第23話 メンヘラにブロックは厳禁

「もしかしなくてもブロックかミュート、愛用してる?」

「そうだけど……どうかしたか?」

「これ見て」

「えっぐ……」

「へー」

「これは……」

三者三様の呆れっぷりだ。

当然だろう。

フレンド申請と共に元カノを思わせる文章が書かれているが、どうしても理解できないところが一つだけある。

『どうして無視するの? あの日の返事、毎日要求してるけど』

「はい、これも見て」

「「「……」」」

3人全員言葉を失ってしまった。

それもそうだろう。

ブロックしたアカウントのメッセージという蘭が元カノの呪縛の文字で埋め尽くされていたからだ。

「どうなの?」

「あーその、ブロック愛用するかどうか、か?」

「うん」

「バッチリ愛用してました。なんなら目障りだと思ったら即ブロしたまでありました」

「やっぱりね……」

はぁ……とまたレナ先輩の口からため息が漏れ出た。

「私のさと君に非があるとでも言いたいようね? レナ先輩?」

「智様に責任転嫁ですか、甚だしい。二度と遭わせないことも可能ですよ?」

「拗らせ系ガチ恋ムーブやめて……そうじゃなくて、ため息ついたのは現状の方」

「妄想に加えて謎の固執まで生まれちゃってるよ? これマジで下手したらさとし君ストーキングフラグありだからね?」

どーしよーって呟いては頭抱えてうんってうねり始めるレナ先輩。

結愛が淡々とした声で「出すわけないでしょ?」とツッコミを口にしたものの、脊髄反射で言っただけだろう、表情は深刻なままだ。

「なんならうちの組員を連れて行けばいいじゃない」

「妄想気質持ちの厄介メンヘラって飛んで火に入る虫と同じで、目の前の事象にしか情報が入らないらしい……メンヘラに付きまとわれてる友達がそう言ってた」

「周りに素敵な男の子いるじゃないの、その子に乗りかえちゃえば?」

「わたしも一応ね、どっか壊れてるみたいでさ? さとし君以外の男子は寄せ付けたくもない。それにその子、女子だよ?」

「尊いもののはずが急に怪しくなってきたな……百合ってもっと穏やかに情感交わる? ものじゃなかったのか?」

「とげとげしいやつもあるらしーよ、気に入ったミツバチにしかつぼみ開かないみたいな」

「要するにねこのメンヘラ女、何しでかすかわかんないって話だよ」

「雑なまとめ方ね」

「人には一定の行動パターンがあってそこから予測するか対策立てるかだけど、このメンヘラ女はさ? 予測が全くつかない」

「そういえば智様はなぜこの女をブロックしたんですか?」

「はっきりは覚えてないけど……チャットのログ見れば思い出せるかも」

ブロックしても履歴は消さない。

ふとした瞬間読みたくなるとか念のためではない。

ただブロックして削除するまで至れてないだけ。

要はめんどくさいだ。

しかも普段使わないアプリだ。

まぁ、今回はそのおかげで役に立ってるからいいが、いつか治すかな。

「これは……」

「思い出したわこのクソ女、数分見てないだけでヘラってたのがうざくて二択でブロックしてた」

チャットを見返して思い出した俺はうんうんと頷きつつ説明。

対する三人はチャット見るなり絶句してた。

「付き合う前、依頼主とクライアント関係だったけど、よく作業通話? とかやってた」

「やたら他のメスと通話する頻度が上がってた辺りね。私との時間が減ってたから覚えてるわ」

「お詫びに寝落ち通話欠かさなかったぞ?」

「むっ~」

肩を顎に乗せて不満そうにしている。

どんな女性と関係を持つ際にも必ず結愛に報告という旨の通話とデートは欠かしてないし、条件にも含まれていた。

しかし、このメンヘラ女はやたら通話にこだわる姿を見せていた。

結愛はそれが不服だったらしく、寝落ち通話を提案。

寝息より声が聞きたかったらしい結愛だけど、自分の無茶に付き合わせているからと渋々了承したものの、いまだ引きずってるところがあるらしい。

抱きしめてもフグの鳴き声みたいな声が返ってきてる。

ご立腹な嫁(公式)を腕の中に続きを口にした。

「立ち絵。いわゆるVの元のイラストは既に提供しているけどこの女は替えの衣装っていうかバリエーションを事前に要求してきた」

「そういうものでしょうか?」

「人によるらしいよ。俺はVの依頼はこの女しかなかったんで詳しくは知らんけど……とにかく、俺は衣装の作業、この女は台本の作業しつつ電話してた」

「内容はまぁ何のたわいない、たまに会話のキャッチボールして作業の音だけ響くかどれぐらい進んだか聞くぐらい?」

「どこにもヘラる要素が見当たらないのだけど」

