第17話 あの頃のリベンジだ
「続きやるよー。あなたも想いが伝えられて気が済んだよね?」
戻るもどーるといつもの伸びた口調で話している。
脳が破壊されたのは事実だけど機嫌損ねてはない、か。
よかったー。
「はいっ。続きやりましょうー! 今度は智様からのキスがご所望でございます」
「メイド服着てないし、いちいちメイドっぽい喋り方しなくてもいいんじゃないかな」
最初は逆にもっと砕けた喋り方だったはずだけど。
と、聞いてるうちにゲームがスタートする。
膝の上でくるっと半回転してこっち向いて「にししっと」笑って見せる結愛に、中指をプレゼントする。
がぶっと噛まれた。いってっ。
「ボディーガードの仕事に当たる際、どうすれば智様の印象に残せるか悩んだ時期がありました」
「いってぇなぁ、SPってだけで充分インパクトあるぞ? なんなら出会い自体が印象に残っている」
「普通の出会い方ではありませんか?」
「普通っちゃ普通だけどね」
当時の記憶を掘り起こしながらコントローラーを操る。
俺にかぶりついたせいで最下位の結愛とも差は結構開いている。
喋っても問題ないと判断、ゆっくり口を開いて感想を述べ始めた。
「存在自体がインパクトあるんだよ。結愛と出会って告白された辺りだっけ?」
「ええ。そのはず……よ! 待ちなさい! おっぱい見せろー!」
「汚嬢様やんけ」
ツボってミスってしまい障害物にぶつかる俺のキャラ。
隙をついて結愛に追い越された。
「普通の人はSPなんて従わせてないだろ? 結愛が連れてきただけでインパクトやばかった」
結愛と出会い、当たり前な先輩後輩としての日常を過ごして告白と同時にハーレム計画を説明された辺りだって覚えている。
スーツに身を包み結愛から「私専属のSPだよ先輩」って美晴さんを紹介され、挨拶を交わしたのが初めての出会い。
最近の言葉では初エンカって言うんだっけ?
「金持ちだって聞いてはいたけど金持ち=メイドが一般常識だろ?」
「それ私たちがオタクなだけ。普通はボディーガードが先に出るー」
「貧乏な家出なもんで知らんわそんな……あっ!?」
画面に浮かぶ三位という文字に軽く絶望する。
最後の最後で結愛がロケットになるやつを駆使して一位を獲得、一瞬のことで気が動転して誤爆した俺は三位&ゴールしきれずという初心者あるあるを披露してしまった。
「ザコ先輩おつー。いやー勝利の女神って実在してたわー」
「こんなミラクルな負け方アリか? ありなのか?」
「そうです智様の言う通りでございます」
「美晴あなたね……一位になっても今と同じ発言ができんのー?」
「……」
「なんで黙り込むんだ美晴さん。俺の全肯定派じゃなかったの?」
「こう見えて私も全肯定じゃないかなー」
「くっ、一思いでやっちゃってください。智様」
「まぁまぁ、キスは譲れないけどさと君の脱衣シーンは拝めるでしょ?」
拗ねないでーって結愛の一言に美晴さんの機嫌が戻った。
野郎の脱衣なんてそんな興味ないだろうに。
文字通り一肌脱ぐか。
立ち上がり、しゅるっとまずはタキシードから脱いでいく。
「っふう」
「「っ!」」
なんかじっと見られてるからはずい。
ピッタリすぎて脱ぐのがちょっとしんどい。
「ふう。結構脱ぐのしんどいな、これ」
「どったん?」
脱いだタキシードを不良っぽく肩に適当に担いで、無言状態となった二人に話しかけた。
が、反応したのは俺ではなくアイコンタクトしてたお互いにだった。
「ねえ美晴」
「言わないでくださいお嬢様。脳に染み込ませている最中ですので邪魔です」
「わかるわよー。ガチ恋は三次元に限るわー」
うーん、小声でなんか聞こえないけど、目のぎらつきが増してる気がする。
反応貰えてないのって結構辛いものだな。
張り切ってもチャット蘭が空白のままのなりたてのVTUBERみたいな気分。
そういえば、俺は脱衣&一位にキスってルールだっけ?
「結愛」
「ひゃぃっ」
何故かソファに正座していた結愛に近づいて腰をかがめ、親指と人差し指で顎だけ掴み顔だけ上に向かせる。
いわゆる顎クイというやつだ。
「さ、さとせんぱぃ……」
「急な清楚キャラは無理がありすぎじゃないか?」
「だって……破壊力やばいもん……」
「もともと清楚……」と、付け加えて身体をさらに萎縮させた。
こうしていると可愛いな。
散々エロい視線(ガチで怖かった)にさらされてたんだ。
少しだけ仕返ししてやるか。
「いつも隣で支えてくれて、当たり前な日常の一部になってくれて嬉しい。俺のためにいつもありがとうな、大好きだ」
「さとせぇ……んっ、ちゅっ……」
「んっ……」
そっと、唇をついばむ軽いキスから一回舌を入れては唇を離す。
銀色の糸が橋となり結愛と俺を繋いでくれる。
「あの時の返事だ。これでやっと返せた」
「さとせんぱい……!」
告られたあの日の返事は結愛によって止められていた。
理由は至ってシンプルなもの。
ハーレム計画が終わったら聞きたい。
勝手に暴走して誰かを手にかけたくないという頭を疑う発言にゲラゲラ笑って見せたが、心にずっと引っかかっていた。
「もう、無理。クーリングオフは受け付けてやらない」
「法的にも逃げられないし参ったなー」
にぱっと目いっぱいの笑顔はあの頃のまま大人びた印象。
もともと逃す気なかったくせによく言うよ。
言葉にならないツッコミの代わりに、俺も精いっぱいの笑顔を披露してやった。
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