第9話 地球人知ってるか? モンスターは冷凍みかんを食べるんだぜ? 日本の特急の客みたいだろぅ?

「材料は全部俺が管理する。お前達は触るな。うわっ! ハチミツめっちゃ食いやがったな!」

 

 俺の自分でも思う長所は、状況に対して向き合い打開する方法を考えれる事だろう。

 俺が引きこもりでニートだったらこうはいかなかっただろう。

 腹立たしい事に、息子を放置して異世界でよろしくやっている親父にここは感謝すべきか? 


 いや、違うか……

 

 アステマは口寂しいだのなんだの喚きだし、ガルンは先程から腹の音が止まない。モンスターという連中は事食べるという事に素直らしい。

 基本的に俺は食事という事には拘る方なのだが、空腹には強い。なんなら数日食べずにでも生きていける。されど、こいつらは腹が減ったと思えば食らい、眠いと思えばどこでも寝息を立てる。

 このままモンスターが俺の周りに集まってこないようにこの二人、というか二匹でモンスターの行動を学ぼう。


 二匹には、ベコポンを与えている。それもアステマに氷の魔法で凍らせた冷凍みかんだ。

 異世界のモンスターが特急列車の最高のオヤツである冷凍みかん食っている姿はシュールだが……取り憑かれたように食っている様子からこれ売れそうだな。

 ニンニクみたいな野菜を売っている素材屋さんに二人を連れてくると鼻をつまみ出す。マジ恥ずかしいな……外で待たせてればよかったか? いや、なんかやらかしそうだしダメか。


「すみません。少し前に購入したそれをまた買いたいんですけど、ちょっと持ち合わせが足りないので、このベコポンと物々交換とかってできますか? もしベコポンは安すぎるというのであれば……一つ面白いお菓子があるんですよ? それを食べてから考えていただくのはどうでしょうか? もし、そのお菓子が口にあったりあるいは初めて食べた……というのであればお宅のお店に優先しておろしても構わないのですが……えぇ、もちろん試食してください! おい、アステマ。氷の魔法で冷凍みかん! はよせい!」


 わはったわほぉ分かったわよ! 

 と冷凍みかん食いながら大量に虚の森に自生しているので街まで持ってきたベコポンを一つ、二つ凍らせて店主に渡した。

 不思議な物を見つめて店主はそれを食べる。


「こりゃ驚いた。ベコポンのこんな美味い食べ方があるなんて、初めて知ったよ。これ、本当にウチに優先して卸してくれるのかい?」

「えぇ! こちらの……こちらのグレーター……グレートな魔法使いの女の子が一生懸命作ります」

「おぉ! こりゃまた可愛いウィザードさんだな」


 どこの世界でも若くて可愛い女の子というのは評判がいいらしい。


「ふふん! わかっているじゃない人間の物売りの男。冷凍ベコポン。元々瑞々しいベコポンを私のハイブリザードで瞬間冷却する事で、外はサクサク、中はシャリシャリの最高の状態になるよ! この微調整は私でなければ中々できる物じゃないわ! 褒めなさい! この私を!」


 アステマさーん、そういうところ! 

 ほらおじさん引いてるじゃない。


「店主さん、この子。少し頭があれな感じなんですよ! 腕はいいんです! 腕は……で、どうでしょうか?」


 俺が強引に取引の話に方向性を戻すと、店主は美味しそうに冷凍ベコポンを齧っているガルンを見て頷く。そう! 美味しい物を美味しそうに食べているのは実は強力な宣伝効果がある。万年はらぺこのガルンも役に立ったな。

 ちなみに、こいつもそこそこ可愛いもんな。

 幼いけどな……


「よし! その申し出乗ったよ! これは先行投資でガーリの実はくれてやるよ! そのベコポンどのくらい卸す事ができるんだい? それによっては支払いも色をつけても構わないよ。これは間違いなく人気ができるからね」

