第3話 商売のイマジネーション!

「と、まぁ、こんな感じだ。いいか?」

「で、で、それから、それから?」

「しつけえな、お前は」

「あたしたちが入る前の話だもん、知りたくて当然だろ?」

「めんどくせぇ」

「食いちぎるぞ」

「どこをだよ!わかったよ、話せばいいんだろ、まったく」

「素直が一番、ね」


他の連中への演目変更の話も大事だが、商売としてヒーローショーを成り立たせるには、どうしてもグッズなどの売り物が必要だ。

今までのようなお捻り頼りだと、収入に安定感がないし、座長がごまかしてる可能性も高い。

よって、団員の目の前で売れるものという、明確性が必要だ。自分たちの現状を知るバロメーターみたいなもんだ。目に見える成果ってのは、やる気に直結する。

なので、デニガンを頼る。

「デニガーン、ひま?」

とテントの中に入ると、

「ユウか。わしは暇だったことなどないぞ。常に忙しく技術の研鑽を重ねるのが使命じゃからな」

と、お約束のやり取りをしてから本題だ。

「座長は何とか説得できたが、今までのお捻りよりも売り上げがなきゃ、新演目は中止で、俺は奴隷商に売り飛ばされる」

「そりゃあ、そうじゃろうな。わしだって、それくらいは言いたい」

「ちったぁ、味方しろや。で、だ。芝居の前後に売るものが欲しい」

「なんじゃ、食いもんなら、わしじゃなく…」

「いやいや、グッズ、じゃ通じねえか。土産物だよ。俺らの芝居を観たって言う証になるような特別なものだ」

「つまり、特別な品を量産、しかも安価でして、そいつを売りさばきたい、ってことかの?」

「話が早くて助かるぜ。さすがデニガンだ」

「わしをおだてても、話は進まんぞ。なんぞ、アイデアがあるんじゃろ?」

メルだと話が四方八方に行って進まないのに、ドワーフってのはエルフより賢いんだな。実感した。メルがアレなだけかもしれんけど。

「おぅ。まずは小道具用に作ってもらった銀色の剣。あいつの小さくて、芯に木が入っていない、子供向けのおもちゃの剣が欲しい」

「どの程度じゃ?」

「1回の公演で5本もあればイイだろ」

基本、子供は棒状のものを振り回したがる生命体だ。

「ふむ。ヒカリムシ集めを頑張れるのなら、可能じゃろ」

そうだった、あのコガネムシモドキの採集作業が……仕方がない。メルにやらせるかな。

「あと、劇団の名前が入った手ぬぐいが10枚」

「誰が欲しがるんじゃ、そんなもの」

「要はデザインなんだよ。芝居の時に英雄が頭に巻いてるのと同じ、とか」

要は変身セットだ。

「ふむ。お前さんは、子供が欲しがりそうなものに長けておるな」

「俺は幼き日の感動を忘れない男だからな」

「要は、根が子供なだけじゃろうが……それだけでいいのか?」

「とりあえず、それで作った場合の原価を出しといてくれ」

「わかった。しかし、それだけじゃ、お捻り超えは厳しくないか?」

「もちろん、次はネーベラに食いもん商売の相談さ」

「ぬかりないのぉ」


さて、お次は劇団の調理担当のネーベラ。小さい劇団なんで、調理担当はネベラひとり。

当の本人はオークと人間のハーフという噂の、2mくらいある、ごっついおばさんだ。

とりあえず、出自なんざどうでもいい。ネーベラの飯は美味い。それこそが最大の理由で信用だ。

「ネーベラさーん」

相手がデカいので、どうしても上を向いて呼びかけるような感じになってしまう。首も疲れる。

「なんですか、ユウ。わたくしの厨房に入って来ないでくださいっていつも言ってるでしょう?」

この丁寧口調がな……そんで何気に美人なんだよ。パーツパーツが大きいからわかりづらいけど。

「ちょっと相談」

「あら、わたくしの力を借りたいなんて、珍しいこともあるものね。お金を貸せだの、自分の分だけ、食事の量を増やせ、とかなら駄目ですよ」

「違う違う。実はさ、芝居の前後にネーベラの料理を観客に売りたいんだよ」

「え?わたくしの料理を、売る?」

「そうそう」

「いやですわ、そんなもの買うような、もの好きな観客がいるとでも?」

おいおいおい、あれだけの腕がありながら、自信はないのか?

