第4話 冒険者ギルドにやってきたら、なぜか娘の進路相談の話になった俺の心境とは……というか、娘じゃないんだけどね

「こんにちは、初めまして! 請負ですか? 見ない顔なので冒険者ギルドへの新規登録でしょうか?」


 今更だけど、言葉が通じるのはなんでなんだろう? とは俺は思わない。アプリが同時翻訳をしているらしい。

 俺とガルンのやり取りに警戒しつつも営業スマイルで微笑んでくれる受付嬢。スレンダーなのに出るところは出ているのは異世界ならではの遺伝子配合がそもそも違うからか?


 とりあえず俺は咳払いをしてから正直に話す。


「コホン。少し離れた世界というか、国から来たので右も左も分かりません。仕事をするにせよここで情報登録が必要だとか聞きましたが?」


 大体こういう風に言っておけば、ある程度のチュートリアルをすすめてくれるというのがゲームあるあるではあるが……


「初めてのギルド登録ですね? でしたら、まずは冒険者としての適正を確認する為のクエストを受けていただきます」


 はいはい、来ました。雑魚モンスターを何匹狩ってこいとかそういう系ですかね? 


“クエスト確認。冒険者ギルド登録のイベント発生です“


 うん、知ってる。

 内容は、何やら近所に出る魔物の退治、そして俺のなんらかのスキル証明になる事のレポートと、冒険者ギルドへの登録料。

 これは定期的な掛け捨てになるらしい。まぁ、所得税の先払いだと思えばいいか……


・登録料10000ガルド 金額にしていくらなのか後で調査だ

・近隣の畑を襲う魔物の退治

・俺のユニークスキル。要するに特技の提出


「よしガルン。ちょっとこの国のお金の価値を調べてみるぞ」

「お金の価値? ご主人。お金という物を持っているのか?」


 ……まぁ当然金なんて持っていないが、俺には錬金術というか、売っても戻ってくるこの斧がある。

 受付嬢に武器屋の場所を伺ってガルンを連れて一度ギルドを出る。めちゃくちゃ睨まれているのは無視だ。

 この街の広さ的には日本の温泉街のような生活に必要そうなものは最低限大体なんでも揃う程度のど田舎だな。


「ガルン。まずは物を売って物を買う。ありがたい事に言葉は通じるからあとは物価を理解する事が外国で生きていく方法の一つだ。覚えてとけよ? そもそも登録料の10000ガルドが安いのか、高いのか検討がつかん。1万円くらいなのか、百円くらいなのか、それとも商業組合に入るから100万近い価値なのか……」

「ご主人は頭もいいなっ! ボクにはさっぱり分からないぞ! でもそれが分かるとこれからご主人にとって都合がいいのだなっ? そうなのであればボクはご主人に従うのだっ!」


