第7話 ガチのメスガキが仲魔になりたそうにこっちを見ている。仲魔にしますか? はい・YES ……クソが!

「おい……ガルン。レストランにカレーの材料を持っていく期限は一週間だ。もうあんまり時間も金もねぇ」


 流石のガルンも大王ミツバチに襲われ三日三晩三途の川を彷徨っていた。手持ちの路銀を殆ど治療に使い果たし、俺とガルンはチョコ味のカロリーバーを齧りながらこれからについて語る。

 ホテルに泊まる金が実はもうない。ガルンの栄養を考えて小麦のニョッキみたいな料理を注文。俺は数日飯を食わなくてもやっていける。宿の店主には今日ホテルを出る事を伝えている。


 クライアントの仕事を受けながら別の仕事を同時進行、マルチタスクは元々得意だったし、仕方がない。

 今回新料理を作るにあたって選んだカレー。

 カレーってのは実はクソ簡単に作れる。唐辛子、クミンシード、ウコンにニンニク。

 必須材料はこれだけである。これに相当する物を探しに山に入ろうとしたわけだ。

 よく考えれば異世界だから採集するという考えがそもそも愚か極まりなかった。この世界のこの街だって文化がある。

 一緒にいるアホなメスガキのせいで俺も少しばかり知能指数が落ちていたのかもしれない。


「この街でカレーの材料になり得る香辛料を探しにいくぞ、体もずいぶん動くようになっただろ?」

 

 塩味をメインとしたパイのようなパンのような料理にこれまた塩味のトマトソースのような物をいっぱいつけて頬張るガルン。


「うん、これは中々美味いぞっ! ご主人。店に売っている物を見にいくのか? さすがはご主人だ! 頭がいいのだ!」


 何も頭がよくない。むしろそこに気づかなかった俺は馬鹿だろう。


「とりあえず手持ちの金がもう殆どない。自転車操業は少しばかり気に入らないけど、一旦今請け負っている依頼をさっさとクリアするのに街の中にある店を見て回るぞ? 不本意ではあるけど俺の魔法力はこの前のハチからの逃走でレベルアップしたが、強力な魔法を覚えれるわけでもなく、三回使える魔法が四回になっただけだった。ぶっちゃけそれじゃあ焼石に水だ。俺は回復、解毒などの魔法を今後学ぶ事にする。ガルンは身体能力強化系に全振りしろ。常識やマナーは俺がしっかり教えてやる」


 そう言うとスプーンを振り回して喜ぶ犬娘、ガルン。本当にこいつはヒトらしくなれるのだろうか……

 

 それも懸念点なのだが……


「……………さて、ガルン。お前は多種族の友達とかいるのか?」


 そう俺が聞くと、ガルンは笑顔で首を横に振った。

 モンスターもいろんな種族がいるわけで、モンスター連中にもきっと仲良し、あるいは対立している関係もあるだろう。

 ホテルの部屋、食事中に俺がガルンにその件を尋ねて見た理由はちゃんとある。

 俺はなけなしの路銀で少し度数の高い果物の焼いた酒を注文した。度数にして四十度近い。ブランデーだろうか? 甘くて飲みすぎてしまいそうだ。


 ガルンはうまそうに飯をっていて、

 俺は美味そうに酒を楽しんでいる。まさか街中にモンスターがいるとは……

 いや、ガルンもモンスターなんだが一応人間だと思われているから普通に街中で生活できるわけなのだ……それが私、モンスターです!

 なんて状態でうろうろしている奴がいる……コウモリみたいな翼が生えており、アプリで確認すると……


 ★2 リトルデーモン 魔法力が高く夜中においては危険な魔物になります。昼間であれば体力、その他もろもろ人間以下の能力なる最下級の魔物です。


 という奴が先程からこっちを見ている。


「なぁに? もしかして、怯えて声も出ないのかしら? 人間とコポルトの不思議な二人組」


 なんだコイツ? 本日あと二時間でチェックアウトする部屋の外窓に腰掛けて座るリトルデーモンなる小娘のモンスター。

 やや人間よりも白すぎるように思える肌に真紅の瞳。恥ずかしくないのか? という露出の激しい格好。

 俺の世界にいればコスプレイベントとかで引っ張りだこになりそうな綺麗なモンスターだな。ガルンは可愛い、コイツは綺麗かな?

 年齢は海外で言えば十五、六歳くらい? 

 日本人なら十七、八くらいか?

