第22話 嵐の前の静けさ?

なんでそこに繋がるんだ?

俺がバカだから理解できないのか?

「VTUBERって都合悪くなると転生しがちって先ほど言ったよね?」

「ああ」

「今、彼女のチーズコード垢は残ってる?」

「初接点がそれ経由だから残している。それがどうした? オフになってるわ使い捨てって契約の時言ってたわで多分連絡届かないぞ?」

それなりにイラストが描けるから提供してもらえるかってことでチーズコードで接触されたのがきっかけではある。

「大事なのはそのアカウントが残されているかどうかだよ。チーズコードは接続してるかどうかなんて簡単にごまかせるの」

「彼女が人気を得たのはVTUBERとしての実力もきっとあるよ。しかしその原動力には“イラスト”も含まれる」

「「「あ……!!!」」」

レナ先輩が示唆するものが脳内で点から線となって一つの形の成し、感激の声が三人、綺麗にハモった。

「つまり、あのメンヘラ女は転生のため、絶対さと君に連絡するし、連絡手段はチーズコード一択になる」

「おまけに今、確認のためわざとインしたことで智様がこのアプリを消してないことを知ったと」

「さとし君と別れた原因も掘り下げていくと承認欲求が満たせてないに直結するしねー」

「さとし君」

「ああ」

「そのアカウントで繋がってる人って何人くらいいるの?」

「結愛と元カノのあいつ二人だけだ」

「じゃあ次、連絡来たら絶対元カノ確定かな」

「そうそう、他のSNSでは仕事受け付けているという旨のキーワード、まだ残してるの?」

「んー、どれも残してるままだな。うん、さっきもメールで依頼来てた」

「私が跳ねたから無視でいーよ」

毎朝、依頼メール飛んできていて確認しようとしたらいつの間にかやりませんって返事返してたけどお前の仕業だったんかい。

「ちょっと携帯、借りるね? メッセージ修正しといた方がいいかなー」

「何してるんですか? 智様のアカウントでまさか」

「下手に刺激するほど脳みそ空っぽじゃないでーす。っと出来た」

数回ポチポチと俺のスマホを操作し、すぐ手元に返ってきた。

「何したんだ先輩」

「ステータスメッセージ。ステメの編集をちょちょいっとねー、仕事受け付けてますって旨に変えといた」

急にごほんっとマジメな口調に変えて、続きを口にするレナ先輩。

「情報を元に推察した通りなら今週中には絶対連絡が来ると思う。連絡が来たら敢えて無視して放置しておくこと、わたしを呼ぶこと。いい?」

「何故あなたを呼ばなきゃいけないのか、納得いく説明をしていただきたいんですが」

ツッコんだのは結愛ではなく、美晴さんからだった。

相手を射抜くような鋭い目つき。

俺の中のデフォルトと言っていい彼女がそこに立っていた。

改造メイド服に袖を通してもなお凛とした立ち振る舞い。

これはこれでいいな。

「仕事できるメイドって案外そそるものがあるな」

「ねー。しかもミニスカに改造したメイド服ってたまんないよねー」

「智様、お嬢様も! マジメな話の最中でございます、メっですよ!?」

「一言申し上げたいんですけど……」

「大体察してはいるけどおやめなさい。犯されかねないわ」

「そんなー……」

パタンと膝から崩れ落ちて両手で床をつく姿勢になってしまった。

思い出すよな。あれは確か……。

「今、とても浮気に近い波動を感じ取ったのだけれど?」

「き、キノセイデス」

他の女のこと考えたでしょ?ってまさにこういう状況か?