「ネーベラの腕は確かさ!だからさ、子供たちが喜びそうで、しかも原価のかからなくて、それなりに量があるか長時間食べていられるお菓子、作れないかな?」

「お子さんたちの?」

「そう!とりあえず、1ヶ月お試しだけど、俺の考えた演目をやる。それが子供たちを喜ばすことのできる演目なんだよ」

奴隷に売られる話は端折る。めんどくせえし。

「あぁ、今日なんか勝手にやって、座長を怒らせたってやつ?大丈夫なの?」

おっと、バレてる。

「大丈夫。見ていた子供たちは喜んでいた。なにより、今は魔王が倒されて平和なんだ。だからこそ、子供たちが喜ぶことは少しでもやってやるべきなんだよ」

「……」

あれ、黙っちまった。なんかマズったか。

「素晴らしいですわ!」

あ、号泣してらっしゃる。

「ユウの考え、素晴らしいですわ!是が非でも協力させてくださいな!」

ありがたい反応だが、声でけぇ、耳痛ぇ。

ポップコーンとか、棒付き飴が理想なんだが、ポップコーンは今のところ、売ってんの見たことないが、トウモロコシっぽいものは市場で見た。ただ、爆裂種っていう種類の粒じゃないと弾けない、という豆知識を昔どこかで見た。

なんか手軽なスナックがあればいいんだが。

町に出て研究した方がよさそうだ。

そんで、飴は、要はべっこう飴みたいに溶かした砂糖を鉄板に流し広げて冷やし固めればいいんだろうけど、砂糖ってあるのか?

「ネーベラ、砂糖って高いか?」

「砂糖は高級品ですわ。貴族様しか口にできないレベルで」

こいつは参った、が、水飴、という手がある。

「水飴は?」

「あぁ、ゲラムの粉とバリュの根で作れますけど」

ゲラムもバリュも翻訳されないからには、こっち特有の作物かなんかだろう。

「試しに作ってもらうことは出来るか?」

「それは構いませんが、あまり甘くはないですよ」

「ふーむ、何か果実の汁を煮詰めたりしたものを混ぜたり、果実そのものをくるんだり出来ないか?」

「面白い発想ですわね。タロムの実、使ってみようかしら」

「頼む。それと売るにあたって、原価がどれくらいかかるかも教えてほしい」

「わかりましたわ。今日の夕飯の時にでもお出しします」

と、ドスンドスン足音を立ててキッチンの奥へと消えた。

よし、水飴ってあたりが昭和の紙芝居屋を感じないでもない。見たことないけど。


さて、これだけじゃ、一公演の売り上げは数百円だろう。

この額じゃ座長は許さないな。俺、奴隷。

そもそも、1回の公演でのお捻りっていくらなんだ?

で、マクセルに期待せずに聞いてみたところ

「盛り上がった時で300シリンくらいだな」

あ、答えが来た。俺の感覚だと3000円くらいか。

「それっぽっちなのか?」

「そもそも観客は庶民だからな。そんな豪勢に金はくれんよ。そんで俺たちはな、基本的に町会や商会に雇われるんだよ、祭りや旅商人が来て市が立つ期間で、多分だが、40000シリンくらいだな」

