初仕事(その1)

その日の夜、お風呂から上がった私は、冒険者ギルドの2階にある間借りしている部屋へと戻っていた。

この冒険者ギルドの敷地内に大浴場のようなお風呂があるのはとても有難い。

しかも、男女別!

異世界だから混浴なのかとも思ったけど、そこはしっかりと区別されていた。

私が入ったときには他の人は誰もいなかったけど、時間とかによって人が多かったり少なかったりするのかもしれない。


(そんなことより……。)


私は手持ちの荷物の確認をすることにした。

使えるのはペンケースくらい。

リュックは使い物にならない。教科書も全て使い物にならない。

ノートはよく調べるとまともに使えそうなのが一冊は残っていた。

スマホは、ブレザーのポケットに入れていたが、画面がバキバキに割れており、電源すら入らない……。


(とりあえず、元の世界に帰るために頑張ってお金を貯めて、冒険に必要なものを買い揃えないと……。)


絶対にいるのは武器と防具。あとは薬草とか……なのかな……?

他に何がいるのか今は分からないけど、その時になればみんなに聞いてみるのも良いかも知れない。

今日は、異世界に飛ばされたり死にかけたりと散々な目に色々とあったけど、明日からは良いことがあるといいな……。

そう思いながらこの日は早々に寝ることとした……。



次の日、私は朝から冒険者ギルドの食堂「グレンと愉快な仲間たち」のホールスタッフとしてメイド服のような制服を着て、グレンさんから他のスタッフさんへの紹介もそこそこにウエイトレスの仕事に着いていた。


「カナちゃん、これ3番テーブルに持って行って!」


「は、はいっ!」


先輩の女性スタッフで、私の指導役の青い髪に、頭に猫のような耳を生やした猫の半獣人の女性、「ファナさん」の指示を受け、3番テーブルへとエールビールを4本運んでいく。

冒険者ギルドのホールは朝から大賑わい。


「お待たせしました、エール4本です!」


「ありがとう、カナちゃん。それじゃあ、カンパーイ!」


3番テーブルに座っている冒険者4人はエールビールを受け取ると何度目かの乾杯をして勢い良く飲んでいる。

私の名前は各テーブルに料理やお酒を持っていく度にみんなに聞かれたので、もう既に覚えられている。

そんなことより……。


「次こっちの注文いいかっ!?」


「あ!はーい!ただいまっ!」


次から次に注文が殺到して目が回りそうだ……。

朝食に冒険者ギルドのホールで食事をする冒険者くらいはいるだろうとは思っていたけど、想像以上だった。

私の実家は喫茶店をやっていたので、ウエイトレスの手伝いはよくやらされていたが、こっちのほうが桁違いに忙しい!

さらにここはお酒も頼む人もいるが、よく見るとお酒を飲んでいるのは全体の2割程で他のテーブルでは、人間やエルフだけでなく、獣人や獣人と人間を足して2で割ったような半獣人、さらにドワーフと言った様々な冒険者達が普通に食事をしたり、次の冒険の話をしたり、手にした報奨金や報酬の分配をしたりしている。

掲示板の所にも人集りが出来ており、貼られている依頼書を取っては受付へと持っていっていた。


(冒険者ギルドってこんな感じなんだ……。)


「カナちゃん!ボーっとしてないでこの料理を1番テーブルに持っていって!」


「は、はいっ!」


周りの様子を眺めていたらファナさんに怒られてしまった……。

次から気をつけよう。


「お待たせいたしました!」


料理を1番テーブルへと持っていくと何となく見覚えのあるような人達がいた。


「よう、カナ!調子はどうだ?もうすっかり良くなったみたいだな!」


この人達は確か……、私を助けてくれた人達だったかな……?

朧気な記憶だけど、そうだった気がする。


「ちょっとカナちゃん!早く次の料理を……て、ああ、カナちゃんこの人達だよ。カナちゃんを助けてくれたの。」


ああ、やっぱりそうだったのか。


「冒険者の皆さん、あの時は危ない所を助けて頂き、ありがとうございました。」


私は冒険者の4人に深々と頭を下げる。


「いや、良いってことよ。何にしろ無事で良かったな!俺の名はディン、よろしくな!」


短めの黒髪で見た目は20代半ばくらいの男性、ディンさんは剣をテーブルに立て掛けて、屈託のない笑顔で先程私が持ってきた肉にかぶりついていた。


「俺の名は、アルトだ。よろしく。」


やや髪の長い金髪の耳の長い男性、年は見た目にしてディンさんと同じくらいかな?アルトさんはキノコのソテーを食べながら私へと手を手を振っている。

耳が長いということは、グレンさんと同じエルフなのかな……?ディンさん同様に弓矢をテーブルへと立て掛けていた。


「私はセーラよ。鼻大丈夫……?鼻の骨が折れてたから回復魔法で治したけど……、違和感とかない……?」


「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます。」


茶色いロングヘアーの魔術士風な格好をした女性、セーラさんは心配そうに私の顔を覗き込む。

彼女もまた年は20代半ばくらいだろう、杖をテーブルへと立て掛けている。


「そして、最後に私がサラね。」


最後の一人、長い耳を持ち、髪を後ろで三つ編みをしている銀髪でやや褐色の肌の女性、サラさんは飲み物を飲みながら自己紹介を述べていた。

サラさんもまた他の3人と歳は同じくらいに見える。

肌の色こそ違うけど、サラさんもアルトさんと同じエルフなのかな……?

サラさんは武器は立て掛けていないのかなと思ったが、よく見ると左右の腰に短めな剣を2本下げていた。


「ディンさん、アルトさん、セーラさん、サラさん。改めて本当にありがとうございました!」


私がもう一度深々と頭を下げると、4人は照れくさそうに笑っていた。


「それにしてもカナちゃん、ディンさん達に助けられたなんて本当に運が良かったね。」


私の横で話を聞いていたファナさんが腕組みをしながら、頷いていた。


「ディンさん達はこの街ではかなりの凄腕のパーティで実力はトップクラスだよ。実際この人達に憧れて冒険者を目指した人はこの街に何人もいるんだから……!」


「そうなんですか……?」


そんなに凄い人達だったのか……。


「さて、お喋りはおしまい!カナちゃん仕事仕事っ!」


「は……はい……っ!」


ファナさんに背中を押されながら私は仕事へと戻っていった。

後ろを振り抜くと、ディンさん達4人が私に手を振ってくれていた。

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