 黄色? いや薄い金か? 癖毛なのか、巻毛なのか、絵に描いたようなヴァンパイアや、サキュバス的な感じだな。


「リトルデーモンを見るのは初めて? いずれはグレーターデーモン。いいえ、アークデーモンクラスになるのが私よ!」

「で、そのデーモンエリート、略してデリートさんが何の用ですか?」

「略さないで! なんだかカッコ悪いわ!」


 リトルデーモンなるこの小娘は何となくだが、ガルンより知性がある。が、コイツもアホだ。

 とりあえずいきなりタマ取りに来た感じではないらしい。


「ぐるるる! お前、ご主人の斧を狙ってきたのかっ?」


 斧? あぁ、あの斧ね? ガルン、察しがいいな。


「ふふん、よく分かったわね! さすがはコポルト種。こんなところにいるレベルの魔物ではないと見受けるけど、やはりアンタもまたその斧狙いかしら?」


 リトルデーモンはそれなりに育った胸を突き出して自信ありげにそう言った。

 何というか割と息が切れ切れでしんどそうだ。


 アプリ起動。


“リトルデーモンは基本夜中に人を襲う魔物の類です。夜中に遭遇した際の危険度は★3相当です。ただし現在昼間における危険度は★0。無害です。太陽光に弱く、普通に叩くだけで死にます“


 ほう、まぁ辛そうなので取りあえす無害なら部屋に入れるか……


「まぁ、入れよ。お茶くらいは出してやる。えっと、リトルデーモンさんでしたか? お茶飲むのか知らんけど」

「……バカにしないで! お茶くらい飲むわ!」

「へぇ、飲むんだ。まぁいいや。で? 何故この斧が欲しいの?」

「今完全にリトルデーモン種を馬鹿にしたわね? 表にでなさい! 至高の魔法で八つ裂きにしてやるんだから!」

「いや、お天道様の元に出たらお前さん大ダメージでしょうが、落ち着けって、というかどうやって来たんだ」


「夜からいたに決まってるでしょ! コホン、まぁいいわ! 今が夜じゃなかった事を感謝して耳をかっぽじってよく聞きなさい! ここいらの魔物が恐れ従った者がいると聞いて、まさか北をかつて支配した破滅の魔王が使っていたヘカトンケイルがいまだに実在し、それを持っている人間がいると聞いたのよ! それをこの私が手に入れる事で超上級魔族へのクラスチェンジね。この地が私の物になるのを約束されたも同然よ!」


 めちゃくちゃ一人で盛り上がるリトルデーモンに俺は件の斧を見せた。


「そうだな。この斧、呪われてるし、お前さんみたいな奴が持ってる方がいいのかもしれないな……ただし、タダで、とは言えないが?」


 リトルデーモンは理解が早くてありがたかった。条件を飲めばくれてやってもいいという事をいち早く理解した。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「このリトルデーモンの私を害虫狩りに使いたいって、人間。あんたバカぁ? もっと色々あるでしょ? 誰か殺してやりたい奴がいるとか?」


 件の斧をくれてやる条件に俺は当然、金を所望した。残念ながらリトルデーモンは一銭も持ち合わせがなかった。

 念のために材料を見にいくと、そこそこ値が張る事に絶望。

 結局山に入る事になった。夜中であれば強いらしいリトルデーモンは用心棒を依頼する事として合意した。


「俺は1日に四回しか魔法が使えない。それもフィアとフレイム、キュアの三つだけだ。それに対してお前さんは夜に関しては色々と凄いんだろ? ならここいらの害虫駆除に魔法を使っておくれ」

「コポルトは魔法が使えない……あんた達よく今まで生きてこられたわね。まぁいいわ、害虫を蹂躙して魔斧を手に入れられるならお安いものよ」

 

 俺とガルンは安心してリトルデーモンの後ろを歩く、キャンディーなんかを口の中で溶かしながら。


「ねぇ、コポルトには名前をつけてるけど、アンタの下僕なのかしら?」

「いや、色々あって俺の仲間という事になっているだけ、元々はハウンド・ドックだかキラー・ドックとかじゃなかったっけ?」

 

 一応、仲間になって名付けをして二段階クラスが上がった。その事実を目の当たりにしてリトルデーモンは開いた口が塞がらない。


「何それ? その反則」

「俺にもよく分からないけど、そんなこんなでガルンはやたら強くなった。レベルで言えば俺よりも上だからな。何だ? お前も興味ありか?」

 

 多分、リトルデーモンという連中はそれなりに知性があるので、それに比例してプライドも高いのだろう。

 

