死んだ後の吉田と田村

 田村はドMだったが、奴隷になるとは聞いていなかった。奴隷商のある大通りから逃げ、路地裏を駆け抜けていく。ぐにゃぐにゃした道が多く、何処にいるかもわからない。

 口の中は血の味だ。

「はぁ、はぁ」

 ふと田村は顔を上げると、日本語が見えた。

 久しぶり見たものだから、見間違いかと思ったが。ガッツリ『吉田』と書かれている、その上と後ろにくっついた文字は読めなかった。何故なら田村は奴隷として異世界で産まれてしまったから、字が読めないのだ。

 縋るように吉田と書かれた店に踏み込む、香り高い、どこか懐かしい香りだが具体的にはわからない。

 自分以外の転生者が存在するのかもしれない。

「いらっしゃいませー」

 そう言った男は、日本人少なくともアジア人だ。

「あ、あの」まだ息が上がっているが何とか言葉を紡ぐ「日本人ですか?」

「え!?」

 言ってから異世界人というのはあまり言ってはいけない事なのではないかと、気がついた。

 店内にいた全ての客が、変なのが入ってきたぞと好奇な目で見られた。ドMの田村の一部は喜んでいたから、複雑な気持ちだった。

 田村は病人を看病するようにバックヤードに連れて行かれた。

 

 ワイは異世界を見る水晶から離れた、もうそろそろ後輩の研修をしてやらねばならないからだ。

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