第10話 俺たちらしいという調味料を添えて

「あの、智様」

「ん?」

「よろしければその……恋人っぽいデートを所望いたします」

かぁぁっと顔を紅潮させて小さく手を挙げて発言する内容は初々しい。

これがギャップ萌えってやつか?

「これがギャップ萌えってやつね」

同じ感想を抱いてるやつが近くにあった。

こうしてハモることも多々ある。

俺は心の中で留めておくことも結構あるけど、結愛はそのままぶっこんでくスタンス。

「圧倒的ヒロイン感あるな」

「本当にねー。嫁の座奪われてなくてよかったー」

「あげたこともないが?」

「私が言ったからもう嫁でーす。それより次行こう? カフェでだらだらするだけのデートも悪くないけど、せっかくのデートだよ。色々やりたーい」

「そうだな……ま、適当にショッピングモールでもぶらつく?」

「ううん、映画がいい」

「わたしもそれで構いません。恋人っぽいのならなんでも」

「うっし、じゃあ映画行くか」

「もう行っちゃうの?」

「ああ、邪魔したよ。レナ先輩」

「あなただけのメイド置いて言っちゃうの? ご主人様」

「デート中だから仕方ないよ」

「今度はわたしともして? 最後まででいいから」

「そうはさせません。既にわたしたちのモノです」

「サークルメンバーのよしみとして今度事情説明するねー」

「……今回はそれで我慢してあげる」

「次いくよー」

「レナ先輩また今度、ってぅわ!?引っ張んな!」

結愛と美晴さんに両手を引っ張られ、連行される形でメイド喫茶を後にする。

傍から見たら修羅場まっしぐらに見えただろうか。


「いやー面白かったね」

「ラブコメ物の劇場版もなかなか見ごたえありました」

「だな、しかも完全オリジナルシナリオであの仕上がりは予想外だった」

「ねー」と、相づちを打つ二人。

俺たちが見たものは、某アニメの劇場版だ。

デートでアニメはどうかと議論が分かれるとこだが、俺と結愛は結構オタクなので問題ナシ。

が、問題は美晴さん。こういうのに抵抗があると勝手に思い込んでいたものの、その微かな不安は結愛の一言によりあっさりと霧散した。

『わたくしが汚染させた』

そう、これを見ようと口に出したのはなんと美晴さんだったのだ。

しかも映画を見る最中、ゾーンに入っていた。

映画の最中、手がふれあってしまい、ドキドキして映画の内容が頭に入らないよーみたいなラブコメもの特有の甘酸っぱい展開は起きずじまい。

俺たち三人、完全に集中していた。映画ガチ勢を極めていたと言っても過言ではない。

「感想言いたいけどなー腹減ってそれどころじゃない」

「わかるー。そういえば今何時だっけ?」

「えっと、七時半です。今日は外食にしましょうか?」

せっかくのデートですので。と付け加える美晴さん。

「初デートってどれにも意味与えがちだよね、わかる」

「そういえば俺の初デートっていつになるんだろ?」

「私とだよ? 場所も時間も正確に覚えてる。まず九時六分37秒にさと君がお家から出て来て……」

「なんで俺の出かけた時間把握してんだよ。ホラゲーのプロローグか?」

「初デートマウントから惚気に発展する流れとはいったい……」

「言うほどのろけじゃなくね?」

変なところでショック受けている美晴さんにさっそくツッコミをディステーション。

てっきりどの店行ったーとか、どの駅前のどこらへんで食べた何が美味しかったーとか普通の思い出話が出るかと思った。

しかし待ち合わせどころか出てきたとこからスタートかよ。

予想の斜め上どころか常識が壊された。

「わたくし、やんでれ、あってる」

「慣れててよかった。俺の勝ちー」

文字に並べると赤色のひらがなになってそうな抑揚の喋りに合わせて、ハイライトが消えた瞳の顔づくりで後ろから頭をのしっと乗せる結愛。

ホラーさながらの顔づくりだけど、限界突破さながらのテンションが隠しきれてない。

「それで、ヤンヤンしちゃった結愛様は夕飯は何をご所望で?」

「今はさと君の口かなー。もちろん、私の別のお口でー」

「下ネタやめれ汚嬢様」

「くずやろーにごみ扱いされたー、でもこれはこれで……」

「扉開くな、締めろ閉めろー戻れないぞ?」

「戻れない一線ならとっくの昔、超えちゃった気がする」

今度はシュールな雰囲気をまとい空を見上げる結愛。

そんな彼女の意図をくみ取った美晴さんが、後ろに控えるような佇まいで立つ。

俺はそんな結愛の隣に移動。腕を組み背中合わせのポーズを取る。

場面だけ切り取ってみれば、俺たちの姿はまぁ様になっているだろう。

今日のデートは、成功も失敗もない。

俺たちらしい一日にデートという言い分をつけて送っただけ。

いかにも様になる格好をとって締めることでデートっぽい演出が出したくなったんだろう。

結愛らしいな。

さてと、飛び散りまくりな話題を軌道に乗せますか。

「夕飯は家で食べようぜ」

「よろしいんですか?」

数日ぶりのお出かけですよと目線で訴える美晴さんに、そっとはにかみながら返事を返す。

「三人でする記念すべき初デートの夕飯だろ? 俺はいつもの美晴さんの料理で締めたい」

「智様……」

「そういうわけで、家にGO―! あ、でも今日は揚げ物メインにしよ?」

「ふふっ、かしこまりました。お嬢様のご飯だけ野菜メインにさせていただきます」

「鬼畜メイドじゃーん。さと君。メイドがいじめるー」

「野菜も食えという教えだ。体調に気を遣ってくれるSPに感謝な」

「なんだとー!」


またいつもの騒々しい雰囲気に戻り、帰路につく。

その日の夕飯には、美晴さんが腕によりをかけて唐揚げメインの豪勢コース料理に、デザートでシャーベットまで振る舞ってくれた。

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