 誰かが言った。知らぬ事は恥ではない。学ばない事が恥なのだと。ガルンは多分魔物という事もあり学がない。

 しっかし、今までどうやって生きてきたんだ? 魔物の生態も今度暇な時に調べるか。

 よほど誰かといるのが嬉しいのか、尻尾と耳を隠しているところがぶるぶる震えている。

 日本人としての情をそれなりに持っていた俺は、俺の常識が通じるか分からないこの世界にモンスターを連れて歩いている事に少しばかり不安を感じていたが、まぁいいや。

 ザ、武器屋にたどり着くとノックをして入る。無骨な店主が見知らぬ顔の俺を見定めているようだ。


「こんにちは、買い取って欲しい武器があるんだけどいいですか?」

「あぁ、なんだい? 宝剣か何かなら宝石店だぞ?」


 案外普通のオッサンだ。まぁ、客商売だからそうなんだろうけど、俺が布を巻いていた斧をオッサンの前におく。

 破滅の主が所有していた魔斧。黒く、黒曜石のような刃に4つの宝石みたいな何かがハマっている……呪いのアイテム。


「売りたいのはこれなんですけど、いくらくらいになりますかね?」

「……なんだこりゃ、魔力のこもった武器か、どこでこんな物を?」

「生き別れになった親父から送られてきた物でね。俺には不要だから」


 嘘は言っていないハズだ。


 俺のクソ親父は多分この世界のどこかにいるし、俺には正直不要なものだ。

 そして、店主は眼鏡を持ち出してきて、冷や汗なんかを流して鑑定をしている。こりゃ多分結構な金額になるんじゃないだろうか……


「どうですか? 10000ガルドくらいになってくれると助かるんですけどね? 冒険者登録とかしたいので、それとも二束三文ですかね?」

「いや……これは競売にかけた方がいいぞ。紹介してやる。紹介料を払ってくれるなら、冒険者登録料を肩代わりしてやるよ」

 

 マジか!

 オークション的なやつか?


「えっ? マジですか? 全然登録料とか言わず売れた金額の半分あげますよ。まぁその斧。色々といわく付きですし、俺は色んな意味で損しませんので……じゃあその間にクエストとギルドに提出する俺の何か特技をレポートにしますよ」


 武器屋のおっさんは何か一筆書いて俺に渡してくれた。これを持っていけば登録料代わりになるらしい。小切手みたいなものかな?


「ガルン。先に魔物退治にいくぞ? 俺は喧嘩や戦闘行為はてんでダメだ。腐ってもお前はモンスターだから、ここに来る前みたいにちょっと話して退散させるか、適当にやっつけろ」

「任せるのだっ! このコポルト・ガールの僕の力を持ってすればこの辺の魔物なんてどうってことないのだゾッ! 何せ、僕は獣人系の最上級下位種にまで上りつめたのだ!」

「この馬鹿ちんがぁ! 自分からモンスターですぅ! って名乗る奴がどこにおるんじゃぁい! おっと、あれが畑を散らかすモンスターか、チャチャっとよろしくな!」


 自らをモンスターであると大声て言うガルンを抑えて俺はクエストの魔物を確認する。

 すごい! 感動だ。本当にスライムという魔物がいるとは驚きだった。というかどういう生物なのアレ?

 全部で五匹。アプリで確認するとレベルは2で★も1。危険度もレベルもガルンの方が強いし安心だ。


「ご主人! あれは無理ぃ! 臭くて気持ち悪くて、近づけないし、さわれないのだぁ! アレは僕には後生なのだっ!」

「選り好みすんなよ。とりあえず話し合いで解決しろ、話し合いで! 俺は暴力とかは嫌いなんだ。戦わずとも鼻つまんで話せばいいだろほらいけ!」


 俺の為になんでもすると言った矢先、超嫌々ながらガルンは雑草だか、収穫物だかを食べているスライムに近づいていく。

 種族は違えど、同じモンスター同士。

 穏便に……


「ガルルルルルル! ご主人の為に死ねぇえええええ! このぉお! 臭くて、うざくて、存在価値のないスライムめぇえ! ご主人はお前達の存在を許さないんだぞぉお!」


 こいつ、滅茶苦茶言いやがるな。俺のせいみたいになってやがる。実際そうなんだが、殺すのは良くないだろう。

 しかし頂けない、こいつわざとやってるのか?

