第14話 貞操をめぐる勝負
二人の言い合いを眺めていた美愛さんは「お熱い三人の邪魔になりたくはないので」と、間もなく退場した。
しっとりしているが心が温かくなる雰囲気は美愛さんの退場と共に完全に姿を消して、いつものほんわかした雰囲気に室内が満たされる。
俺はソファに座り込んでスマホをいじっており、対する結愛と美晴さんは両サイドに陣取ってゲームをやっている。
強制的に借金を強いられて泣く泣く返済しつつ、家を立てたり魚釣ったりするスローライフの闇が垣間見えるゲーム。
ようするに林なんちゃらっていう全国民周知のゲームだ。
……わざとクレーマーっぽい言い方してみたけど、どれも否定できないのなかなかえげつねぇ。
「ねえ、さと先輩」
オレンジ色と茜色の狭間を揺蕩う太陽が誘う心地よさをぶっ壊すには、充分すぎる一言。
「勝負しよ?」
「何賭けて?」
「さと先輩の裸写真かけて」
「します!」
「またはさと先輩とのしっとりねっとりとしたひと時をかけてもいーよー」
「ああお嬢様、ごめんなさい。不肖、この秋月美晴はお嬢様より先に処女を卒業させていただきます」
「ぶち殺すわよ。さと君で卒業するのは私が一番目、あなたは二番目」
「三人一緒つったやつ死んだか?」
発言者が暴走してどうすんだ。
「要はお嬢様はこう言いたいんです。「いい加減ご褒美ほしい」と」
「わかってるじゃなーい」
「わかるやつが抜け駆けしようと?」と、またやいのやいの言い始める二人。
まだ腹にチクチクとした痛みは続いている。
俺より俺に気を遣っている二人だ。冗談で言ったんだろう。
目がぎらついているのも……きっと俺を慮った上でのことだと信じたい。
「負けた人が抜いでいくゲームはいかがでしょう」
折衷案を出したのは未だ肉食獣の眼差しをした美晴さんだった。
「わたしたちばかり美味しい思いをするのは不公平ではないかと」
「さと君が脱いでも私の脱ぐ姿を見せられるのもどっちもご褒美だよー? 公平なんてなくない?」
「そこには同意いたしますが……ごほん。わたしたちの出せる最大限のエロい脱ぎ方で脱ぐのはご褒美になられるのではないでしょうか?」
“智様に脱がされるのは禁止で”と釘を刺す美晴さんに盛大に舌打ちする結愛後輩さま。
いうて発言してる本人も口元は笑ってるけど目が死んでる。
涙まで流せるほどか?
「では智様。着替えてきていただけますか?」
「別に部屋着一着だけでいいのでは?」
はぁ……とため息つく美晴に、隣に立ってる嫁(ガチ)が腕組んだままいかにも「わかってないなー」を滲ませる口調で話してきた。
「えーと説明するねー」
「ああ」
「さと君さー。何重に着飾っているおしゃれな服と、近くのスーパー行く時使うクソダサTシャツ。どっち脱がせたい?」
「前者一択だろ。舐めんな」
「ちなみにクソダサTシャツにさと君BIG LOVEって書かれてたら、どっち選ぶ―?」
「前者一択。重い」
「そんな!?」
「と、とにかくそういうコト」
「つまりあれか? 脱ぐ回数=恥じらう回数なのでその分そそると?」
「せいかーい。特典でもう一個教えちゃーうとね? 重ね着だったらーどうしても服同士絡め合って脱ぐ時チラ見しちゃうのがたまんないからー」
「立派に育ってくれてお兄ちゃんは嬉しいよ」
「エロスにも見目あるからねー私」
「でもお前が言ったのは美少女限定だ自称アホ嫁。男にそんな需要はいらん!」
「違うぞ! 監視という言い分でこっそりつけてた盗撮カメラに映ったさと君脱衣シーンのエロさは本人以外しか知らないね!」
「そこにはわたしも同意いたします。素敵でしたよ? うふっ」
「ひょえっ」
またぎらついた目線をこっちに向ける二人に、身体が勝手にぷるぷる震え出す。
公認嫁&自称彼女コンビすごい。
「今ふと思ったんだけどさ」
「どしたの? エアコンもう18度に下げたけどそれより下げてほしいー?」
「一刻も早く着替えて来てください」
「はぃっ……」
何も言い出せなかった。
従うしかない。
俺が役得するはずのイベントが、いつの間にか逆転してる気がする。
どこで間違ってこうなったんだろうって物思いにふけながら渋々着替えて、戦場に向かうしかなかった。
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