第18話 寝取り合戦

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」

「さと君からのキスが羨ましくて脳を破壊されたのね……お気の毒だわ」

「他人事みたいに言ってるけどお前のせいでもあるぞ?」

「嫁だから権利しゅちょーしまーす」

「ったく」

腕を広げ、抱きしめろのポーズ取ってたので抱きしめようとする。

が、

「隙あり!」

「あっ!」

いつの間に回復した美晴さんにかっさらわれた。

「思いがけない僥倖、おめでとうございますお嬢様。でも智様の罰(サービス)の時間は過ぎました。よって残りはわたしが頂戴いたします」

「本音は?」

「智様からのサービス羨ましすぎます、寝取り返した智様成分さいこー!」

「ぐぬぬ、言い返せないから取られるしかない」

美晴さんに抱きしめられたまま首筋をクンクンを嗅いできた。

目の前で見せられて悔しそうな演出している結愛だけど、「ぐぬぬ」と声にわざわざ出している辺り絶対ふざけている。

「すーはー……最高でございます。では次のゲームに参りましょう」

「抱きしめたまんまじゃゲームできないぞ」

「汗流しにまいりましょうか? せから始まる二人組でしかできないスポーツが……」

「ライン越えは許さないわ」

「うぉ!?」

ソファに無理矢理座らせて、コントローラーを甲斐甲斐しく握らせた。

定位置である俺の膝に満足そうに寝転ぶ結愛に対してツーンとしたまま肩にぽんと頭を乗せる美晴さん。

美人の拗ねた姿って結構そそるものがある。

「では参りましょう」

3,2,1とカウントが下りていく。

今回こそ勝つぞ。


「クソ、二回連続三位はダサすぎだろ」

「アイテム使わないスピードオンリーのやつで負けた。ありえない」

「こっそり練習してた甲斐がありました」

それぞれの感想が口をつく。

自分の情けなさに悪態つく俺、勝つため有利なスピード戦に切り替えたものの見事撃沈して驚愕する結愛。

対する美晴さんはブイとあっけらかんとした反応だ。

「美晴。あなた、いつから」

「これが本気度の差、ですよ。お嬢様」

「キイー!」

「煽り文句容赦ねぇー」

「ズルしたお嬢様の自己責任でございます」

「被弾したのは俺だけどな!」

「やーい、ザコ乙―!」

「うっせだまれ! メスガキムーブやめろ!」

スピード戦、弱いんだよなぁ。

昔からどうしてもコツがつかめなかった。

だって勢いついたままはうまく扱えねーんだもん、ザコじゃない。

「こうしてないと私の脳が壊れるから許してー。なんならキスで黙らせてー」

「メスガキから駄々っ子にジョブチェンジか?」

文句を口にして、二人をどかせて立ち上がる。

さて、どこ脱ぐのが効率いいんだろう……。

手袋が無難だけど、今はキープだ。

負けが込むときのため一応キープしとくのが無難だろう。

ズボンもアウトだが、うーん。

やたら視線が下に集中してる気がするからキープか。

「決めた。脱ぐぞ?」

蝶のネクタイを強めに引っ張って外し、上から下の順にボタンを外していく。

これまた俺の体幹にピッタリめサイズで、外すのにも一苦労だ。

「ボタンの結びしつこすぎ」

「へ……」

「……」

最後まで外し、力強く脱ぎ捨てる。

着るのもかなり時間かかったけど、外すのもかなりかかった。

イラつかせやがって。

「これでいいか?」

「「……」」

「おーい」

「はっ!?」

「大変よろしい、でしゅ……そ、その、触ってみても……」

「いや、触るのはナシだ」

「へ?あっ」

「んっ、んんっ……!」

「んっ……」

イラつきから解放されたい一心の行動だった。

身体が勝手に動き、美晴さんのセカンドキスを奪う。

「あうんっ……さとひ、しゃま……!」

「れろっ、んっ」

舌を美晴さんの口内に侵入させ、絡め合わせ、軽めについばむ。

「っぷは」

「あ、はぅっ、すごがた、れしゅ」

腰が抜けたんだろう、その場にへたり込もうとする美晴さんを慌てて抱き留める。

「嫁の前でいちゃラブ禁止―!」

結愛の一言ではっとなった。

後から波のように押し寄せる罪悪感。

やっちまった。

ボタンが取れないイラつきの誤魔化すためだけに美晴さんの唇を奪った。

というのも半分はあってるけど半分は嘘。

ぎらつきを通り越して何かに取り憑かれたような、マンガで例えるならハートが浮かんでそうな眼差しに逃れたい一心で強引に迫った。