「そう……ですねぇ……店主さんが月間に卸したい数だけ……」

「……あんたそれほんとかい?」


 めちゃくちゃ売れるアイスが1日に500個とか売れるって前にテレビで見た。かける一ヶ月で一万五千個……こんなお店がそんなに捌けないだろうから所望する数は一ヶ月数百個ってところだろう

 しかしなぁ、俺がこんなに商人向きだとは思わなかったよ。


「じゃあ、手始めに月間百五十個でどうだい? 最初は食いつきが悪いかもしれないから少し少なめに店先で販売させてもらって様子見をするよ。多分、人気がで出したら月間五百……はどうだい?」


 思った通りだな。この店主もこの店の規模でさばける数は把握しているらしい。俺は店主に握手を求めた。


「交渉成立という事でいいですね! いやぁ、店主さんはいい買い物をしましたよ。売り上げのマージンの件はまた後でお話を詰めましょう。このガーリの実を納めて一つ仕事が終わりますので」


 俺がそう言うと、店主はその件に関して了承してくれる。後で酒場でしっかりとビジネスのお話をする事となった。


「よし! 二人とも、とりあえずカレークエストを完了させるぞ! 冷凍ベコポン食いながらでいいからいくぞ!」


 危なかった……今までの俺の仕事で納期遅れはその時点で仕事が徒労に終わる。

 それどころじゃない。俺の信用というものもガタ落ちになるのだ。しかし1日を残して、なんとかレストランの扉をノックした。


「お待たせしましたシェフ! 大人気になるであろう。スペシャルメニューの材料が揃いましたのですぐにご用意しますね!」

「おぉ……ご苦労様……何か飲み物でも……」

「お構いなくぅ!」


 レストランのシェフの前で俺はベコポンのタネをすり潰した物を炒め、パクチーみたいな植物のタネをすり潰した物を混ぜる。

 そして唐辛子みたいな物もすり潰し、千切りにしたガーリの実を炒める。あぁ、カレーの匂いだ。


「えー、あとはこれらを普段シェフが作っている肉や野菜を入れたスープの中に溶かします。そこでウコンらしき物を乾燥させてすり潰した粉を入れていきます」


 シェフはメモを取り真剣な面持ち。

 香辛料が苦手なガルンとアステマも興味深そうに見ている。

 カレーは世界最強の食い物だからな。

 料理なんてほとんどした事がない俺でも作れるお手頃料理だ。シェフは元々スープを作るのが上手いみたいだからあとはカレールーという調味料でこの店の料理は完成する。

 パンのような食べ物があるので必然的に小麦粉もあるらしい。

 それをダマにならないように溶かし込んでいく。

 この調理法にシェフは感嘆の声をあげる。とろみがつくという事を理解したらしい。

 さすが料理人だな。


「マオさんだったか? あんた料理人なのかい?」


 シェフの質問に俺は首を横に振る。


「いやぁ、学生時代にレポート提出といえば美味しいカレーの作り方でしたからね。それっぽく教授を騙す為にいろんな書き方をしていて作り方を暗記しちゃっただけですっよ。まぁそんな事はどうでもいいじゃないですか、これは嗅覚から空腹を刺激する料理。カレーです!」


 芳しい!

 うまそうなカレーが出来上がる。バターがあればカレー粉を固形の状態で作れるのだけど、それはまた今度でいいか……

 俺は感動しているシェフにさらなる衝撃を与える為に、すりおろしたリンゴと濾過した蜂蜜をカレーの鍋に入れた。


「さぁ、これで看板料理は完成です! では食べてみてください!」

 


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 俺たちは成果報酬を貰いにギルドへ足を運んだ。


「はい! 依頼者のレストランのオーナーからも最高評価で依頼遂行のご連絡をいただいています! この度のご依頼、マオマオ様。ガルン様、そしてもう一方? ありがとうございました!」

