第8話 生活がそろそろやばくなってきたので神様お願いします。今からでもいいのでチートをください

「さて……まかりなりにも俺、補助職。ガルン、剣士か戦士。いや獣戦士か? それにアステマ。魔法使い。これでワンマンパーティーになりました。半分以上モンスターですけど」


 俺は宿屋に泊まるお金が尽きたわけで、ガルンとアステマを連れて街の外で焚き火をしながらそんな事を言って現実逃避する事にした。

 アステマ、こいつはガルンに比べてまだ知性があると少し前の俺は思っていた。

 うん、正直どんぐりの背比べだったわ。


「あ、主。もうそんなにすぎた事に関してメソメソする物じゃないわ! また探せばいいじゃない!」


 こいつはどの口がそんな事を言えるのだろうか? というか、仲間になったら強制的に主従関係が生まれるの? 

 こわっ……


 俺達は街に戻ると、残りのお金でニンニクみたいな材料。というか完全にニンニクを何とか購入。

 それをアステマが見て、触れて体に赤い発疹が広がった。こいつ要するに吸血鬼がニンニクが苦手みたいな感じでニンニクアレルギーがあったのだ。

 そして発狂して魔法で全部ニンニクを消し炭にしやがった。


「お前さ……グレーターデーモンってそこそこ中位の悪魔なんだろ? だったらさ、礼儀を持って謝れよ」


 俺の正論を無視してアステマは遠慮もせずに俺が持ってきたゼリー状のドリンクを飲み干す。


「ふふん! 謝らないわ! そんな事よりこれ美味しいわね! 気に入ったわ。もっと頂戴よ」

「いや謝れよ。アレルギーにパニクってニンニク燃やしてごめんなさいって言えよ!」

 

 普段はここまでしつこくない俺をイラつかせる悪魔。

 アステマはトマト味と桃味のゼリー状ドリンクを飲み干すと満足したのか自分の髪の毛をいじり始めた。


「主、分かっていないようだけど私はこれでも気高きデーモンなの。デーモンが人間に謝るなんてありえないでしょ?」

「……殺すぞ!」

「……ちょっ、主。そんな怖い顔しないでよ!」


 おっといけない。ガルンとは違う意味でイラつくアステマだが、度重なる非礼に殺意を覚えてしまった。

 深呼吸だ深呼吸。


「アステマ、ご主人が欲しかった物を焼いてしまったのだ。ちゃんとごめんなさいすべきなのだっ!」


 おう、バカなりに俺のことを考えるガルン。

 しかし、ガルンは超絶俺を見て褒めて褒めてオーラーを出している。

 もしかするとこの世界のモンスターってこんな奴らばっかりか?


「ご主人は美味しいかれぇという物を作ってレストランの人間に出さなければならないのだ。その為の材料にあの臭い実が必要だったらしいのだ。本当にあんな物で美味しい物ができるとはボクにも思わないのでアステマが燃やしてしまった気持ちはわかるのだっ! でもあの臭い実がないとかれぇが作れなくて、それが作れないとボク達は美味しいご飯を食べれなくなるのだ!」

「まぁ大体合ってるけど、もしかしてお前もニンニクダメなのか?」


 犬って玉ねぎとかダメだからそんな感じかな?


「なんでもいいや、とりあえず材料はあと二つなんよ。もうお前等邪魔するな。今まで一人で仕事をしてきたから初めて思ったけど会社の経営者って連中は凄いわ。まともに動かない歯車を組織に入れて歪みながらも動かしてるんだもんな。俺は経営者には向かないと思っていたけど、違うわ。効率性を追求した先には俺が全部行えば事足りるって最初からわかってたからなんだわ。異世界にきて初めて自分の有能さに驚いたわほんと」

「あ、主。誰も褒めてくれないからって自分で自分を褒めるのなんて少し、いいえかなり痛いわよ。昔、力尽くで自分を崇めさせようとしたアークデーモンがいたけどそれくらい痛いわ!」


 こいつはさ……本当に俺に喧嘩売ってるんだろうか?

 それなら買うぞ? コラァ!


「……結構。俺が痛い奴。いいだろう。認めてやろう。まぁ、一言だけ言っていいかな? アステマさん」


 俺がアステマを“さん“付けした事に耳ざとく気づいたアステマは少しばかり嬉しそうに片目を開けて俺の話を聞く。

 あぁ、こいつほんと腹たつな。

 それにガルン、テメェは何本チョコレートバー食ったらその腹は満たされるんだよおい?

