第29話 三人でデート1

チーズコード騒動があった日から二日後の昼下がり。

三人でデートという日本語なのかおかしいイベントのため、俺たちは最寄りの駅前に向かっていた。

「ずっと気になったんだけどさ」

「どうしたのー?」

「やはりまだ体調が優れておられないのですか?」

「快調って昨日から言ってるよ? 美晴さんこういう心配性なタイプだっけ」

「恋は人を変えるとよく言うじゃありませんか」

「この子って過保護タイプなのーじゃなかったら監視カメラなんて仕込むと思うー?」

「お嬢様ぁ!!」

ライン越えでございますー!と続きポカポカ叩くふりする美晴さん。

やだーぶたれたーってわざとらしい呟きの後、俺の後ろに隠れて耳元で「ちなみに」と囁く。

「私はぁ、結愛タイプぅ」

「っ!」

耳元で囁かれてゾクッとした。

脊髄反射の如く情けない身震いはセットで。

「触手タイプの間違いじゃないか?」

なんて、わけのわからんごまかしを口にする。

「一瞬震えたの、気づいてるよー。これが俗にいうバイノーラル生音声……」

「お嬢様?」

「私の声以外では反応できなくしていれば……」

「おーい、戻ってこーい。扉開くなよ? 閉めろ閉めろ」

「あうっ、叩くのは心外だー! DVだー!」

通じるどころか、雲行きが怪しくなってきたまであるぞ?

形容しがたい未来は避けたい一心で結愛の頭にチョップかましただけだというのに。

心外な。

「お嬢様を叩くのはいくら旦那様とはいえ納得いたしません。ですがわたしはその点、そういうプレイも、その、やぶさかではないので……」

「しれっとアピって寝取りかかるな、このメイド」

「寝取るとかありえません。智様の嫁にわたしがなるだけです」

「それがNTRなのー! さと君ありえないよね? ね?」

「そんなことよりど真ん中にいるから暑すぎて死ぬ寸前だけど……」

言い合いしかしてないように見えるが、左側から美晴さんに腕を抱かれており、右側からは手つながれたまんまである。

「天気に負けてられない愛情の持ち主ですので」

「そーそー、レナ先輩と会うまでさと君成分、たっぷり補給しとかないと」

「ここで急に意気投合か?ここは正妻マウント取ったりする場面じゃなかった?」

「現実はそう上手くいかないのー。愛しの旦那様がある日セフレ如きにコロッと……なんてよくあるみたいー」

「割と高頻度で見かける現実ネタ混ぜないでいただけませんか? 脳が破壊されてしまいます」

たまにネタじゃないモノが飛んでくるから反応に困る時がなくはない。

「ですので、その前に智様を虜にしておかないと気が済みません」

「カード渡した理由それでしょ? まず金銭的なとこからー私なしでは何もできない身体にしておくー」

「打算的なモノ込みで渡したとは思ったけど共依存ワンチャン狙うのは視界になかったぞ」

何だその新手のモラハラは。

カネハラか?

「金の前にまず住処からでしたよ? 手配したのはちなみにお嬢様です」

「名義は美晴に譲ったけどねー。フェアにしよって約束したんだー」

「頭大丈夫か? 今日のデート先、病院にしとくか?」

「わたしはもう手遅れって言われております」

「主治医がお母様に『どうか結愛様にまともな恋愛観を!』って泣きながら懇願してたのウケてたー。手つける順番間違えたでしょーってw」

「おじさんに相談した方が希望あったんじゃね? もうそっちも手遅れっぽいけど」

警察の偉い人って頭凝り固まってるイメージが濃いけど結愛のお父さん、健太郎おじさんは違う。

ハーレム計画の影響もろ受けの後遺症か?

二番目か三番目の彼女と付き合ってた辺り、偶然出くわしたことがある。

「何番目まで行くか楽しみだ。ちなみに俺は12まで行った後、付き合いスキップされて結婚したぞ」って笑いながら話してたっけ。

通りすがりの人たちからただならぬ視線を感じるが、知ったこっちゃない。

両サイドの女性陣もそれに完全同意で、離れるどころかさらに密着してきた。

「改札通る時、離れるこの一瞬が切ない……!」

「お嬢様がまともなことを口に……!」

「しばくよー?」

「かくいう美晴さんにさらに密着される俺、役得」

「ハイハイ、離れよーねー」

「やめてー!」

結愛に無理矢理引き離されて、それぞれ改札を通る。

で、すぐ元の位置に戻る二人。

「むっふっふー」

「……♡」

なんだかんだ可愛い反応みせてくれているので、俺もまたつられて嬉しくなる。

「こっちよー」

「うぃー」

「ふふっ」

三人で電車に乗り、運よく席に並んで着席。

「ここからどれくらいかかる?」

「五駅先です。都会のど真ん中でございます」

「ざっと十分弱ってとこかなー」

四人で楽しむには申し分はない立地だろう。

やることは色々あるけど、なんか引っかかる。

「まもなく——」

「参りましょう」

「へっ」

美晴に引っ張られ、反対側にあった結愛の手を反射的に掴み三人仲良く降りる。

「びっくりしたー急に手掴んだけど何ー?」

「あれ? そうだったか?」

「きゅんっ」

「きゅんとなるポイントおかしくありませんか?」

「だってさぁー? もうさと君の無意識に私の存在が刻み込まれてるってことだよ? 今すぐホテルにデート先変更ね」

「をぃ」

無意識が結愛を求めて手が先に出たのは紛れもない事実だけど!

この察しの良さは数年立った今でも慣れない。

つーかこのままじゃレナ先輩が捨てられる。

「智様には指一本触れさせません」

「さと君が触れるのはいいんだ」

「なんならわたしからで構いません。お嬢様のために……」

「婚姻届出した辺りからわりとダシに使われてない? 私」

「いつものじゃないか? とにかく移動するぞ。先輩からレイン来てる」

「放置、か。これはこれで……」

いつもポイントがずれている結愛である。

「テレ顔、可愛かったぞ。結愛」

「——っ!!」

「せんえつながらですが」

「うん?」

「こういうの見越したハーレム計画かもしれません」

「なんか複雑ね……」

「???」

勝手にうんうんと納得されてるけど、なんでだろう?

ま、後で聞けばいいか。

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