かのように見えた)。

観客席から巻き起こる歓声。

木製の鎖に無数の切れ目を入れ、ルリハが思い切り引っ張ると、壊れる仕組み。デニガンに無理言って作らせた逸品。

「毎回作らせるのか、この面倒なものを!」

と怒ってはいたが、作ってる様子はノリノリだったので問題ないだろう。現に無事、設計通りに壊れてくれたし。

そんな作りなので、ルリハがレイガに連れられて出てくるとき、実は鎖にテンションをかけないように弛ませて、鎖を引かないようレイガにはお願いしていた。

自由になったルリハはレイガにキックして、その場から離れ、その勢いでアロンに近づきパンチ。取り落した剣を奪い、アロンとカーラを斬り捨てる。

そんな強いなら捕まるなよ、という無粋なツッコミは無しで。

「ザムド様!ありがとうございます!ここは共に戦いましょう!」

「おぅ!」

盛り上がるBGM。盛り上がる観客席。

まずは逃げる俺を追って、俺とルリハは一旦退場。

「ねぇ、受けてるよね?あたいたち、受けてるよね」

興奮した様子でピョンピョン飛び跳ねるルリハ。

「おぉ、すぐ出番だ。気合入れろよ」

「もちろん!」

そして何合が切り結んだザムドとレイガが駆け込んでくる。入れ替わりに俺とルリハが飛び出す。

「これ以上、魔物どもの好きにはさせないわ!」

「ははは、やってみろ!お姫さんよぉ」

徐々に圧倒されていくルリハ。

そこへ司会のお姉さん、メルの声が響く。

「みんなー!ルリハ姫を応援してー!がんばれー!」

子供たちは素直に乗せられて

「がんばれー!」

と、声援を上げてくれる。

「ま、け、る…もんかー!」

ルリハが立ち上がり、俺に猛烈な剣戟を食らわしてくる。

練習中、何発も当てられたなぁ、と思いつつ、剣で受け、押されていく。

今回は大丈夫そうだ。

そしてそこへレイガに追われる形でザムドが駆け込んでくる。

「姫!大丈夫か!」

お前が大丈夫なのか?という無粋なツッコミは無しでPART2。

「ザムド様!わたくしは大丈夫。この子供たちの声援でいくらでも戦えます!」

「よし、一緒に行くぞ!」

「みんなー!ザムドの応援もお願い!がんばれー!」

「がんばれー!」

この街にこんな声援が響いたことは無いのであろう。辺りから続々と人が増えだしている。

「さぁ、魔界にお帰りなさい!ルリハクラッシュ!」

真向両断唐竹割りに振り降ろされた剣で、俺、やられて退場。

最初は自分の名前が入った技名、嫌がってたけど、やるときはやるな、ルリハ。

「あとは貴様だけだ、魔神レイガ!」

レイガ、少しずつ後ずさり逃げようとするも

「まて、逃がさんぞ、これでも食らえ!ザムド!」

「ルリハ!」

「「ダブルクラーッシュ!」」

ザムドがレイガの左脇、ルリハが右脇の胴を薙ぐ。

「うぉぉぉぉぉ!」

と叫び声をあげてレイガ退場。うん、セリフこれだけなんだよ、レイガ。

「わぁぁぁ、凄かったね!強かったね!」

と、駆け込んでくる司会のお姉さん、メル。

「みんなー!楽しかったかなー?」

「はーい」

いい返事です。

「みんな、今日は僕たちのことを応援してくれてありがとう!すっごいパワーをもらったよ!」

「そうね!みんなありがとう!また、お会いしましょう!」

と舞台袖に走り去るザムドとルリハ。

「みなさん、本日はケルシュマン一座がお送りした英雄ザムドの物語、ご覧いただきありがとうございました!気を付けてお帰りください!」

とメルがショー終了を告げる。

ルリハに倒されてから、この瞬間までの間に、俺とアロンとカーラは普段着に着替え、観客の撤収誘導を開始。

この時点で、この回用の土産も菓子も売り切れと報告を受けていたので、事故が起きないように、客を流すだけで済んだ。


帰り際に舞台に投げ込まれたお捻りは、メルとマクセルがかき集めていた。


次の回までの休憩兼食事時間。

座長は今までに見たことないホクホク顔で、皆に言った。

「今回の公演でケルシュマン一座、過去最高の売り上げになった!悔しいが認めよう。ユウに感謝を」

嬉しい半分、売り上げ落ちたら何されるかわからない恐怖半分。

「ありがとう座長。みんな、この調子で頑張ろう。公演内容も土産も、少しずつ、よりいいものに変えていきたい。よろしく頼む」

皆の拍手。カーラが「結婚してー」とか叫んでメルに睨まれていたが、見なかった聞かなかったことにする。めんどくさいからな。

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