「いえいえ、なんとか初クエストクリアできました。受付のお姉さんにも感謝します」


 俺はギルドにて、報酬を受け取った。

 700ガルド、手持ちと合わせ宿に泊まって三人で食事をしたら一泊二日ってところだが一応労働の報酬を手にした。しかしこれは厳しい。今まで自動化する事ばかり考えていたけど俺自身が動かないとならないから今までの俺の労働の常識は通用しない。


「食って寝床を確保する為に労働。自転車操業みてーだな。いや、そもそも労働ってのはこういう物なのかもしれないけど……アステマに、ガルン。アホの大食らいが二匹……」

「ご主人、ボクになにか用か?」


 名前を呼ばれて尻尾を振るガルン。こいつは自分が超役に立ってるとか思ってるんだろうな? すごいポジティブ!

 そして、我関せずでとりのもも肉にかじりついているアステマ。

 こいつらを養いながら異世界でまともな衣食住の環境を作るって超無理じゃね? 俺は自分へのご褒美として冷えたワインのグラスに手を伸ばす。

 

 …………うまい。

 俺はビールよりもワインやブランデー派なのだが。


「なんだろ。保存料とか使ってないから美味いのか?」


 俺がこの世界のワインに感動していると、興味深そうにアステマとガルンがその様子を見つめる。


「先に言っておくけど、俺は未成年に飲酒はさせないぞ? 昔、いたんだよな。調子に乗って未成年に酒飲ませて、後々見つかって問題になった知り合いがさ。酒は飲んでも飲まれるな。俺はタガが外れるまで呑む事はないし、お前達に酒を与えるつもりもない。果物のジュースで我慢しろ」


 不満そうにしていた二人だったが、甘い果物の果汁たっぷりのジュースにすぐ心を奪われる。

 ……こいつら、見てくれは悪くないから、レストランのウェイトレスとかどうだろうかと思ったけど、普通に無理だな。

 ばかだもん。

 

「主、勝利の美酒を片手にその何かを考えている感じ、悪くはないわね。大概上級のモンスターはそうやって自分のフェイバリットリカーを持っている物よ。それがこんな人間の宿で出している安いワインというのがアレだけど、そういう魔物としての誇りのような物を忘れないでいて欲しいかしら? じゃなければ仲間になった私も程度を下に見られてしまいそうじゃない? 主は今お金がないから困っているのでしょう? 人間の世界の事はあまりわからないけれど、ダンジョンにいけば何か面白い物が手に入るんじゃない?」

 

 こいつ、嫌に真面目なことを言い出したな。まぁ前半は頭悪い発言だったけど……

 ダンジョン。異世界の生活においては避けて通れない場所だろう。

 そのダンジョンとやら、それにしても平均レベル7の三人のパーティーで攻略ができるところなんだろうな?


「アステマ、お前ダンジョンってところに行った事はあるのか?」


 ガルンは虚の森に住んでいたのでダンジョンに行った事はないだろう。

 俺の質問にアステマはポーズをつけて額に手を当ててから言った。


「主、馬鹿ね! リトルデーモンが行けば即死だったもの」


 なんでこいつはこんなに偉そうなんだろう?


「なるほどな。でもそんなアステマでもダンジョンに行けば、現在の資金難を打開できる金策になると言うんだな? できれば俺は危険な事には首を突っ込みたくはないんだけど、この世界にいる以上子供でも魔法や剣の鍛錬をして簡単な採取の仕事もしてるもんな……ボディーガードがお前達というのが物凄く不安になるのだが、まぁちょっと覗いて無理ゲーならすぐに引き返す感じで、行ってみるか!」

 

 きっと酒の勢いという物もあったのだろう。


 俺たちはギルドへと向かう。

 金策という当然の理由の為。

 ギルドの仕事が掲示されている掲示板を眺めていく。

 あるは、あるは……ダンジョンの仕事。日本でもそうだが、ありふれている仕事ってのはさ……

 