 

「何? 今更ながらグレーターデーモンである私の凄さに気づいたのかしら? 主、そうならばそれは最も正しい判断だと言っておこうかしら? 魔物の中でも知性と品位に溢れたこの私に媚びていて悪いことは何もないわよ! 魔斧が私の手に渡ったとしてもこの街の人間だけは殺さずにそばにおいて奴隷として扱ってあげてもいいのよ! ね? こんなに心の広いグレーターデーモンなんて世界広しといえども私しかいないわ!」 

「流石に、魔法を使える種族は違うのだ! これにはボクも脱帽という言葉を禁じ得ないのだっ! 人間なんて滅ぼす事しか考えてなかったのだ!」


 モンスターの行動理念は基本人間を滅ぼす事らしい。

 正直俺が会社を起こしたとしよう。どうしてもこいつらと人間が関わることになるわけだ。

 いや、無理だろ。というか、人間食い出したりしたら目も当てられない。

 

「おー、分かった。もういいや。モンスターと人間はどうやら相入れぬ存在という事がお前達と語らうだけで十分に分かった。このカレー作りはなんとか俺の方で完終させる事にする。この魔斧の呪いもなんとか解けたらお前に送りつけてやる。ここでこのクソパーティーは解散しようじゃないか!」


 魔物という連中は動物に近いことがわかった。俺が離れていくことを知ると、途端にガルンとアステマは焦りだす。


「ちょっと、ちょっと待ちなさいよ主! このグレーターデーモンがこの魔法力と力を貸してあげるのよ! それも、主の、人間の仲間としてよ? そんな事他にある? ないわよね? 私がこの悪魔の中でも中級の私が入れば闇の魔物は大体恐れ慄いて近寄ってもこないわよ! こんな私を犬猫みたいに捨てるなんてありえないわ!」

「うん、お前が犬猫みたいにある程度躾ができる生き物であれば俺も捨てないわ。犬猫捨てるのは犯罪だからな。むしろ、お前が無駄にプライドが高くてかつたかぴしゃである事が絶望的に問題だわ。うん、俺はリスクヘッジを重んじるのね? お前の性能とリスクを秤にかけた時のリスクの高さは俺の許容範囲振り切ってますわー!」

 

 俺はもう遠い目をしながらアステマの方を見ずに聞く耳を持たない事にした。俺は自分が可愛いからとか、能力が高いからとかで、鼻にかける奴とは関わらない。こういうやつは地雷度100%だ。

 これ、ソロプレイヤーの鉄則な。


「何を言っているのよ主! リスクという物を取らなくていい人生なんかないってリトルデーモン時代に私を討伐しようとした教会の憎らしい信徒達が言っていたわよ! あの時は何を言っているのかと思っていたけど、今なら分かるわ! そう、私というリスクは主に必ず優位に働くでしょう!」

「いやぁ、本当に君のその自信とかそういうところには尊敬しかありませんわ。俺はね。自分の事、必ず役に立ちます! とか言って自分をプロデュースする人って俺とは違うので、それなりに評価をしているんですけど、アステマさんよ! お前さんは、私、天才ですから! すごいですから! とか、言葉と行動が伴わない自分大好き人間って、人間じゃねぇか、まぁいいや。君は人に迷惑をかける才能の塊ですので絶対信用しないんですよね。という事でお話終わり、なんだそのあほ面」

「だってぇ! 主、いきなりリトルデーモンからグレーターデーモンにクラスチェンジさせておいて、こんなところで見捨てられたら私はどうしたらいいのよ!」


 知るかよ! というか、仲間になって名前与えただけでその存在自体が役職上がるってなんだよ? えぇ? 平社員がいきなり課長になるようなもんか?

 あぁ、いきなり新入社員が課長になったとして何をしたらいいのかわからず露頭に迷うのか……

 我ながらクールな解釈だ。

 

 アステマは困り果てた顔をしている。よく考えると今までリトルデーモンとか言う時はどうやって生きてきたんだ? モンスター謎すぎるだろ。

 しかし、俺は切羽詰まった者が取る行動というものまでは考えてもいなかった。

 こいつら、最強の人になろうとしやがった。


「もう……この街の人間を皆殺しにしよう……そして自力でアークデーモンへの道を……」

「おぉ! そんな事でクラスアップできるのか? ボクも手伝ってワーウルフ・ガールになりたいぞ! これでご主人の力になれるのだ!」


 ……地球にもいたわ。自暴自棄になって無差別テロ起こす奴。

 そして、ガルンのように良かれと思ってとんでもない面倒ごとを起こす奴。

 アステマはもうすでになん等かの魔法詠唱を始める。

 ガルンもまた短剣を抜いて遠くから手を繋いで歩いてくる母親と子供の兄妹を……


「まずはあのお子達を八つ裂きにするわよガルン!」

「オッケーやめろ! お前達の決意は悪くないが、ベクトルの矛先が悪い。俺がみっちりクラスチェンジさせてやるから一旦街を出るぞ!」



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「クッソ、ニンニクとクミンシード。どうしたもんかな……あと二つでカレー作れるんだけどな」


