第26話 罠

 突くように繰り出されたトリ男の尾は、正確に鎧の中心を突いた。それはゴンッ! と鈍い音を立てて……トリ男の尾は弾かれた。……あれ? 勝てる流れきてたよね?


小癪こしゃくな!」


 また二人は尻尾と剣の打ち合いを始める。……これ勝てなくないか? 10歳児はフルプレートアーマーには勝てないのか? いや、諦めるな! ここで死んだらイリスさんのおっぱいの面倒は誰が見るんだ!


 トリ男! プランBでいくぞ! 


 僕は悪寒通信でトリ男に指示を出す。引き付けておいてくれ。その間に僕は逃げるから!


 バレないように石を投げ付けながら、ジリジリとバケツ頭を中心に移動する。3回に1回くらい当たるようになってきたな。


 ジリジリと移動し、投げる。ジリジリと移動し投げる。ついに後ろに回り込んだ。バケツ頭の背中に石が当たり、ガン! と音がした。


「なっ!? 何ィ!?」


 一瞬振り返ったバケツ頭が綺麗な二度見で僕を見た。気付いてなかったのかよ。もう1回石投げとこ。

 金属音を背に小屋への坂を駆け登る。


「逃げるなァ!」


 崖の下からバケツ頭の声がするけど何を言ってるんだあのおっさんは? 脳味噌が頭に詰まってないのか?


 小屋に着くが人の気配はない。まだイリスさんは帰って来ていないか……。


 畑に向かおう。トリ男からは悪寒通信でこっちにバケツ頭が向かっていることが伝わってきた。うぅ……気持ち悪い……。


 僕は畑に着くと、まず戦闘力皆無のモグ次とモグ造を土の中に隠す。足の骨が折れたウキ太が器用に手で移動してきた。一緒に畑の奥側へと移動する。


「つ、疲れた……」


 ゼーハー言っている僕にウキ太が折れた骨を渡してきた。……え? 何? すると悪寒がした。


「……骨の折れる相手だって?」


 ウキ太は手を叩いて笑っている。……こいつ余裕だな。


「クソガキィ! ここかあぁ!」


 ワーム塗れのベコベコフルプレートアーマーのおっさんがゼーハー言いながら走ってくる。


 後ろにはトリ男が着かず離れずくっついており、走りながらも器用に尻尾使ってガシガシとフルプレートアーマーをぶっ叩いている。トリ男先生! 流石ッス!


「なんだこの気持ち悪いモンスター!?」


 畑に足を踏み入れたバケツ頭はワーム塗れで本当にグロい。いにしえのホラーRPGならロープで倒せそうな見た目してるよ。


「モンスターはお前たちだろうが! 殺してやるッ!」


 ……たしかに。それは否定できないかも。


 息を整えたバケツ頭が剣を上段に構える。


「死に晒せええええッ!」


 土の上をドタドタと走るバケツ頭。僕も対抗して石を投げ付ける。

 カーン! と命中する石。そしてその場から消えるバケツ頭。


「かかったな! アホが!」


「……ぐっ!」


 落とし穴に落ちた間抜けはその衝撃で息が詰まって声が出せないでいるらしい。


 僕たちが川原に行っている間にモグ次とモグ造は深さ3メートル近い穴を掘り、ウキ太が上半身だけで辺りの草や枝を使って穴を塞ぎ、そこに土をかけ、見事な落とし穴を作成してくれたのだ。


 畑はめちゃくちゃになってしまったけど、この際しょうがない。文化度は下がってしまうけど、美人と同衾できる身分なのに死にたくない。


「野郎ども! 埋めろ!」


 全員で上から土をかける。


 フハハ! 畑の横に積まれていた枯れ枝のたぐいが消えていたことに気付かなかったお前の負けだ! 死ねェ!


「恨むならお前の主君を恨めよ!」


「なぜだ!?」


 本当にその理由がわかってない声をバケツ頭があげた。そういうとこだぞ。


 起き上がろうとするバケツ頭に石をぶつけながら、僕たちは見事に穴を埋め尽くした。


「僕たちの勝利だ! 勝ちどきを上げろ!」


 と言っても声出せるの僕だけなんだけどさ。


「えい! えい!」


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 土の中からバケツ頭が飛び上がった。嘘じゃん。

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