腕の中の結愛の意見に美晴さんがうんうんと同意の意を示す。

「顔合わせは依頼来た翌日に済ませてたからな。顔見せろとか要求のものでもない」

「そうだね。文字だけみたらプライド低い彼女まんまだし」

「通話して作業するのは向いてないからやめようって言ったら翌日からメンヘラ構文っぽいのが届くようになってた」

ログをもう一回振り返る。

【通話、何故出てくれないの?】

【私みたいなやつと電話したくないよね、つまんないよね】

こういうものは序の口で。

【ねえ、声出さなくていいから繋ぐだけでもしてくれない?】

【素敵なイラストをありがとう! だから通話しよ? ね?】

【レイン、どうして確認してくれない? 遅くない? ねぇ】

【配信終わったよーおかげで登録者数凄く増えた! 記念通話!】

【ねえ、もしかして作業じゃなくて他の子と遊んでるとか、ないよね? そうだよね?】

「配信にも参加してたのね。覚えているわ」

「チャットに顔出ししただけだよ」

「で、連絡はレインで済ませるしこっちにしかメンヘラ構文飛んでこないから即ブロックして翌日顔合わせて言ってやった」

「肝据わってる方向がおかしい。どうなったの?」

「『正直に話してくれてありがとう。迷惑かけてごめん』ニュアンスで言ってたな。だから気づけなかった」

「そこに繋がるのね、私も思い出したわ。声色も優しそうでおまけにVTUBER、絶対経験値稼ぎになるから付き合えって背中押してた」

「わたしもお嬢様の隣で声だけ拝聴させていただいた限りでは同意見でした。疑う余地が見つからなかったのでしょう」

「話をまとめよるね? あとさとし君から離れて」

「嫁に指図しないでもらえるかしらレナ先輩? 殺すわよ」

「わたしも彼女ですので、いいんじゃないかと」

ぴとっと腕を抱きさりげなく胸を押し付ける美晴さん。

慣れって怖いな。

身体のアプローチがいつの間にか日常の一部になっている。

「そのままでいいから久しぶりにチューいい?」

「いいわけがないでしょ? 続きなさい」

ぐぎぎっと肉声でレナ先輩が悔しさを全開している。

これ現実で言う人いるんだ。

「これリアルで言う人いるのね」

結愛と目線とサムズアップ交わし合う。

まったくもうという顔で隣から見つめる美晴さんと、さらに悔しかっただろうか、レナ先輩がわざとらしく笑顔を貼り付けて続きを口にし始めた。

「そのメンヘラ元カノって妄想を拗らせた挙句、完全に盲目状態になってるってみていいかな」

「みたいですね、智様を刺した分際で身の程もわきまえず再び連絡を取ってこようとは」

「それは見え方で結果じゃないよ」

「と、言いますと?」

「何が言いたいんだ?」

「あー、私は何となくだけどわかったかも」

「結愛ちゃんが説明する?じゃあ」

「いいえ。あなたに預けるって前、言ってたでしょ? 続けて先輩」

ありがとうと口だけ動かして説明を続けた。

「単刀直入に話すね。この女は転生を言い分にすぎず、さとし君と

ワンチャン狙ってる」

「そこまでは予想つくし、それ狙いの連絡のダシにステメ変えただろ?」

「過去の会話を見て確信ができたよ、この女、妄想癖は昔からあったけどさとし君との付き合いで何故かさらに重症化した」

「メッセの内容も『別れた被害者』ではなく『結婚いつ公表する?』みたいなノリ。ブロックされたこと自体水に流したせいか記憶にすら残ってないみたいだけど……」

「電話して直接聞いてみた方がいいんじゃないかしら?」

出すかどうか迷っていた言葉を口にしたのは結愛だった。

「意外だね。そんなこと言うなんて」

「状況証拠だけでは埒が明かないからよ、それに」

「それに?」

「さと君は出さないって言ったけど、通話する予定だったわ」

「証拠を残すためか?」

「それもあるけど、あぶり出すためね」

「あぶり出す?」

「ありがとうレナ先輩。おかげで方針が大体決まりそうね」

「美晴」

「はい。智様、スマホを少々拝借させていただいてもよろしいでしょうか」

元カノと確定したやつのフレンド追加リクエストをタッチ。

なにか対策しようとしたのか、スマホを持ったまま奥の部屋へ向かおうとした立ち上がる美晴さんだったけど、凍り付いたまま結愛に視線を送る姿勢になっていた。

部屋中に鳴り響くチーズコード着信の音。

追加した途端、電話かかってきやがったな。

「いいわ」

みんなで顔を合わせ、頷きあう。

美晴さんが受信アイコンをタッチしてスピーカーモードに切り替えた。

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