即気づくあたりさすがというか、マジのヤンデレっぽかったと言うか。

「わたしってこっち方面でかなり頭使えるって今の説明で証明できたよね。それに」

「それに?」

「こういうメンヘラってね、わりと放置に弱いの。どんな反応するのか楽しみでもあるよー」

「さとし君ぶっ刺した女ならなおさら、ね」

「わかりました。お嬢様、いかがいたしましょうか?」

「そうねー」

上体をいつもののんびりボイスとマッチしない炎が揺れ動くような錯覚を呼び起こすような瞳で、レナ先輩に問いかけた。

「進展が見えたら連絡するわ。ただし、今回も空振りだった場合は」

わざと一回、言葉を区切っては続きを口にする結愛。

「さと君に今後、接触禁止よ」

「そんな、横暴すぎるよー! さと君もそう思うよね? ね?」

「……なんて普段っぽくふざけたいけどね、なりふり構ってられない状態か。いいよ、乗ってあげる」

「交渉成立ね」

レナ先輩と結愛はが立ち上がり、がしっと握手を交わした。

万が一うまくいかなくても粘着質化したレナ先輩が連絡を取ってこないとはとうてい思えない。

まぁ、結愛もバカじゃない。

そういう後ほど自分に降りかかる不利よりも俺を刺したあのメンヘラがどうしても許せないんだろう。

隣で「承知いたしました」と真剣な声を綴る美晴さんもそうだ。

俺のためにここまで真剣に動いてくれている。

胸の奥底に揺らいでいた炎が一段と輝きを増した。

ギギギと室内の空気を涼しいものへと循環させるエアコンの音は、いつも通りでもあり、けれどいつもと少し違う空気を運んできたような気がした。

・・・

その日は一度解散という形となり、数日後のとある平日の午後。

「レナ先輩?」

「それか美愛さんか二択だろ」

ソファのどっかしらに放置していたであろうスマホに向かい、椅子から立ち上がり、思い当たりを口にする。

イラスト案件っぽい依頼はメールにしか届いてない。

チーズコードは昨日までは反応なし。

「ねえさと君」

「なんだ?」

「レナ先輩も誘わない?」

「……暑さにやられたか? 医者に連絡しとく?」

「この場合、119なのか112なのか迷いますが……どちらにしときます?」

「んー、前者一択か。目の前で自称ヤンデレ嫁逮捕されるのもいい気分はしない」

「お嬢様が留守の間、この美晴が責任もって智様をメロメロにするという計画が幻の絵となりました」

およよってわざと泣くふりする美晴さんに結愛がチョップ。

「あのね、私をどんな人間だって思ったのー?」

「未来のため別の人と付き合わせては自分にすり替えて慰めるクレイジーガール」

「情緒ヤバいどころか道連れにして共依存ワンチャン狙うサイコパス女」

「単語は違えど意するものは同じ。日本語の神秘ね」

しれっと逃げやがったな。

なにか文句ぶつけようとしたけど正論パンチに回れ右される典型的なパターン。

「呼んでいいなら呼ぶ、三人一緒もいいけどたまには違う何かがしたいよ俺は」

「外でデートするという手もあるよー? 引きこもりになっちゃった? 私にどっぷり依存しちゃう?」

「今日から三人共々吸血鬼の末柄でございますね♪」

「天気予報見たか?」

「見てない」

「チャンネル登録しておりませんので」

「現代っ子の鏡かお前ら」

かく言う俺も他人事は言えない立場だ。

受信料は無駄に高く興味もまぁ薄い方なのにやたら来るチャンネル営業マン。

うんざりしてテレビ捨てても来るもんだから厄介すぎる。

その頃から結愛と行動してたもので、見る暇もなかった。

「言ってるのはアプリの方だよ。今日37度超えるらしい」


天気アプリを開いて本日の天気情報を見せるべくロックを解錠しようとしたところ、とある通知が届いている事に気づく。

ロック画面越しに、履歴を確認し、わざとタッチしてもう一回確認。

これは……。

「さと君?」

「智様?」

「レナ先輩呼ぶぞ。作戦会議だ」

後から振り返ると史上一悪人顔記念日って呼ばれただろう。

と自分でも思えるほどいやらしい顔つきをして、ふたりにチーズコードが開いた画面を見せつけた。


「連絡あったってほんと!? やったじゃーん! 褒めてさとし君」

「ありがとう。全部レナ先輩のアドバイスのおかげだよ」

「昔みたいにレナって呼んで頭撫でて」

「レナのおかげで進展あった。ありがと」

よしよし、と昔みたいに優しく頭を撫でてあげる。

両サイドから死ぬほど殺気飛ばしてくるけど無視だ無視。

ほめて伸ばす。これ超大事。

「こほんっ」

「いい加減は・な・れ・て・く・だ・さいっ」

「おっ」

「きゃっ」

力づくで無理矢理引きはがして自分の腕の中に誘う美晴さん。

なるべくそれっぽい風を装っただけでかっさらったに近い。

対して突き飛ばされたレナ先輩は、カーペットの上に尻もちをついた。

「痛い! ひどいじゃん、人を突き飛ばすなんて」

「人聞き悪いわね、美晴はボディーガードの役割を果たしただけよ?」

「泥棒ネコは情緒によろしくないので」

抗議してもおかしくないけど、相手が結愛に美晴さんだからな……。

当然一蹴されてしまった。

「あの女なんか言ってきたの?」

「無視されてぴえんってなって垢変えて連絡しましたって書いてる」

画面を表示させてみんなに見せる。

つっても結愛と美晴さんに既にサンドイッチにされていたのでレナ先輩がこっちに寄ってきただけだ。

「これって難癖じゃないのー? さと君無視してなかったじゃん」

「その通りでなんなら恋愛の最中かのようなソワソワっぷりを見せる程でした」

不愉快の極みです。とプイっと吐き出す美晴さんに続き口を開く結愛。

「まさかとは思うけど……まだ好きってわけじゃないでしょうね?」

「死んでもないから怖い顔やめて?」

瞳のハイライトが消え去り表情は死んでいるが口だけ笑っている。

いわゆるヤンデレ顔だ。

かなり綺麗よりな結愛だからだろう。

そのいびつさが目立って余計怖く感じる。

「心配しちゃうのはわかるけど、それだけはガチでないから安心しろ」

「はいっ、調子乗ってすいません」

でもそれだけは断じてありえない。

心から想ってくれる相手と承認欲求の権化から向けられるものはわけが違う。

特に別れを告げられ急にヘラって結婚してとか言うくせに行動が矛盾している。

人間の思考ではとうてい理解できない何かだ。

感情が残るはずがない。

「うーん、ちょっとスマホ借りるね」

俺の了承を得てアプリを操作し、何か気が付いたのか天井を仰ぎ見るレナ先輩。

大げさに「はぁ……」とかため息ついてる。

どうした? と聞く前に呆れた眼差しでスマホを返しつつ口を開いた。

「さとし君さ」

「うん」

「もしかしなくてもブロックかミュート、愛用してる?」

「そうだけど……どうかしたか?」

「これ見て」

「えっぐ……」

「へー」

「これは……」

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