第8話 三人でデートってパワーワードが過ぎん?

「っふぁ~!」

「おはようございます」

覆いかぶさるような挨拶されたのはさすがに新鮮だ。

「おはよう美晴さん」

揺れ乳さいっこー!

感想を漏らすことなく、本能オンリーで動く手先で枕元のスマホをゲット。

「お嬢様でしたら、もういませんよ?」

「は?」

これまた本能的に聞こうとしたやつを先回りされて釘を刺してきた。

「わたしの願いのため、残念ながらお嬢様には消えていただきました……」

「手袋つけてるのって……」

「さすが智様お察しが早い……勘のいいガキは嫌われやすいのが世の常。しかし智様ならという理屈で好きに変わっちゃいます」

「なんか理論あってたな、確か〇〇の狂愛理論みたいな名称だったような……」

「正確にはお嬢様のヤンデレ理論でございますが、今日からはわたしの理論でございます。さあ智様。白昼堂々、やっちゃいますか♪」

「真っ昼間からエッチなことはよくないと思います!」

怪我人に何言ってんの? このエセメイド。

チラッとスマホを覗き、時間を確認。

PM3:27と液晶に浮かんでいる。

「ほんとに昼過ぎじゃん」

「言ったじゃないですか、真っ昼間って」

「みはるーさと君支度させたー?」

「ヤる支度は整えております」

「脳みそラーメンでも作る気? デート行くから支度させなさいって言ったよ?」

「浮かれてましたので」と涼しい顔でとぼけつつ俺のズボンに手をかける美晴さんだった。

「犯される———!」


ほとんどの人は睡眠時と覚醒の狭間に起きたことを覚えられない。

夢から覚めた途端、頭の中から吹っ飛ぶのと似てる現象らしい。

しかし、何故か結愛はその微妙な間に起きた事柄のほとんどが思い出せる。

寝癖で言ったかと思われる「デートいく」という一言が、めぐり巡って実現していた。

「あっちー……」

「空気と日差しの対比激しすぎ……」

「日傘持ってきた方がよろしかったでしょうか」

困りましたねと頬に手を当てて呟く美晴さん。

仕事柄、こういう天気にも多少免疫があるのか?

対する現代っ子の俺たちはぐったり気味。

三人で日傘はシュールすぎるだろ。

「三人で日傘ってデートでやらなーい」

「代弁たすかる」

以心伝心だった。

にしてもなぁ。

「三人でデートってなにすりゃいい?」

「それデート全否定に近いから」

「愛してる方と同じひと時を、でしょうか」

「ピュアすぎる美晴さん」

「うちのSPめっちゃ乙女―」

「えっと、違いましたか? てっきりわたしは全人類そうなのかと思いましたけど」

「私も同じ意見ではあるけどねーさと君の情緒潰したから、私は言えた口じゃない」

「好きでもない相手とめっちゃデートしてました。まる」

「くずやろー」

「言ってろ、激重女」

「うぐっ」

「美晴なーかせたー。やーいやーい」

「テンションと顔違いすぎるだろ、どっか涼しいとこいくか?」

日差しの暑さで結愛がテンション高いのだけが取り柄の顔CG差分一本のバグったNPCみたいになってる。

「アポ取ってないから行くのむりー」

「財力他に当ててくれマジで……無駄遣いすぎないか?」

「私、デートの時、あなた以外が視界に入るとか無理だから」

「激重発言ですがそれには同意でございます。そもそも奥様からそう仰せつかっておりますので別に無駄遣いではございません」

「えげつねー」

新情報だけど暑さで脳みそ沸騰し始めたので耳を素通りしていく。

デートということで近くの繁華街に繰り出して色々回ろうとしたものの、人間熱にエラー起こしてる天気のコンボで三人ともダウン寸前。

アウトドア派の俺と美晴さん、どちらかというとインドア派だけど俺といる時だけアウトドアに様変わりする結愛でもさすがにキツイ。

そもそも陰陽関係ないなこれ。

ダメ元でも押し進めるしかないか。

「近くの知り合いがバイトしてるカフェがあるけど、一旦そっち行くぞ」

「智様の意向に背くのは心が痛みますがお嬢様が……」

「人あんま来ない穴場だから。いいから行くぞ」

「強引なお姿、素敵です♡」

「あっづいぃーさと先輩、おんぶー」

「監禁女の言うことに耳をかさないでください」

「あなたのしゅじんわたくしー!」

「限界化してんのだっさw」

煽りながらもしっかりおんぶしてやると背中叩かれた、痛い。

隣から嫉妬と羨望が混じった眼差しが向けられたので、なんとか踏ん張って片腕動かして頭を撫でてやる。

ハーレム物の主人公かよ。

「参りましょう」

それで機嫌治るのはバグってる。

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