第16話 脱衣レースの真実と、それぞれのご馳走

「始めますね」

「うぃー」

「いいよー」

3,2,1とカウントの旗が下りていく。

GOサインと共に飛び出す俺のキャラ。

よっし、スタートブースター貰ったぜ。

アイテムカプセルからもちょうどいいタイミングで程よいアイテムが入手できて、二週目まで1位でこぎつけた。

その後の三週目に何かが起きるのがセオリーだけど、特段何事もなく終了。

たまに膝と横から「クソ」とか「どけ」など罵詈雑言が飛び交ってたような気がするけど、まぁ勝てたからいいや。

それまで俺は気づいてなかった。

このゲームの本当の敗者が誰なのか。

「勝ったわー! 女神はわたくしに微笑むのよ」

「ち、あと少しでわたしが貰えたのに……!」

本当に悔しいのか、ソファを叩く美晴さんと、対する結愛は「おっほほほー」といかにも悪役令嬢っぽい高笑いになっている。

おかしくないか?

画面に浮かぶ順位は一位が俺、二位が美晴さん、三位が結愛だ。

「さと先輩」

画面とにらめっこしてる俺の鼓膜を叩く、懐かしい呼び方に視線を向けた。

しゅるるっとブラウンのミニスカが「ぽふ」という音を立てて床に落ちると強い力に引きよせられる。

「うぉ」

バランスを崩し、前のめりに倒れかける俺は結愛に抱きしめられて

「んっ……」

「っ……!」

「あーぅんっ、んっ、チュロロッ」

キスされた。

しかもディープな、濃厚なやつ。

「んっ……! ふ、ふふっ、二度目のキス、献上させていただきましたわ」

「ゆ、結愛、これはいったい……?」

「キスってほんっと気持ちいいのねー。何度でも味わいたいわ。それに」

「これから私のっていう印を刻み込むことで、あのクソアマの上書きができた。本当、いい気味だわー」

「わたしが勝ちたかったのに。わたしの初めてで、最高の上書きをプレゼントして差し上げられたのに……!」

ソファを叩きながら「これが寝取られというやつですか……!」と美晴さんが心底悔しそうに呟いていた。

一緒じゃないとこういう見方もできるか。

ハーレムって楽なだけじゃないという学びを得た。

「これが脱衣賭けレースの恐ろしい真実だよー」

「一位は俺にハグ、俺が負けたら脱衣してキス、俺が二位になった場合は何も起こらないんじゃないか?」

「こういう方面は相変わらずにぶちんくずやろーかな。教えてあげましょう」

「はぃ、結愛ちゃん先生―」

ノリに合わせて先生呼びしたらさっき脱いだばっかのスカートで叩かれた。

なんでだよ。あとなぜ頬赤らめてんだよ。

「はじゅかちぃ」と小さく漏らした彼女が続けて説明を始める。

「最初に私はさと君が三位になった時の罰と私たちが負けた時の罰を別々に設定した。おまけに罰の対象はお互いに、この意味がまだわからないのー?」

「罰除けのために最下位は避ける必要があって、二位や一位になっても何もできない。ってまさか!?」

「ビンゴー。さと君が最下位になったら一枚脱いで一位にキス、私達が最下位になったら順位関係なくさと君にハグとキスはその人次第」

「でも私達は絶対キスするぜぃー。要は二位になった女性陣は地獄だけ。さと君のサービスシーンが見せられるか、さと君にサービスしながらキスするか」

「さと君がさと先輩の頃のまんま、にぶちんなところが残されてて助かったー。変わらないところがあってほんとよかった」

まるで自分だけのタイムカプセルの中から取り出して慈しむような、失くした宝物が再び手に入り心から安堵するような音色が、彼女の声に宿る。

「続きいたしましょう。今度こそは負けません」

「復活はやっ。脳の治癒力化け物じゃん」

「負けてばかりじゃいられませんので」

「じゃ、続きしよっか」

いわゆる脳破壊状態から復活した状態から復活した美晴さん。

二回目もアイテムモードで続行することに。

