第11話 襲来

「コンビニ行ってくる」

三人でデートからはや数日。

だんだん本気を出し始めた太陽に負けて、今日も部屋でだらだらと過ごしている。

「今日は私が行く?」

「いいえ、お嬢様は部屋で留守番をお願いいたします。こういう付き添いはわたしの仕事ですので」

「へー本音は?」

「たった十分で構いませんので智様と素敵なひと時を堪能したいのでお嬢様にはご退場いただけるかと」

「ひっど、主人に言うセリフじゃなーい」

「喧嘩すんな、ここは俺ひとりで行ってくるということで……」

「「ダメ(です)!」」

「ですよねー」

俺がこの部屋に住むことになってから、いくつかルールが追加された。

基本自由だけど、出かける時、二人のうち一人には必ず出かける旨を伝えること。

また、出かける時、必ずひとりは連れて行くこと。

もしも一人で出かけようものならまた部屋に閉じ込めて二度と日の光は浴びせてくれないそうだ。

これは近場のコンビニも該当する。

他にもスマホの連絡先や通話履歴などが閲覧できるアプリを入れられたり、小型GPS?みたいなやつを歯につけられたり(違和感はなし)色々あるが、一応納得している。

風穴空かれてたんだ。

しかも部屋に侵入されてだ。

実質監禁に近しいけど、無理もない。

それらを除くとなり自由にしてもらってるしな。

「じゃ、今日は美晴に譲るわー。私、やり残したクエストあるから」

「すぐ支度いたします」

「うぃー。そうだ、なんか欲しいのあるか?」

「んーチョコアイスと、菓子折りひとつお願いー」

「菓子折り? 誰か会いに行く用事とかあったっけ?」

「ちがうちがう、もうすぐお客様来るのー言ってなかったっけ?」

「初耳だな」

「かく言う私も連絡貰ったの今朝だったけど……」

「そういうなんて言うの、お前の見回りのチェック? 管理? なんて美晴さん担当じゃないか?」

「そうだけど、今回は美晴より先に私にっ! 連絡あったらしいのー」

「ほーん」

ゲームに集中し出したせいか、力籠った返答が返ってきた。

ゲーム中、周りが見えないタイプらしいけど、俺の返事だけは何故かできるらしい。

誰に連絡貰ったのか気にならないかって言われたらめっちゃ気になるって食いつくぐらいだ。

しかし集中してるから聞けないし、もったいぶってる感じだとたぶん知り合いだと推測できる。

時折混ざる吐息が多少エロく聞こえるけど、そこはしょうがない。

一回それをネタにしてからかったことがあるけど、“エッチ=ゲームらしいし今から協力プレイしちゃう?”とか無茶苦茶理論掲げた結愛に襲われかけたので、以降はネタにしないようにしている。

怖かった……貞操の危険(もうないけど)を感じたな……。

「お待たせいたしました。それでは参りましょう」

「いうて向かい先コンビニだけどな」

私服に着替えてメイドっぽいことを言ってくる美晴さんに軽くツッコミを入れつつ、玄関に向かう俺たち。

「んじゃ言ってくるー」

「はーい。クッソ、モブキャラの分際でしつこいわね」

「では行ってきます。お嬢様」

「チッ」

「込んでるみたいだな」

「わたしだけスルーとか愛を通り越して差別では!?」

「まぁまぁ」

軽く壊れかけた美晴さんにフォローを入れてコンビニに向かった。


「ありがとうございましたー」

「結構買いましたね」

「菓子折りって言うからめっちゃ高そうなもんだと思ったけど、そういうのでもないね」

「どちらかというと誠意の現れみたいなものですから。それに、あの方はむしろこっちの方が喜ばれるかと」

「そういうもんかなー」

「贈り物は質ももちろん大事です。しかしそれよりも大切なのは誰が何を送ったか。かと思われます」

『わたし個人の見解ですけどね』と補足を入れつつ苦笑いする美晴さん。

そんな彼女と俺の片手に半分づつ分けて袋がぶら下がっている。

店を出る際、『半分ずつ持ちたい』と珍しくクールな声色で甘えてくる美晴さんがおかしくて、ついつい承諾してしまった。

二人の間からぶら下がるパンパンに詰められた袋には、どこのコンビニでも手ごろに買えるお菓子やらプリンやらを数本と、俺たちが食べる予定のアイスが数本詰められている。

菓子折りっていうより普通のスナックセット。

まぁ、結愛の意図したものがこれっぽいし、変に悩んでも仕方ない。

「着いちゃいましたね……」

「近いからね。だから一人で行くって行ったのに」

「わたし、次は足首に鎖を繋いでみたかったんですよー、付き合っていただけますか?」

「遠慮させていただきます! うかつな発言すいませんでした!」

「うふふっ」

二人きりのタイム終了にこの世の終わりみたいな顔から、俺の冗談に宿してはいけないなにかを宿そうとしたので即座にギブアップ。

繋がったら今度こそ陽の光浴びられなくなる気する……!

「参りましょう、智様」

「うん、いつもありがとう」

「はぅっ」

微笑んだだけでなんかクリティカルヒットしてるぞ。

「あれは……」

「? どうかしたの? 美晴さん」

「いえ……」

オートロックを開く際、何か見かけたらしい美晴さんが得心がいった顔つきに変わっている。

エントランスを潜り抜けてエレベーターに乗る。

25階って高いんだよなぁ。

しばらくして、エレベーターが目的の階層に到着。

扉の前につくと、美晴さんが微かに緊張した面持ちになっていることに気づく。

「どうかした? 急に納得したり緊張したりしてるけど」

「智様、せんえつながらご忠告を」

「?」

「今扉を開いてはいけません」

「なんそれ。いくら結愛がゲーム廃人ムーブしてるからってこれくらいでは怒らないよ」

「違います! わたしに連絡が回って来なかったのはあの方のいたずら心が原因で……とにかく! 今開けてはいけません! 修羅場になってしまいます!」

「へー。お客さん着いたのか、まぁまぁ何も起こらないし大丈夫だって」

「あ———」

ガチャっと、指紋を認証させて自分の手で扉を開いた。

ここの扉はセキュリティの仕様上、他のマンションの扉よりかなり重めだ。

結構力を要するもので、片手で開くには腰から力を入れる感じで全力振り絞る形でやっと開いてくれた。

すると……。

「わーっ! 来ちゃったー智ちゃん」

「おばさん!?」

「もうおばさん呼びはきんしー。お母さんって呼ぶよーに!」

着物姿がとってもお似合いの、美しい女性。結愛の母親である九重美愛さんが、玄関にたたずんでいた。

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