 もしかすると魔物は人間と相容れない存在。俺が思う以上に賢しいのかもしれない。とか思ったけど、ガルンは多分アホの子だ。


「なんたって、ご主人は虚の森を拠点とする魔王様なのだからなぁ! はっはっは! 恐れて死んでいけぇい!」


 うん、こいつは駄犬だ。マジかよ。魔王という言葉にこの畑の持ち主である老夫婦が俺の事を不安げに見てるじゃねーか……

 腰の短剣を抜くとガルンはスライム相手に大立ち回り、しかし相手スライムだ。物理攻撃が効かない。


「うわー! だめだぁ……魔法が使えないボクじゃスライムをやってけられないぞっ……ちくしょうぉお!」


 うん、馬鹿だなぁ。俺ならスライムの生態を調べてスライムの苦手な事、なんなら体を構成している物を分解して駆除するが、まぁ駄犬には無理だろう。

 さて、スライムはゲームみたいに物理攻撃ではなんともならない。魔法攻撃が効果的。だが、こいつも魔物である以上俺の斧である程度の効果はあるだろう。

 背中に担いでいる黒い斧を取り出すとガルンの横に立つ。斧を見せるとスライム達は震え出す。


「ガルン、スライム達に話をつけろ。ここから去れってな」


 涙目のガルンがスライム達にドヤ顔で説得を始めた。


「スライム共めぇ! ついにご主人を怒らせたなっ! この斧を見れば分かるのだ! ここから一刻も早く離れなければこの街もろとも魔王の鉄槌が降るのだっ!」


 虎の威を借る狐とはこの事を言うのだろう。

 マジかこの駄犬。

 どこかまで俺を追い詰めれば気が済むんだ。

 今まで不安げにしていた老夫婦はもはや確信の目で俺を見ている。


 もしかすると、俺は今まで戦わずに小さな子供に見えるガルンに戦わせていたクソ野郎に見えたのか?

 ガルンは全く空気を読まずに仁王立ちでスライム達を従わせる。虚の森で下僕にしてやるとか勝手に言っちゃってるよ。


「そうだそうだ! ちょっと通常での打撃が効かないからって調子に乗りやがってなのだ! 見たか! ご主人のこの威厳と心の広さ! ゆくゆくはこの世界を支配するんだぞぅ!」


 おうおう、話を盛ってくれるどころから人間様相手への完全な宣戦布告までこの駄犬はできるのか、大した躾だ。

 俺がこの斧を見せたのか多分レベル差の暴力でビビらせ退散させる。無血開城でウィンウィン。冒険者登録も行いさぁ異世界生活の始まりだ。

 のハズが、全部台無しじゃねーか……


「あんた達、魔物と喋れるのかい?」

「それに聞き間違いじゃなければ魔王って……良く見ればその斧。なんとも禍々しくて恐ろしい姿形をしている」


 ほらぁ……ほらぁ駄犬っ!


「なんだ? 人間の年老いた男と女。……成程、自分達だけはご主人の恩恵を受けたいと思っているのかっ? ワハハ! 馬鹿めっ! 貴様らも滅ぶのだっ!」


 うん、違うよ。何言っちゃってんのこの子。


「あんた、この子の保護者だろう? 本当なのかい?」

「こんな愛らしい見た目で……亞人。上級魔族か何かかい? もしそうなら憲兵に!」


 さて、俺はこの場をどうクールに切り抜けたと思いますか?

 この駄犬は少し頭が足りない子で、俺が保護をしているという事。

 そして魔王ではなく、俺はこの地域で会社を経営。

 シーイー王になるという適当な言い訳。


 “異世界生活での目標が設定されました。会社の設立。そして犬神猫々様はCEOのルートが開拓されました“


 嘘から出た誠って知ってますか? 異世界、最悪っすね。なんのかんのあって俺達の適性クエストは終了したのでギルドに戻る。

 

「すみません、ギルド登録お願いします。お金の代わりにこちらを」

「あら、紹介状なんて珍しいですね。ではお二人ともに冒険者登録を行いますのでこちらへ」


 クエストのクリア、そして俺のユニークスキルとして武器屋さんとの交渉と、畑を所有している老夫婦の農作物の優先購入契約。交渉能力が認められた。

 実際に知りたかったお金10000ガルドがいくらくらいなのか結局分からなかったけれど、まぁおいおいだ。

 受付嬢は何も支払っていない俺たちに支度金として2000ガルドを駆け出しの祝金として渡してくれた。


「以上でギルドの登録は終了です。イヌガミさんは商人としての駆け出しとなるわけですが、駆け出し時の記録としてガルンさんと共にスキルチェックを受けてください。奥の部屋にある魔力水晶に触れる事でレベルや得意な分野などがより深く分かるようになっています」


