第3話 異世界で動物というか雑魚モンスターについ餌をやってしまった結果、懐かれてしまった

「やベェ、全然そそらない。そもそもノマドワーカーでその日暮らしだが、しっかり税は納めていた健気な国民をこんな得体のしれない世界に放り込むとか、あの国はもう本当にダメなんじゃないだろうか?」


 俺は誰に言い聞かせるわけでもないのだが、そう口にして見渡す限り森、山、荒野的な情景に困惑している。

 ガキの頃、夏休みに両親に連れて行かれた田舎の祖母の家でももう少し何かあったと思う。


「おい! そこの人間ッ! よくもまぁこのボクの住処。虚ろの森にやってきたなッ!」


 さて、拠点を探す事を第一目標とするか、できれば屋根がある場所、最悪日本から持ってきた大型のテントを貼ればいいのだが……

 火を起こしたら獣除けになるとして、モンスター的な奴らは火を恐れるとかあるのだろうか?


「人間め、ブルって声も出ないのか? 荷物を置いていけば命だけは助けてやっても構わないぞっ!」


 さて、無視していたらどっかに行ってくれるんじゃないかと思っていたが、目の前には十歳くらいのメスガキが一人。いや、一匹なのかな? 

 犬か何かの耳と尻尾を持った民族衣装のような服を着たメスガキは俺にカツアゲをしてきているらしい。

 その辺に自生している夏みかんみたいな実をかじって酸っぱかったのか吐き出している。


 多分、いや間違いなくアホの子だな。


「近所のお子様デスか? 今、お兄さん自分の世界から島流しにされたのでこれからのビジョン考えている最中だから、あっち行ってくれるかな? しっし」

「人間、ボクを馬鹿するなよっ! ボクは、この虚の森に住んでいるハウンド・ドッグ様だぞぅ!」


“アプリを起動します。モンスターエンカウント。ハウンド・ドッグ。推定レベル4。危険度★1。★30は地球の人間では逆立ちしても勝てないレベルです。★1を地球の危険度に変換。野犬などに相当します“


 そう、目の前にいるメスガキの言葉とクズ原に半ば強引に入れられたアプリの回答を鵜呑みにすればコイツはモンスターである。

 マジか! 初のモンスターにエンカウントしちゃったよ。

 ハウンド・ドッグなるメスガキは襲いかかってきたので俺は慌てて止める。


「オッケー! 少し話そう、いや。ちょっと待て! 牙と爪を下げなさい。いや、ほんとマジで! ん?」


 ズドン!


 俺に掴みかかろうとしたハウンド・ドッグに噛みつかれるかと思った俺だったが、電動自転車に積んでいた破滅の主が所有していた魔斧が俺とハウンド・ドッグとの間にズドンと落ちてきた。

 俺も死ぬ程驚いたが、ハウンド・ドッグのメスガキはその斧を見てビクビクと震え出す。


「ななななななな! なんてもんを持ってるんだっ! お前っ。いや、強力な魔導士か亞人とお見受けするのだっ! 名前を教えて欲しいのだっ!」


 ハウンド・ドッグは突然かしこまり頭を下げて俺にそう言う。

 しっぽが震えている事から、この斧に相当ビビっているのだろう。

 

 ははーん。この売っては戻ってくる金に困った時の緊急錬金術アイテムがモンスター相手に虎の威をかる的に役立つのは一ついい事を知った。

 一発このメスガキをビビらせてこの周囲のモンスター共に俺が襲われないように大口叩いておくか。


「気づかれたか、犬娘。俺はあれだ。その斧の持ち主にしてこの辺りに住もうと思っている日本人様だ。お前のその失礼な物言いに怒りの鉄槌でもお見舞いしてやりたいところだが、今回は俺もそんな相手をしている暇はない。この辺りの魔物連中に俺には関わらないようによくいい聞かせておけよ。俺の名前は犬神猫々。個人事業主のノマドワーカーだ」