 ……誰もやりたがらない仕事なんだよな。

 

 依頼内容を見ると、適正のレベルと推奨スキルのような物が記載されている。スマホのソシャゲみたいな親切さだな。

 一番簡単そうなダンジョンを見るとモンスターの危険レベルは★4、場合により★6相当がいるらしい。

 そして必要スキルである。一人当たりスキルは最低四回、三人以上のパーティーを推奨。

 ギリギリだな。スキル使用に関してはアステマは魔法の使用回数に限りはなさそうなのが一押しポイントだな。

 

 ……仕事の内容というのが、最近ゴブリン達が何かを運び込んでいる。

 ゴブリンってあのゴブリンか……昨今ではエルフを捕まえてやらしいことをするモンスターというレッテルが貼られて外国の人が割と日本の作風に難色を示していたことが俺の中で印象的だ。

 

 ゴブリンという連中がこの世界においてどの程度の魔物なのかを知る必要がある。

 ギルド内にあるモンスター図鑑を借りて彼らの情報を見ると。敵性亜人に相当するらしい。何種類かいて、最上位種のバーバリアンは英雄級スキルがないとやばいらしい。


「ゴブリンね……あいつら、徒党を組むし、魔法や剣術にも長けていて、数は多い。人間と同じで厄介なのよね」


 一般的に日本のラノベやら漫画に出てくるゴブリンと考えてオケなわけか。


「危険なモンスターなら戦わないに越した事はないけどどうなんだ? 俺の知る限りゴブリンは単体では雑魚、わらわら集まるとかなりやばいみたいなイメージがあるんだけどその認識でおけなんだな? ぶっちゃけ俺は戦闘なんてできないからお前らが無理ならやめとこうか?」

「主、何言ってるの? もしかして私がゴブリン如きに臆しているとでも言いたいわけ?」


 なんというか小物感が半端ないなこのグレーターデーモン様は……

 エロゲとかだと一番最初に捕まって陵辱の限りを受けるんだよな。

 自信がある事はいい事だが、若さ故の危ない自信と言ったところか。

 かたやガルンは聞いてすらいない。キャンディか何かをガリガリと齧って満足そうな顔をしてやがる。


「ほんじゃまダンジョン潜る準備をしっかりとして、ゴブリンに備えつつ、安全第一を前提に行ってみるか、なんか高値で売れる物が手に入ればそれはありがたいしな」


 通常の小さいゴブリンですら剣や弓、魔法まで使うという。

 昔インターネットのスレッドでゴブリンしか狩らない戦士のSSが流行ったが、害虫駆除しかり誰かがやらないといけない仕事ってのはあるよな。

 先入観で雑魚モンスターとか思っていたけど、今は生物としては完全に人間の方が下位の存在だろう。

 昔誰かが言った。

 猛獣と対等に戦うには人間には猟銃がいると……一夜漬けで剣を練習しても実戦レベルにはならんだろうし……


「罠の魔法でも覚えるか、基本的にやり過ごすこれが一番だ」


 俺の作戦にアステマはあまりいい顔をしなかったが、魔法を数多使えるアステマはこちらの切り札であるとか言ってやると露骨に嬉しそうな顔をする。

 こいつ、生まれる世界が違ったら完全にチョロインだな。

 地のパワーはガルンがいる。

 あと、ビビらせる程度には俺の斧も役には立つだろう。


「すみませーん! ダンジョン探索したいんですけど」


 俺は物おじしていないように振る舞ってそれを受付嬢に渡す。

 周囲の冒険者たちが一斉に俺を見る。

 

「あいつ、ゴブリン達が何か企んでるのを探りにいく依頼受けるみたいだぜ」

「命知らずもいたもんだな……いや、よく見ると見た事ない奴らじゃないか、ゴブリンの恐ろしさを知らないんだな」


 めちゃくちゃ聞こえる声で不穏なことを言われ、早速俺は依頼を受注したことを後悔した。

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