 これがあれか、ギルドやら教会やらで云々のね。

 ゲーム序盤とかだとスキル振りとかを攻略サイトとか見て行うところだが、やり直しも何も人生は一回きり、俺は水晶に触れて自分も知らない自分の能力を確認する。

 受付嬢とこのスキル確認専用のショートカットの女の子。こいつも犬耳だ。モンスターではなく獣人らしい。ガルンとのその差は後で調べるか……


「ありがとうございます。イヌガミさん。すごい知能指数ですよ! 賢者を目指せるレベルですね。あとは体力は普通です。魔力は随分少ないです。ギリギリ魔法が覚えられるくらいでしょうか? もし材料採取等でダンジョン攻略をする際は武器を使い補助魔法などを覚えるのがいいかもしれませんね? モンクファイターやクルセイダー等も向いてますよ」


 なる程ね。回復しながら戦う人。壁役の戦士ね。

 はい、嫌でーす。異世界にまで来て、壁役とかする人、全員馬鹿です! とか論破する人に言われそう。なんたって世の中商人が最強なんですよ。それは日本の歴史でも証明されてきた事だからね。


 マジで。


「えぇ! 目指すはCEOですから。商人ルートでおkです」


 受付嬢と犬耳嬢は不思議そうに顔を見合わせる。


「シーイー王ですか? まぁ、少し生活をしてみて違うと思われれば転職クエストを受けて職を変える事もできますから。物は試しですよ! 頑張ってくださいね!」

「でもでも、商人職は一攫千金だから、玉の輿候補としてはありがたいんだけどねぇ。代わりに競合他者が多いから露頭にも迷いやすいんだよね? せーんパイっ! イヌガミさん。目つき悪くて幸薄そうだけど見てくれ悪くないしチャンスじゃないですか?」


 うん、そういうことは本人がいないところで言おうね! 駄犬その②め。

 この世界のケモ耳族は俺の敵なんじゃないだろうか?


 さて、晴れてこの世界で就業する資格証明を手に入れたわけだが。

 肉体労働は性に合わない。

 かといって、この世界にはプログラムもブログ作成の依頼もないだろうし……

 割と俺、詰んでないか? 商人って言ってもコンビニバイトくらいの経験しかないし……


「ではガルンさんは……モンスタートーカー。これは凄いですね! モンスターと話せたり、飼育できるレアスキルですよ。体力と身体能力がもう既にベテラン冒険者級です。魔力は……残念ながら潜在能力が全くないです。お二人は一体どういうご関係なんですか?」


 そりゃモンスターだから、モンスターと話せますわな。レアスキルというとギルドにいる連中が興味を持ち出して顔を覗かせる。

 さて、これでガルンとパーティーになりたいとか言ってくれればガルンともお別れだな。


「ボクとご主人の関係? ご主人は僕にどんな命令だってできる唯一無二のご主人なのだっ!」


 おいおいおいおい! 言い方!

 滅茶苦茶二人の女性にやばい奴を見る目で見られる俺。とても心外です。


「コホン、ちなみにガルンさんは最終的にドラゴンブリーダーにもなれるビーストマスター、そしてモンスターティマーを目指すか、あるいは傭兵やダンジョン攻略にも大人気のライダーやサモンナイト。ほぼ今後を約束されたような職を目指せます」


 これさ、モンスターって割と得なんじゃない?


「ボクが目指す先? そんなことは決まっているのだっ! ご主人が求める事。求めるものこそが僕が目指す場所だ!」

「……と、とりあえず普通の冒険者として登録して、まだお若いので時がくればガルンさんの進路をそのご主人……であるイヌガミさんが一緒に考えられればどうでしょうか?」


 保護者的にね。娘の今後の学歴がぁとか、就職活動がぁとかね。

 うん……マジか……結婚もしてないし、子供もいないのに? 


 とりあえず今日は支度金で焼肉とビールだな。

 あぁ、ここ異世界だからねぇか。

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