第10話 ダンジョンでBL同人誌が落ちていても気にするな。本来そんなもんダンジョンにあるはずないんだ・前編

 さて、ギルドのある街。


 ここは北の王国エリザベルドという傘下にある冒険者達の拠点の街・ノビスというらしい。

 で、俺たちはノビスの街から約30キロ程離れたゴブリン達が出入りしているダンジョン近くに身を潜んでいた。


「お前らさ、そのベコポンはダンジョン中で腹と喉の渇きを満たす物って分かってる?」

「当然なのだご主人! 今やダンジョンの前で斥候なのだ! ならばもうダンジョン攻略をしていると言っても過言ではないのだ!」


 なんでこういう時だけそういう屁理屈が出るんでしょうね……最近の若者は……


「まぁいいや。見るからにゴブリンたちの姿は見えないけど、そろそろ突入を開始しようかと思いますよ? 俺は今回の為に習得してきた魔法障壁。ガルンは高速移動。そしてアステマは俺達全員に透過の魔法をかける。モンスターに見つかりにくくなるらしいけど、遭遇時は戦闘を避ける。まず何がいて、何があるのか、持ち帰りたという物が見つかればそれを目的にする。無理に一回で持って帰らずにここに戻ってきて何度かトライ。安全にかつ確実にお宝を回収。複数あればその分繰り返す……って聞いちゃいねぇ」


 二人はようやく腹が満たされたのか、興味を持ったダンジョンに向かって丸ごしで近づいていく。

 俺の説明という物が意味なかったかもしれないことはまぁいい。昔から仕事の相手は大体話を聞いてない。


「……あのダンジョン。不思議な匂いがするのだっ! いざぁ! ご主人、あのダンジョン制圧するのダァ!」

「斥候の意味絶対知らないだろ……静かにしろよ! 絶対今のでなんらかのモンスターに気づかれたぞ。あとアステマ。透過の魔法!」


 俺はややイラつきながら、先ほど冒険者っぽく説明した作戦を一から十まで話しなおしてアステマに透過魔法を使わせる。

 

 ようやく俺たちはダンジョン攻略開始なわけだが、食糧は用意した半分以上開始前に消費し、作戦もほとんど聞いちゃいねぇ……

 そりゃ、ゲームみたいに万全の状態で進めるとは微塵も思ってはいないけど、自分が思い描く妥協点にも届いていないというのが……

 そして何の自信があるのかガルンとアステマはズンズンと進んでいく。恐れを知らぬというべきか、いや馬鹿なんだろう。


「主! 何も目ぼしい物はないわね。このあたりの壁を爆破して探索をしてみましょうか? 私の魔力目当てなわけでしょ? いいわよ。グレーターデーモンになった私も最高威力で魔法を一度使ってみたいと思っていたところよ!」

「うん、その意気やよし! が、少し落ち着け、お前さんのそのテンションがどこからくるのか分からないが、本当に落ち着いて!」


 モンスターが集まってくるだけならまだしもダンジョン崩壊生き埋めエンドとか笑えないわ。


「ならば、ボクが高速移動でこの中を走り回って探索の効率化を図るのだ! これでご主人も安心、ボクも褒められて一石二鳥なのだ!」

「待てっ……」


 俺が止めるよりも早く、ガルンはクイックのスキルを発動して飛ぶようにいなくなった。


「全く、後先考えない子ね」


 あんたがそれを言いますか、本当にモンスター思考回路がぶっ飛んでて怖いわ。


「とりあえずガルンを追うぞ! あいつは何かに遭遇して何かをやらかす事には定評があるんだ。今のところ、ゴブリンも他モンスターも見当たらないし、とりあえずマッピングだけでも持って帰ればそれなりに金になるだろ」


 ダンジョンのマッピングが売られているのを俺は思い出してそう言った。でもよく考えると、あれって攻略し終わっているダンジョンのマップだよな。

 お宝が欲しい! という人には向かないから、特定の物を採取したりするのに役立つんだろうか?

 いや、隠し扉的な物を狙っての宝くじ的な物だろうか?

 異世界謎だわ。俺は考えないことにしていたが、口に出した。


「アステマ、なぁ。ガルンいなくね? ギルドの受付の人が言ってなかった? ある程度進めたら安全なところでキャンプするか、一旦ダンジョン出るかって」

「そうね。コポルト・ガールは走り回る事が大好きだから、それに夢中になって今の目的を忘れているのかもしれないわね。これだからデーモン種以外の魔物は単純なのよ! ふふん。冒険者はそんな魔物を捕まえるトラップを仕掛けて殺害する仕事をしている連中もいるのよ。引っかかってたりしてね」


 アステマはベコポンを齧りながらのほほんとそう言う。


「あのさ……それダメじゃん! 絶対フラグじゃん!」


 俺は自分の身の危険を顧みず大声を出してダンジョン内を走ろうと準備をしたところである。

 これ、日本昔ばなし的な物で幾度となく見た事があるわ。

 

 ガルンは罠にハマって泣きべそをかいていた。

 

「……ごしゅじぃん! ここは危険なのだ! 並大抵のトラップには引っかからないボクが完全にしてやられたのだ。ボクを助けてここから早く脱出するのだぁ! 痛いのだ。怖いのだ!」

「いや、うん。まぁすげぇ痛そうだよな。とらばさみって実際。使用禁止じゃなかったか? 昔話では簡単に外して何事もなく動物は去っていくけど」


 俺はとらばさみを外し、ガルンの痛々しい怪我に回復魔法ヒールを使う。俺の本日使える魔法の回数が三回に減った。

 そしてこのトラップが引き金だったのか、警報的な物が鳴る。

 

『ウー ウー ウー! 北の魔王、別名・錬金術王シズネ・クロガネが残した宝物殿入り口前トラップに反応あり! 繰り返す! 宝物殿入り口前トラップに反応あり、ガーディアン召集。愚かな冒険者達を駆逐せよ!』


 地獄か……ガルンが罠にかかりました。

 その罠を外すことでこの警報がなるという事か……うん。


「これ、流石にヤベェだろ。魔王とか言ってるぞ。魔王の名前がなんか引っかかるけど」


 俺がとりあえず逃げるぞオーラを出しているのに、足の怪我が回復したガルンは俺に抱きつき。

 アステマはポーズをつけて片目を閉じる。


「主。要するに宝物殿の入り口ということでしょ? 今回の目的達成じゃない」


 ……ばか!


「いやお前、警備の人。というかモンスター招集してくんじゃんかよ。ヤベェだろ!」


 なんでこいつらはこんなに冷静なんだ? 馬鹿だからか? ああこいつら馬鹿だ。二人の手を引いて逃げようとした俺だが……


「ご主人、心配しなくても大丈夫なのだ。このダンジョンモンスターの気配がないのだ」

「そうよ主。本来ならガーディアンの前に先兵がいてもおかしくないでしょ? このダンジョン、放棄されたのよ。北の魔王って随分前に死んだって聞くし」

「えっ、そうなん? 魔王って死ぬん? じゃあこの警報ガチで無視していいんだ。にしても冷静になると腑に落ちないな……特にこの警報」


 俺って、自宅で仕事をしていたから、実際現地に赴いて何かをするという事はないけど……

 なんか、この感じ既視感あるんだよな。


「主。北の魔王は異様なくらいの賢人だったと聞くわ、そして無類の男好きだったとか……」


 アステマの話によると、北の魔王。このあたり一体を治めていた魔物の王の一角だったらしいが、なんのかんとあって死んだらしい。

 そのなんのかんのを知らないのが、役に立たないな。

 ほんと……

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