第25話 死闘開始!!

 フルプレートのおっさんが畑に踏み入り、視界に入っていないかのように先ほど植えた苗を踏み潰す。天高くかかげられた剣が、何のためらいもなく振り下ろされた。マジかよ!?


「死ね! 忌まわしいガキめ!」


「ふざけんなよ!」


 間一髪振り下ろされた剣を避けると、僕は隣に居たウキ太を飛びつかせた。金属と骨のぶつかる軽い音が響く。もちろんウキ太はしがみつくことしかできない。


 それで鎧のおっさんが止まるとは思えないが、今のうちに逃げなければ殺されてしまう。それにあの兜じゃ後ろも見えづらいだろう。


 トリ男ー! 早く帰って来てくれー! 


 あっ、後ろでウキ太が振りほどかれて叩き壊された。一部の骨が折れてしまったのが僕に伝わってくる。そうか、あかんか……。


 トリ男の居る方向……川原に向かって走り続ける。後ろのおっさんはフルプレート着てるのに、機敏に追いかけてくる。この世界の人間の身体能力おかしいだろ!


 ガッチャガッチャとなる金属音がどんどんと近付いて来るのがわかる。こえええええ!!


「待て! クソガキ!」


「待つわけないだろ! バケツ頭!」


 僕は頭の中でモグ次とモグ造に指示を出す。ウキ太は下半身をやられてもう立てないらしい……。絶対に許さんぞ、バケツ頭!


「死ねッ!」


 また後ろを剣がブン! と通ったのがわかった。10歳児になんてことしやがる!


 僕は振り返らず、川原へ下りる獣道を飛び下りる。


「ワームども! いけ!」


 僕を追って下りてきたバケツ頭にリバーワームがパチン! とゴムのように跳ねて飛びかかる。捨てずに取っておいてよかったリバーワーム! 僕の貧乏性が幸いした。

 あれからリバーワームたちは分裂してるらしく、最初に死霊術をかけた時よりはるかに数が増えている。どうなってるんだよこいつら。


「なんだこれは!」


 フルプレートの表面を8割方覆う量のワームがバケツ頭に混乱している。


 僕は落ちていた手頃な石を掴むと、力いっぱいバケツ頭に投げ付ける。当たるとガン!とブリキ缶のような音がする。石が当たると一緒にワームにも当たっているのが伝わってくるが許してくれ……。


 矢の装填されたクロスボウとか落ちてないかな?


「やめろ! クソガキ!」


「やめるわけないだろ!」


 ガンガンと石をぶつけられ、ジタバタとしていたバケツ頭に7個目の石が命中すると奴はキレたのか、ワームは放置することにして僕に向かって走り出した。ワームに塗れた鎧のおっさんが走り寄って来る。


「キモいんだけど!?」


「お前のせいだろうが! 今度こそ死ね!」


 目の前に迫ったバケツ頭のおっさん。こうして見てみるとやっぱ大人ってでかい。


 両手持ちの1撃目を飛ぶようにかわす。しかし足場は石だらけ。残念ながら僕は転んでしまった。……死んだわ、これ。

 

 うーん……。敗因は足の大きさと靴底が革だったことですかねぇ……。


 感想戦に入った僕に容赦なく2撃目が振りかぶられる。


「手こずらせやがって! 死ね!」


 目を瞑り、ウッ! と身構えたその時! キンッ! とバケツ頭の剣が弾き返された!


「ト、トリ男! 信じてたよ!」


 そこにはすっかり骨だけの白い体になりながらも、体中の骨がちぐはぐでサイズが違う鳥ガラが羽を広げて威嚇している。


 目を惹くのはどうみても体に見合わないサイズの尻尾が生えていることだろうか。この前レッサードラゴンの尻尾の骨を持って行ったのが功を奏した形だ。それにしてもなんて頼もしい姿なんだ!


 くちばしがパクパクしているけどもう彼に声帯はない。きっと地獄に堕ちろとか言ってるんだろう。


「やはり死霊術師など生かしておけぬ!」


「地獄に堕ちろ!」


 僕はトリ男の台詞を代弁しながら立ち上がり、体勢を立て直す。トリ男は尻尾をブンブンと振り回し、鞭のようにしならせ、バケツ頭の剣と打ち合っている。すごいぞトリ男!


 投石で援護射撃したいけど、こんなの手で投げてても仕方ない。上着を脱ぐと石を包む。端と端をそれぞれの手で持ちグルグルと回し、遠心力を使って投げる。本当は片手でやるんだろうけど、僕は両手を使わないとできそうにない。


 ブンッ! といい音を鳴らしながら石が飛んでいく。外れた。


「クソッ」


 汗だくになりながら次々と石を投げるが全然当たらない。ヤバイ。


「当たれ!」


 ついに僕の投げた石がバケツ頭の頭に直撃した。カーン! と金属音が響く。


「ぐわぁっ!」


 被っていた兜から大きな音が鳴り、バケツ頭がたたらを踏んだ。いけ! れトリ男!


 風切り音を鳴らしながら、振りかぶられたトリ男の尻尾がよろけたバケツ頭に向けられる。これは勝った。


 勝ちを確信した僕は思わず叫んだ。


った!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る