「マオ……マオ……! 魔王様なのかっ? 通りでそんな凄まじい魔法力と禍々しい力を放っている斧を持っているのだっ! ここには魔物は殆どいないのだ。食べる物も殆どないし、たまに迷い込んできた人間を驚かせて身ぐるみを剥いで強奪して今までしのいできたのだっ! でもここに新しい魔物の王。魔王様が来てくれると話が違うのだっ!」


 さて、この犬娘の話からして、この辺りには魔物は殆どいない。この情報は良い収穫だ。

 だが、俺は魔王ではないし、とりあえず拠点を元に何か仕事をしなければならない。

 そして、俺は考え事をしながらその場からゆっくり去ろうとするが、犬娘はめちゃくちゃついてくる。


「おい犬娘。俺は魔王じゃないマオマオだ。で俺は子供と動物がとっても苦手なんだ。ついてくるな!」


 俺がケモナーで幼女趣味だったとしても目の前の犬娘はちょっとごめんだ。なんというかすげぇ獣くさい。いや、ケモナーは獣臭いのがいけるのかもしれないけど、俺は無理だなぁ。


「マオ……マオ様? 置いてかないでぇ! もうかれこれ三日は食べてないのだっ! 今回獲物を取り逃したら餓死してしまうのだっ! せっかくこの地を治めてくれる魔王様がやって来てくれたと思ったのに……ううん、マオ……マオが魔王様になればいいのだっ!」


 こいつ、適当言ってくれるな、ほんと面倒な奴に絡まれた。

 ハードラックとダンスちまった気分だ。そういえば、ギルドか教会に行けばアプリよりも詳しく俺のステータスが分かるらしい。というかステータスって何よ……まぁこの世界の事も知りたいし、こいつとちょっと話をしてみるか。


「おい、犬娘。この辺りに教会かギルドのある街とか村とか、そういう所はあるか?」

「それは人間が住んでいる集落の事なのだ? それならばここから数時間歩いた先にあるのだ! でもそこにはボクが行くと追い返されてしまうのだ……」


 俺の質問に犬娘は表情を曇らせてついて来れないアピールをするが、俺からすれば好都合である。


「まぁ、それは俺には関係ない事だし、むしろモンスターがついて来なくなると思うと正直、あざーす!としか言いようがない。じゃあな! 達者でな」


 犬娘と別れてこれからをどうしようかと思ったが、犬娘は俺の足にしがみついて離れない。もし、俺がクズ原のように心ない人間であれば蹴り飛ばして“汚い手で触るな!“ とか言ったのかもしれないが……

 泣いている小さい女の子にそんな仕打ちをする程、人間終わってもいない。


「置いてかないでぇ! お腹が空いて死んじゃうのだぁ! なんでもするからそばにおいてぇ! 最初はドブ臭い人間だからボコボコに半殺しにして荷物を奪ってやろうとした事は謝るのだっ! これからはマオ……マオ様の為に尽くすのだ! その斧が怖いから!」

「正直者は好きだが、俺はここに来る前にクズ人間と関わってやや人間不信に陥っているんだ。モンスターまで俺を不信にさせるんじゃねぇ! 半殺しにするつもりとか謝っても許されねーからなオイ! チッ、お前を連れてたら俺まで怪しまれそうだ。とりあえずなんか食って落ち着け」


 俺は荷物を漁る。それにしてもモンスターって何食うんだ? 

 こいつ人間みたいだし、犬っぽいからそうだな。牛肉のしぐれ煮の缶詰とかでいいか?