「どいてどいてー!」

「うわっぶないわ」

「なんでもろにくらうんだよー!」

前回とは違い、今回はかなりどぶった。

めぼしいアイテムはことごとく外れて、一位だったらラッキーなやつか、二位だったらまぁ悪くない程度のものしか入手できず一回撃沈。

が、最後の大逆転劇が功を奏して二位に成り上がり、一位だった美晴さんは三位に。

「くっ、さっき言ったまんまになっちゃったじゃない」

その通りだ。

「智様……」

こちらも自分のお嬢様同様、ミニスカからしゅるるっと脱ぎ捨てた。

とてとてと座っている俺の方に歩み寄ってくる。

「あの時から、お嬢様のありえない要求に苦笑しながらも誠実に向き合ったお姿をこの目にしたその瞬間から、あなた様を好きになりました。お慕い申し上げます。わたしだけの旦那様」

「っ!?」

「んっ……」

胸倉をつかまされたまま、自分の唇を押し当ててきた。

そのまま胸とおっぱいが押し当たる角度となる。

「んっ……。さとしさまぁ……」

「んっ、あむっ……」

結愛とは違う、戸惑いがある拙いキス。

けれど、自分の想いをぶつけるにはこの上ない最高の伝え方。

心から想う相手に初めてのキスを捧げる時特有の仕方、だと俺は思っている。

結愛と俺の初めての時そっくりだからわかる。

「ぷはっ……」

「……いつから、好きになってたんだ?」

「先ほど申した通りです。自覚は二番目の彼女と付き合う頃、でしょうか」

慈しむ眼差しを向けて、彼女の口がそっと開く。

「“あなたが大好きだから私以外の女で経験積んできてよ”って正直イかれてるじゃないですか」

「サイコかと思ったわ最初は」

「寝取られた。わたくしの、ダンナサマ、かのじょごときに……」

「脳が壊れてしまわれたのですね。おかわいそうに」

「あなたがやったでしょうが……」

「それに聞き捨てならないよー? 一生忘れられない告白だったはずなのー」

「そりゃそうだろ」

んなサイコチックな発言、普通のやつだったら相手なんかしない。

そういう俺にとって、結愛の告白は確かに彼女の言う通り忘れられない告白だった。

俺たちだけの宝物だったりする。

「……?」

「もうすぐ話してあげるから、まずは続き話して?」

「はいっ」と、満面の笑みを浮かせた彼女は想いを紡いでいく。

俺だけに届けるために。

「そんなお嬢様の無茶な要求に、悪態つきながらも真摯に向き合うその高潔なお姿に、心を惹かれ、気が付いたら沼にハマっておりました」

「たったそれだけで?」

「言ったでしょ? 私たちの恋って、そういうものだって」

「誰かにとっての当たり前は、誰かにとって最高のご馳走なのかもしれません」

「わたしにとって最高のご馳走は、わたしとあなた様とお嬢様三人で未来を歩むことでした。その願いにやっと手が届いて、こうやって想いをお伝えできたことが心の底から嬉しいのです」

知らなかった。

美晴さんにそんな気配はないと思い込んでいた。

「いつから気づいてた?」

「七年くらい前、かな? 何となく察しがついて話してみたら案の定ね」

「てかさと君常識的に考えてさぁー好きでもない相手の部屋に監視カメラ仕込むと思う?」

「あれ仕込んだのお前だろ?」

「指示したのは私だけど実行は美晴よー。この子ったらいつの間にかヤンでたよ? いやー嬉々として盗聴器まで率先して仕込む時は私もピリッと来ちゃったー!」

「そこはぶるっとじゃないの? なんで?」

「愛してる人の声って四六時中聞きたいもんだよ?」

「同意いたします」

重いですけどと言い、美晴さんが微笑んむ。

視線を向き合わせたまま、相変わらず俺の上に覆いかぶさる態勢のままである美晴さんをさりげなく引きはがさせた結愛がゲームの続きを促した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る