「はぁ? そんなわけないじゃない! この気高きリトルデーモンである私がなんで人間なんかと仲間にならないといけないのよ! それも見ず知らずのアンタに何で名前をつけられないといけないわけ? コボルトは犬だから名前つけられて尻尾振って喜ぶかもしれないけど私はそうじゃないわ! 魔物の中でも魔族という類まれなエリートとしての種族として生まれたのよ?」

 

 そう聞いてもいない事をベラベラベラベラとこの小娘は延々と話す。そんな時にあの大王ミツバチの大群のテリトリーへと足を踏み入れた。

 

「うっさいわねぇ! この私に前に下品な音を立てた事を後悔なさい! 広域火炎魔法。バーストファイアーっ!」

 

 炎の風とでも言えばいいのだろうか?

 リトルデーモンは襲いかかる大王ミツバチを次々に焼き払っていく。そんなこんがり焼けた大王ミツバチをガルンは拾って食べている。

 ガルンにはばっちいという感性はないらしい。

 リトルデーモンは使える魔法に限りがないのか?

 そう思わせる程強力な魔法を連射して俺たちが逃げ帰った場所一体の大王バチを駆除しきった。

 見惚れていたが、俺たちは大王ミツバチを駆除しに来たわけじゃない。


「よし、採集はじめっぞ! リトルデーモンも手伝え」

「はぁあああ? なんで私がぁ」

「それも込みでの依頼だ。不服なら斧はやらんぞ」 


 地味に草や木の実を集めてはカレー作りに適しているかどうかを調べていく。最初こそ面倒くさがっていたが、リンゴみたいな果実や大王ミツバチの蜂蜜をとってそれを試食し、リトルデーモンも自ら俺に採取したものを見せにくる。

 

 そして面白いことにウコンのようなというか完全にウコンの亜種と、鷹の爪ではないが、何らかのペッパーの種類である物を偶然コイツらは見つけてきた。

 あとはニンニクとクミンシードなのだが、ニンニクは街でそれらしい物が売られていた。頑張れば何とか買える程度の値段だった。

 

 よほど蜂蜜が気に入ったのか、リトルデーモンとガルンは延々と舐めている。これもカレーの材料にするのでそろそろ取り上げておくか……


「ねぇ人間、これで約束は守ったハズよ! その魔斧をよこしなさい」


 そういえばそういう約束だったなと俺はリトルデーモンに魔斧を手渡す

 受け取ったリトルデーモンは重そうに背負うと満足気に飛び去っていく。

 

 まぁ、うん。魔斧は呪いのアイテムなので俺の元に戻ってきます。

 そして、十分、二十分くらいでリトルデーモンの小娘が怒りの表情を浮かべて戻ってきた。

 

「に、人間! はかったわね? その魔斧と契約する事で私を騙し、私を働かせたの! 許さないわよ! ここまで人間に馬鹿にされたことは今だかつてなかったわ。覚悟はできているんでしょうね? 今宵、私は人間を八つ裂きにしてその肉片を街に散らせてやるんだからぁ!」

「契約じゃなくて呪われてるんだよ。この呪いが解けたらやるから」

 

 

 あー、ヤッベェとそう思っていたが、どうやら呪いのアイテムである魔斧を見てリトルデーモンも中々手を出せないでいた。そこでリトルデーモンの提案。


「……その斧の呪いが解けて手に入れるまで、私がアンタ達についてあげるわ、仕方ないから」


“リトルデーモンが仲間になりました“


 あっ、この展開は……

 リトルデーモンは俺の目の前で翼がやや大きくなり、髪の毛が肩まで伸びる。


“危険度★3 レッサーデーモンにクラスチェンジされました“


「お、おめでとう」

「名前は? せっかくアンタ、いいえ。主の仲間になったのよ。名前を私に」


 レッサーデーモンの名前ってなによ? 名前ねぇ……俺の世界では悪魔は真名を暴かれると払われる運命にあったよな。

 じゃあ、天使の名前にするか。


「アステマとかどう?」


“レッサーデーモンにニックネーム、アステマを指定。クラスチェンジが実行されます。危険度★3、グレーターデーモンにクラスチェンジしました。ユニークスキル・デイウォーカーを獲得“

 

 服装がドレス的な物に変わり瞳の色がかなり濃い真紅になる。

 新しい仲間としてグレーターデーモンのアステマが仲間になったわけだが、日焼けを気にしなくていいディウォーカーになれました。


 良かったね……


 クミンシードどうしようかな? とか考えながら下山をしました。

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