「おい、犬娘。とりあえずこれ食え。腹減ってんだろ?」


 缶切りが不要な缶詰を開けて犬娘にそれを使い捨てフォークと共に渡すと受け取ったまま犬娘はじっと見る。


「これ、食べていいのか?」

「しゃーねーだろ。腹すかせた子供を置いていくのは、人間のやる事じゃない。あとそれ食ったらねぐらに帰れ」


 その時、ポケットの中のスマホからアプリが起動した。


“仲間の契約が成功。ギフト・牛肉のしぐれ煮を持ってモンスター・ハウンド・ドッグは犬神猫々様の仲間になり、クラスチェンジが実行されます。キラー・ドッグにクラスチェンジ。危険度★2。レベルは7にアップされました“


 目の前の犬娘は薄汚れた状態からやや身綺麗になり、髪の毛が少し伸びた。十歳から少し成長したような犬娘。


「え? 何これ? おめでとう、モンスターは進化した! 的なやつか?」


 犬娘は自分の変化に目を輝かせる。そして飛び跳ねてから俺に言った。


「マオ! いやご主人! これからよろしくなのだ!」

「いや、ねぐらに帰れよ!」


 かっかっか!もっもっも!と牛肉のしぐれ煮を食べては「うまいのだー!」と喜び尻尾を振る犬娘。

 嗚呼、俺犬とか嫌いなんだよな。スマホのアプリを見ると俺と犬娘は仲間になったらしい。仕方ない、野生動物に餌をやった俺にも問題はある。番犬代わりにはなるのかもしれないし、まぁいいか。

 そうなると聞かなければならない事。


「お前の名前は?」

「ボク? キラー・ドッグ?」

「いや、それ種族名だろ?」

「う〜ん、名のある魔物は殆どいないのだ。普通魔物に固有名はないのだ!」


 あー! あー! なるほどねっ! そういうアニメ見た事ある。雑魚モンスターはモンスターA、モンスターB的な奴か、俺がガキの頃熱中したポケのモンとかも全部同じ名前でニックネームつけれたよな。


「じゃあお前名前付けるは、何がいいかな? ワーウルフっぽいから、ガルム? 女の子だから女性名詞的にガルンとかいいかな?」


“ニックネーム。ガルンを設定。名前の決定。キラー・ドッグへの名付けに成功。キラー・ドッグのクラスチェンジが実行されます。コポルト・ガールにクラスチェンジ。危険度★2。レベルは9にアップ“


 おいおいおいおい! マジか、飯与えてあだ名つけただけで俺の二十四年のレベルを瞬時に越えやがった。どんな伸び代あるんだよ。化け物か! いや化け物だ。ガルンは見た目の年齢は変わらないが、腰にいつの間に装備した短剣。俺よりも冒険者みたいな見た目に変わった。


「ご主人! 驚いたぞっ! ボクがこんなに強くなるなんて! 今なら初級冒険者と互角に渡り合えるのだっ!」

「あー、うん。俺も驚いたよ。飼い犬の方が飼い主より強くなるなんて。とりあえず首に巻いてるバンダナを頭に巻いて耳を隠せ。尻尾を短パンの中に隠せ。今のお前なら人間で通るだろう」


 ガルンという名前をつけてやった事で気分を良くしたのか、俺の隣をスキップでもしてついてくる。

 街まで電動自転車を使っても良かったのだが、明らかに文明の力を見せつけて警戒されるのもアレなので、ガルンの寝ぐらである洞窟に荷物の大半を置いて俺は斧とスマホなどの俺の仕事道具一式をカバンに入れて近くの街に向かう。


 冒険者や各種職業のギルドや貨幣経済がどうなっているのかを知るところから俺は入るわけだが、ラノベのキャラクターって中高生でこんな世界来るとか、良く考えれば割と詰みじゃないか? 社会に出た事もないクソガキがいくらチート持ってても社会的に抹殺されるのがオチのように思えるが、まぁ俺のように先行きの事ばかり考えてしまうよりもいくらかマシか……


 あっけらかんに笑いながら俺の隣を歩くガルンを見ていると俺もこいつくらいの年齢の時は夢見る少年だった気がする。

 モンスターは生息していないとか言ってたわりに道中何度かモンスターと遭遇する事があったが、俺の斧を見てビビるか、コポルト・ガールになったガルンを見て逃げ出すのですんなりと小さな街へと辿り着いた。

