第9話 あたし あなたの元カノ 未来約束した仲

「いらっしゃいませご主人様ー、あらら」

「ちわーっす。三人で」

「あたし含めて4人でいいよね? てかいいでしょ?」

「出ましょ智様。クソアマは情緒によくないです」

「うちのメイドに同意だわー。冥土だけに」

「自称俺の嫁はく奪案件」

「嫁!? ちょっとさとしくん、そこ直って!? お姉さんは許しません!」

「なんでお前に許可取らないといけないんだ?」

「あたし あなたの元カノ 未来約束した仲」

「させた覚えないの、引っ込んでなさい」

「せんえつながら智様? その……デートでメイド喫茶を選ぶのはいかがなものかと」

「情緒潰しすぎたかしら……考えものね」

「会う度、店ごと貸切るお前に言われたくはないな」

心外な。

これしかなかったんだよって言い訳したい。

倒れる寸前とまでは言わないが、CG差分壊れた顔してたらさすがに心配にもなるものだ。

「案内出来ませんのでさとし君以外帰ってください。 腹黒女はサークルで顔合わせるぐらいで間に合ってます」

「デートよデート。帰るわけないでしょ?」

「デートは男女が二人きりでやるものであって、三人でやるのは普通に違うよ?」

「これが私流デートなの。文句は受け付けなーい、出よう? さと君」

「調子に乗りませんのでさとしくんと同じ空間にいさせてください!」

しゅぱっと頭を下げては「こちらの席へどうぞー」と、いつの間にかメイドモード切り替えたレナ先輩。

彼女は紅林レナ、俺と結愛が通っている大学の先輩である。

「元カノが働いている店に嫁と彼女を連れてくるー?」

「しかもメイド喫茶。初デ、デートからハードルが高すぎましゅ……」

「美晴さん乙女すぎないか?」

「そうだね。ここまで乙女になるなんて思わなかった」

SPとしての姿しか普段見てなかったので、どうしても冷静な印象が勝ってしまう。

が、こうして新しい一面を見つけることができた。

デートさまさまだな。

「ご注文はいかがいたしますか?」

何かの折り合いをつけたらしいレナ先輩が、いつの間にテーブル前にきてオーダー取ろうとしていた。

「何にする? 奢るよ」

「では、こちらのカードで奢っていただけますか?」

スッとカードを手渡そうとする美晴さん。

カード出してこれで奢ってって新鮮だな。

今度そういうイラスト一枚描いてみたい。

「たまには奢らせてよ。この前もお前ら持ちだったじゃん」

「正確にはお嬢様持ちですけどね。でも、智様の残高に不便を強いるわけには参りません」

「ま、気持ちの問題だよー? 誰が支払うかで、結局出すのは私の金だよー?」

「いや、今回は俺の私費で……」

「そこまで考えてくれたー? 嬉しー。だからそれ使って?」

「だから今回は……」

「いいから」

強引にカード握らされた。

奢るの定義よ。

「わたしにも奢るって言ってほしかったなぁ」

「メイドはオーダーでも取ってなさい。コーヒー三つお願い」

「くっ。ワンドリンク制だけど他頼まなくていいルールが見破られて追い出せない」

「お願いしますわね、レナせんぱい♪」

「かしこまりました、ご主人様……」

せめての腹いせにと、先ほど握らされたブラックカードを持っていくレナ先輩。

対する結愛と美晴さんの顔はむしろ満足気だ。

「計画通りですね」

「うんうん」

「お待たせしました。こちらカードの返却とご注文のアイスコーヒー三つでございます」

「失礼いたします」と丁寧なお辞儀とコーヒーが乗った皿が置かれる。

俺はストロー使わない人種なのでコップごと仰いで一口。

程よい苦みとコーヒー豆特有の酸味の調和。

うっまい!

「コクあって結構美味しー」

「かなりいい豆を使ってそうですね、メイド喫茶で侮りましたが、これは驚きです」

「ふふーんっ! こだわりはあるからねっ」

どーんと、胸を張って自慢げに話した。

レナ先輩ってかなりの巨乳だ。

言葉通りの自慢げだ、要は揺れている。

「デート中、他のメスに目移りは心外―」

「激重発言ですがそこには同意いたします。もっとこちらに気を遣っていただけませんか」

「三人でデートって時点で気を遣うもクソもあるのか……?」

「それだからあなたは童貞……じゃなかったわね、チッ」

「わたしがいただきましたー!」

「殺す」

「後始末はお任せを」

「マジでやめて? 君が言うとガチっぽいじゃん」

「ガチですが?」

「助けてさとしくんー!」

「自ら餌与えてどうすんの、バカなのか? バカか」

ぎゅっと手袋を握るふりをする美晴さんに、俺を背中に隠れるレナ先輩。

しれっと会話に混じってるし。

「レナ先輩の始末は今後の課題にして」

「やめて?」

「次何する―?」

「そうだな。お前の顔面差分戻ったとこだし、どっか行くか?」

「あの、智様」

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