 俺たちは一旦ガルンの寝ぐらに戻ると、缶詰を食べながら考える。

 あのまま街にいたらアステマとガルンはなん等かの迷惑行為を間違いなく起こすだろうし、やむなしアウトドアキャンプである。

 俺はテントを組み立てて、この中で寝袋でも使って寝ようと思っていたが、ガルンが何かを齧っている。それは俺が初めて異世界に来たときに見た夏みかんみたいな果実。

 ん? クミンシードって確か柑橘類だよな? アステマも一緒になって齧ってやがるが、これで代用できるんじゃね?

 ちなみに、この果物を街で売ると言うのはどうだろう? 少なくともニンニクと交換する事はできるんじゃないだろうか?

 

 アプリを起動させる。何かわかるんじゃないだろうか?


“ベコポンと呼ばれる地球における柑橘類。夏みかんやグレープフルーツに相当する物と思われます。一般的によく食される果物です“


 俺はこの時、初めてこの異世界生活のアプリに感謝した。

 よく食べられるという事はポピュラーな物なんだろう。流通が地球ほど完備されていないのであれば十分に販売可能かもしれない。


“猫々様はクミンシードの代価品を手に入れた!“


 うるせー!


「にしても、人間がいるところ、世界が違っても果物も似たような物が生まれるんだな……こういうのなんて言うんだっけ」


 俺は二人に聞かせるわけではないが独り言を口にした。

 世の中は全て必然でできていると誰かが言った。俺の生まれた地球もこの異世界もなるべくして生まれたわけだ。

 本来であればこの世界に詳しい冒険者なりとパーティーを組むべきなのだろうが、

 俺の近くにいるのは頭の中がお花畑のモンスターが二匹、そもそもこの世界の常識を知らない人間みたいな生物だった。

 結果として、俺はほとんどトライアンドエラーでこの世界について確認していかなければならない。


 テンション上がって攻撃魔法なんて覚えてみたが、正直逃げる時の目眩し程度だった。

 どう考えても回復や解毒スキルの方が使い勝手がいい。


「なぁ、お前達はどうやって魔法とか、戦闘スキルを覚えるんだ? 人間の俺は理論を聞いて刻印をもらう。で、持っている魔法力の限りまで回数が使えるみたいだけど?」


 あほ面で俺を見ている二人。

 分からない……と、まぁいいや。

 魔物と人間とではスキル習得に関して何か違うのかもしれないな。


 俺もベコポンを一つ齧る。甘さは控えめで瑞々しい。喉を潤すにはもってこいのようだ。このベコポンを食べて思い出したことが一つあった。大王ミツバチである。日本人の多くが知っているカレーの隠し味。リンゴとハチミツを回収した事。アステマが唯一役に立つのは魔法。

 

 ……いやぁ、流石にモンスター退治をモンスターにしてください。

 言えないよな。こいつ等がまともに使える仕事。

 カレー作りのクエストを完了させたとして、そこでもらえる報酬は700ガルド。三人で宿に泊まったとしても二日生活できない。

 実際、もう食べる物を買うお金がないので俺が持ってきた保存食を食べている始末だ。これが無くなったとしたら、衣食住の食がバーストする。

 日本にいた頃では考えられない恐怖だ。

 

 俺はスマホを太陽光充電器で充電させながら写真を撮っていたクエストを眺めていく。


 ・沼地に住む魔物の退治 危険度★8 

  無理!

 ・アマデウスの観測報告 次はどこに向かうかも正確さを伴う。十人以上のパーティーが望ましい。

  アマデウスってなに?

 ・最近見つかったダンジョンの先見部隊 報酬は危険度に伴いそこで獲得できるアイテムとなります

  馬鹿にしてるのか!

 ・回復魔法師募集 ※上級魔法を十回以上使用出来る人に限る。

  始まりの街で何を求めてるの依頼者の人?


 なんかさ……

 俺のいた日本でもそうだけど、労働力ってのは搾取されるものだ。

 勝手の分からない異世界、そしてお荷物も二つ。

 人生はハードモードだなとか思ったけど、異世界生活特措法のせいでさ

 ナイトメアモード突入じゃねぇか……

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