第28話 束の間のダジャレ

うっ……」

「さと君―! 私がわかりますかー? 愛しの嫁ちゃんですよー」

「おれ、式あげるまでけっこんしてない……」

「……もう式上げちゃえば彼女枠とか愛人とか蹴落とせるのでは?」

「現実的になっちゃダメ、わたしにもおすそ分けって約束―!」

「……うっ」

頭痛が痛いってこのことだろうか?

様子を見る限り寝室で一人で寝てたと思うけど、何があったんだろう。

「さと君―! 明日式あげちゃうよ? いいって? もしもしお父様」

「俺なんも言ってねーから」

「ちぇー」

「俺、なんで寝てたんだ? つーか夢の中マジショックだったわ」

「どんな夢だった?」

「レナ先輩。まだ帰ってなかったんだな……」

「ひどい! 初めての女性をぞんざいに扱うなんて」

「今度こそ風穴空けるわよ?」

ヒィってわざとらしいビビり方だな。

結愛なんていつの間にか抱きしめてきているし。

「夢の中でさ、兎和(とわ)っていう子にコクられたけどさ」

「ええ」

「そいつがさ、なんか大学の三大美女? みたいな立場の高嶺の花みたいな娘だったけど」

「うん」

「告白受けて付き合うことになったけど、次の日からなんかおかしくなったんだよ」

「……夢の中でも浮気カウントはあるわよ?」

「お前、この前めっちゃ可愛い女の子にコクられる夢見てたっていってなかった?」

「コクられたと告白受けたは違うわね? 女性になっても私は大いにありだけど?」

「それいいかも」

「先輩がそこで頷くか。いよいよ転生したのか?」

「まだしっかり生きているから。それで?」

返答しつつ続きを促すレナ先輩に、拗ねポイントにヒットしたのか結愛が軽くいじけて胸元にのの字を書き始めた。

顎しゃくって同意の意を示しているけど……前より仲良くなってないか?

「その日から続く付きまとう目線」

「急にストーカーヒロイン登場の導入っぽくなってるよー」

「まんまだからわざと言った。それを兎和に相談したのに何故かつめたくあしらわれた」

「クズ女だねー。安心安全の結愛にしとく?」

「……そもそもお前公認の浮気だった。気がする」

「トラウマが夢に影響及ぼすってあるかな?」

「大ありだよー。なんならこれ予知夢の可能性まであるかも」

「まっさかー」

「で、舞台が急に浜辺に変わったけどさ」

「ええ」

「一目の多いところでぶすりと刺された」

「……」

「さとし君……」

「今度は心臓あたり、無意識に結愛って名前読んだら急に刺したやつの顔が結愛と二番目の女足して割ったみたいなキメラになってた」

「どういう顔よ! 何その女、わたくしというモノがありながら!」

指先が描く字がのからやになった。

なに意味してるんやーい。

「そこで目が覚めたの?」

「多分、目覚めたら結愛の顔見れてほっとしたよ」

「私も、ですわー」

「っ、くすぐったいじゃねーか」

「トキメかせた仕返しだー!」

「キミにも照れるって気持ちあったの?」

「さと君限定でありだよー? 樹海、行かせてあげてもいいけど?」

「それ移動費が死体処理費よりかかるパターンだよね?」

「もったいないから殺せなーい。さと君」

「ああ」

「もう大丈夫そ?」

「まぁ、大体は思い出したけどなんで倒れたんだ?」

「え?」

「なんか元カノとチーズコードした辺りから記憶があやふやで、結愛がすごい心配げな顔してたのは覚えてる」

「……」

「後怖い顔もな。久しぶりに見たぞ」

「さとし君。あのね……」

「トラウマになったのー」

「結愛ちゃん?」

いつの間にか動きが止まっていた指先に力が籠る。

「刺されたからトラウマなったーってよくあるみたいだよー」

「俺、倒れたのか? 倒れる前、なんか言ってた?」

何となく思い出しつつある記憶にしがみつき、疑問を口にする。

が、何か言いたげなレナ先輩より先に否定を口にした結愛だった。

「倒れてはないけど、目は焦点が合ってなかったしすごく震えてたよ? だから寝室に運んで休ませた―」

「心配かけたな。ごめん」

「さと君が謝ることじゃないからー」

「あの女だったら支離滅裂な呪詛ばっか唱えてたー」

「絶対ちが、うっ……」

「無理矢理思い出さなくていーから」

「名案、思い付いたよ?」

「わたしが思いついた、でしょ。乗っ取り禁止って言ったのキミだから」

チッと盛大に舌打ちが部屋にこだまする。

不服なのだろう。顔は初めて出会った頃を浮かばせる冷たさが漂っている。

「で、その名案って?」

なんか躊躇いがあるんだろうか?

ぐにょぐにょと変な踊りを始めた結愛。

「三人でデートしようよ」

「は?」

「チッ、この女」

やっぱ愛人枠なんか……ってなんか呟いてるけど、倒れている間になにがあったんだろ?

「えっとね——」

順を追って説明してくれたものの、気絶上がり直後の脳には大きすぎる情報で。

けどやるしかないと思う俺だった——。

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