 ここは教会もギルドもあるらしい。そもそもこの世界の貨幣についても全然分からないので、まずは王道の冒険者ギルドに行ってみるか。


「ガルン。街は人が多いからうろちょろするな! 俺の手を握ってとけ」


 あー、うん。

 手を繋いで歩いてわかったわ。俺はガキの面倒とか無理だわ。しっかし、全部ネットで仕事を受注していた俺からするとこのわざわざ出向いて仕事を請け負う制度。


 無理だわぁ。


 なんかさぁ、引きこもりとかさ、コミュ障の奴とかが異世界きて順応するじゃん? あれギルドに来て仕事すると無理じゃね? 

 だって連中が泡を吹いてぶっ倒れる社会人様だった俺ですら超行きたくねーもん。


「ガルン。とりあえず俺が空気感とか察してこの世界の文化レベルとかそういうの探りを入れるからお前はただ笑って突っ立っとけ、いらん事はするなよ? お前がモンスターである。という事がバレるのが超絶やべー事案なわけだ。まぁ俺に任せとけ、いいな?」

「うん! ご主人の言う通りにするのだっ! 人間達がうじゃうじゃして、皆殺しにしたい気持ちでいっぱいだけど、ボクはご主人の従者になったからなっ! とりあえずニコニコしてればいいのだな?」

「オーケー、いい子だ。あとでしぐれ煮をやろう。いくぞ!」


 俺はなんとも高そうな扉を開く。そこでは想像通りの仕事請負カウンター、そこに冒険者と思わしき連中が喋っていたり、仕事の張り紙を見つめていたり、周囲を見渡して大体理解した。

 成る程な。

 ドヤ街なんかにある身分を隠さないといけない日雇い労働者向けの蛸部屋みたいなもんだと思うか、まぁガラの悪そうな連中の中を俺は物怖じせずに歩く。社会人経験って割と異世界で役に立つんだなぁ。


「お子様連れだぜ。嬢ちゃん、こっち向いてぇってな!」


 めちゃくちゃ絡まれるが、無視だ無視。俺は自慢じゃないが、喧嘩なんてした事ないし、殴られたら即死できるくらいの自信がある。

 そんなガラの悪い男にガルンは微笑んでみせた。それがガラの悪い男達を黙らせる。

 すげぇ! 遠回しに相手の三下具合を認識させた!

 さて仕事の請負と報酬の支払いは別のようだ。支払いは男、受付は女。ゴネられてもいいように元冒険者か何かだろう。支払いの男の人、めっちゃ怖いもの。

 とりあえず俺は受付嬢の元へと向かう。人種はどうだろう? ロシア系に近いのかな? 綺麗な人だ。二十代前半くらいだろうか? 初めて異世界に来て少々感動してしまった。


「ご主人。あーいう人間の雌が好みなのかっ? あーいうのと交尾をしたいのかっ? 胸が大きくて腰と首が細っこい。あーいう雌がいいのだな? ボクはまだあーではないが、あのように育つように努力するゾッ!」


 誰かこいつを黙らせてはくれないだろうか? めっちゃヤバい奴を見る目で俺を見る受付嬢。


「ガルン。俺は黙って微笑んでおけといったハズだ。どっかその辺にある木箱に詰めて捨てに行くぞ。ここは仕事やらこの世界の事を知る為に俺も下げたくもない頭を下げて原始人共に情報を聞き出そうとしてるんだよ。分かるか? 本来であれば俺は仕事を終えて、風呂に入り、お気に入りのブランデーでも舐めている頃合いの中、遠路はるばるやってきたんだ。分かったら黙れ!」

「分かった。ご主人は愚かな人間達相手でも必要とあれば、我慢をする事ができるのだな。ボクの配慮が足りなかったのだっ!」


 正直、すぎた事をとやかく俺は蒸し返したりはしない。だが、流石に俺もディスりすぎた。明らかに俺たちを見る目に殺意を込めている冒険者達。

 ちゃっちゃと情報を聞き出してドロンしよう。

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