「そうなのか?」

それなりの額ではあるが、数日、一座全員を拘束ってなると、安い気もする。

「人寄せ出来て、来た人がそこに金を落とすのを期待して、だ」

なるほどな。だとすれば、企んでる商品が売れさえすれば、お捻りの件は超えられるだろう。商品を売ったとしても、お捻りの数が減るだけで0にはならないだろうし。

「ありがとな、マクセル。参考になったぜ」

「上手くいきそうか?」

「俺のこの先の人生がかかっちゃったからな。上手くいかすさ」

めんどくせえが、こんなところで人生詰みたくない。


さぁて、お次は劇団員の説得だ。

こいつらがめんどくせぇんだよな。

自分も役者の端くれだ。そんな職業選ぶ奴が、曲者揃いになるのは分かる。

で、劇団員の共用テントに入ってみる。

「よぉ、ユウ。座長に喧嘩売ったんだって?」

「いい、度胸、している。われにも、売るか?」

「苦しまないように殺してあげようか?」

「ザムド、喧嘩なんか売っていない、建設的な提案をしただけだ。レイガ、なんでお前に喧嘩売らなきゃいけないんだよ。ルリハ、殺すな」

ザムドは一座の主演俳優。顔はいいが女癖が悪い。でも同じ劇団員には決して手を出さないらしい。行く先々で一夜の浮名を流す、ある意味古いタイプの役者だ。

レイガはリザードマンだ。片言でしか喋れないが、見た目から、常に悪役。実はイイやつ。

最初はビビったが、職業上怪人耐性があるせいか、すぐ慣れた。この世界、人間型の種族しかいないと思ってたし、邪教関係者は教えてくれなかったし。

ルリハはダークエルフと人間のハーフらしいが、見た目はやや浅黒めのナイスバディの美人の人間。種族的なのか性格的なのかメルとは仲が悪い。

「ユウがやりたいってのは、この前、幕間で勝手にやったアレだろ?ぼくにも協力しろってのか、アレに?」

「一座の主演俳優だからな。英雄役はお前さんしかいない、と思ってるんだが」

「あんなぴょんぴょん跳ねまわったり、ひっくり返ったりなんか、ぼくには無理だよ」

「俺のトレーニングを受けりゃ、そうだな、3日でモノになる」

とりあえず、ヒーローは受け身と決めポーズが取れりゃ何とかなるもんだ。やられる俺が派手に回ったり跳んだりすりゃいいのさ。

「ほんとかい?」

「運動神経悪いようには見えないしな」

「それは、まぁ」

「あとで、ちょっと付き合ってくれ。簡単な動きをして無理そうなら、無理強いはしないさ」

「観客がより喜ぶ方を役者としては演じたい。正直、ユウのやった芝居には嫉妬してるよ。女の子にモテそうだし」

主役っぽさでは、とっくに俺を超えてるからなぁ。嫉妬が軽蔑にならないように頑張るしかない。そもそもアクションでモテたことは無いんだけどな。

「われにも、役目、あるか?」

「もちろん、レイガにもあるさ。俺が魔王軍幹部、その配下の最強の魔人ってな感じで」

「今までと、同じ、か?」

「確かにザムドと戦うっていう意味では同じだが、もっとドラマチックさ」

「よく、わからん」

「1度でいいから協力してくれ。それでイヤなら仕方がないと思うから」

「ふむ。われ、ためそう。ユウの、申し出」

「ありがとう、レイガ」

どこぞの貧乳エルフより、よほど律儀なんだよな。

「で、あたいは?メルやユウをボコボコに出来るなら、何でもいいけどさ」

「じゃあ、ルリハには、土産物の売り子でもやってもらおうかな。安全のために」

「ちょっと、主演女優のあたいに売り子?ふざけんな!」

「俺をボコボコにしたがってる奴と、一緒の舞台に立てるかバカタレ」

「メルはボコってイイの?」

「本人に聞いてみろ。俺は止めないが……そもそもあいつは芝居できないから、売り子か良くて司会のお姉さんのつもりだ。この前は特別」

「しかいのおねえさん?」

「あぁ、その、狂言回しって言うか、観客の整理役兼盛り上げ役みたいなもんだ」

「だったら、尚更、あたいを芝居に使うべきだろうが!」

「理由は最初に言ったぞ。バカタレじゃないのなら、どうすべきか、わかるよな、ルリハちゃん」

「ちゃん付けすんな!いいよ、わかったよ、舞台上じゃボコらないよ」

わかってねえが、妥協は必要だ。実際、芝居でも必要な存在だからな。

「んじゃ、ルリハ、お前は魔物に攫われたお姫様役だ。ザムドに助けてもらう役な」

「え、あたい…姫…あたいが」

見た目だけはいいからな、こいつ。中身が伴わないだけで。エルフ共通事項なのか?

あ、ザムド、背を向けてるが笑ってんな。肩が震えてる。

レイガの尻尾が震えている。表情変わらないから、わからんが、笑ってるのか?

今まで女盗賊とか、ずばりダークエルフとかしかやってんの見たことないし。

「ル・リ・ハ・ちゃん、イヤか?」

「ちゃん付けすんなって。い、いや、とか、その、まぁ、やってやんよ。女優だしな。うん、あたいは女優」

案外攻略しやすいテンプレなツンデレか、こいつ。別に攻略したくはないけど。


とりあえず、役者連中も何とかなりそうだ。

あとは土産物と芝居の相乗効果がどうなるか?ってところだ。

正直、役者があと二人は欲しい。

ヒーローショーで言うところの「戦闘員」役がいない。

現状、ヒーロー、ヒロイン、悪ボス、怪人しかいないのだから。

座長が悪ボスに向いているんだが、客整理とか、金の管理とか、やることはやってるからなぁ。


「なるほど、それであたしら姉弟に目を付けたってわけだ。ユウ、流石だね」

「うん、まぁ、それでイイや、もう」

「あ、また端折ろうとしてるな!」

「端折らせたのはお前なんだが」

「ちゃんと話さないと、もぎ取って捨てるぞ」

「だから何をだよ!」

この手の語りはマクセルのお仕事じゃないのか?

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