「美晴さん、その、ごめん」

「えっ?」

「俺さ、ボタンが取れないことにイライラしてね? その気持ちから逃れたくて衝動的に美晴さんにキスした」

「はぅっ」

「ってのは半分で残り半分は、その、二人の視線から逃れたくて美晴さんに逃げた。最低だろ?」

「はぅっ……」

「美晴さん!?」

「それってつ、つまり……わたしで解消したかったという心の現れで……はうぅっ」

最低なことしか言ってないのに、何故か美晴さんの顔が真っ赤にそまっている。

まるでキャパオーバーしてるみたいに。

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」

「私すら強引に迫られたことナイ。コレネトラレ。ノウガ……!」

「す、素敵な体験を享受いたしましたのでお嬢様のずるには目を瞑ることにしましゅ……」

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」

腕の中で結愛に向けたブイサインを飛ばす美晴さん。

対する結愛の顔は苦痛で歪んでいる。

トドメをそこで刺すか、女の闘いってやつかな。

嫁の前云々して大口叩いてたやつはいずこへ。

「あなたに逃げたみたいなガチ恋誘導発言禁止―! 私も言われたことないわ。許すまじ」

「視姦してたお嬢様に非があります。わたしみたいに清らかな……」

「舌なめずりしてたわよね? 気づいてないとでも?」

「否定はできません」

「ほら! 私悪くないでしょー! このド淫乱エセギャルメイドがやりました! よって私悪くないのでキスを所望します!」

「脳が壊れて精神年齢一桁になったのでしょうか。お嬢様、せんえつながらこれは罰です。ご褒美ではありませんよ」

「罰(サービス)の間違いでしょ?」

「……シャツを無理矢理脱ぎ捨てるお姿、魅了させるものがございました。目が離せないとはこのことでしょうか。こんな女性へのサービスがわかる彼氏様を一人で歩かせるわけには参りません、この先はずっとこの美晴が付き添い管理するしかございません」

「八割方同意だけどね、私が付き添うよー。独り占めは重罪よ?」

自称ヤンデレを主張する二人だけあって、妙なところで波長が合うみたい。

なんて感心している場合ではない。

ぎらついた眼差しが再びこちらを向いている。

明らかに視線の濃度? が変っていた。

もっとねっとりしたような、獲物のサーチでは済まない。お気に入りを洞窟に引きずり込んでいこうとする執念まみれのような……。

「では智様」

「ゲームの続き、しましょ? さと君」

いつの間にかソファに座らされて二人にがっつりホールドされた。

「寒いなー上着脱いでるからか~なんて……」

「「続き、しましょ?」」

「はい……」

渾身のラノベ主人公ギャグもあっけなく撃沈。

全身が警鐘を鳴らしているものの、あいにく自分の指示には従えない。

ここで逃げ出したらマジで犯されかねないからだ。

せめて、身体が万全な状態で挑みたい。

と、生存本能に近い一心でコントローラーを握る俺だった。


罰ゲームはしばらく続いて三人ほぼ裸当然の状態まで続いた。

案の定、負けが込むことになりしばらく最下位を抜けられず、代わる代わる脱衣とキスし続けることになったものの、いつの間にか体調を気にした二人が身代わりを提案。

キスは維持するけど一位が代わりに脱ぐルールとなってしばらくゲームが続行する。

「んっ、はぁ……私のブラ、どうかしら……?」

「真っ白な肌は黒一択派だったけど、白も案外そそるモノがある。勉強になったよ」

「んもう、エッチ。続き、する?」

「ネトリハユルシマセン」

結愛が勝ったら美晴さんが暴走止める役を買って出てくれたり。

美晴さんが勝った場合なんて

「んっ、っっ、れろっ、っぷは……」

「舌入れるの好きになったの? ずっと絡めてくるけど」

「はいっ。虜になってしまいました、舌だけでなくその、他も試してみたいかと……いかがでしょうか?」

「嫁の前で寝取り宣言やめーる」

下に手が伸びようとする美晴さんを結愛が身体を張って引きはがすなど。

罰ゲームという名の三人大満足のお家デートは、全員の腹の虫がなる頃合いになってようやく幕を閉じた。

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