第23話 思春期の続く転生者の翼

 茹でられそうになってから3日後の朝、僕たちは轟音によって目を覚ますことになった。


 隕石でも落ちたかと思うような地響きが数回続くと、一際大きな揺れが起こった。イリスさんの胸で寝ていた僕は飛び起きるとイリスさんを起こす。


「イリスさん! この音と振動でなんで寝てられるんですか!? 起きてください!」


「……うぅん……リフォロくん、寝てるときに揉むのはやめて……」


「今は揉んでないでしょう!?」


 僕たちがパジャマのまま外に出ると、そこにはペシアさんが立っていた。しかもいつぞやのドレスアーマーを着けている。


「おはよう、二人とも! 起こしてしまったかな」


「おはようございます……。早いですね」


「おはょぅ……」


 イリスさんの目はまだ覚めず、夢現ゆめうつつといった様子のままふらふらしている。薄手のワンピースでふらふらされると、目のやり場に困るね。やっぱり困らない。


「見てくれ! これが約束のものだ!」


 見てくれと言っても、ここには何もないんですけど……。イリスさんはもう目をつぶっている。


「……あれ?」


 デカすぎて視界に入っていなかったけど、ペシアさんの後ろに大樹といっても差し支えないような木が生えている。そんなのあったっけ? 樹齢800年くらいありそうな赤っぽい樹だ。


 僕が確認するように横に移動すると、その樹の横側には苦悶の表情を浮かべ、目も閉じていないままの表情で固まった顔がついていた。


「ひえっ」


「ふふふ……どうだいこれがエルダーファイアートレントだ! 聖国の南部にあるラジャ砂漠の特産品だよ!」


「特産品……?」


 それ特産品じゃなくて、モンスターの生息地なだけなんじゃ……? 竹の子みたいに獲って来るじゃんか。


「これなら燃えずに柱になるはずだ! 早速立てようじゃないか!」


 なんか火鼠かそ皮衣かわごろもみたいになりそうで心配だけど、これが成功すれば丈夫な柱になりそうだ。僕たちを恨めしげな目でエルダーファイアートレントさんが見ている気がするけど、大丈夫。これは建材だよ。


 立ったまま寝てるイリスさんを起こさないといけないね。


 イリスさんがきちんと起きるまで朝食を摂ることにした僕たちは小屋に戻った。


 昨日の残り物を準備しようとすると、ペシアさんがスープの蓋を開けて中身を確認した。そっと無言で収納から出した謎のキノコと茶色い根菜を足してくれた。あわれまれてしまったようだ……。


「ハッ!」


 飛び上がったペシアさんが聖ノコギリを振るうたび、美しい音色が辺りに響く。

 1周20メートルはありそうだったファイアーエルダートレントさんがどんどん柱に加工されていく。あれ? エルダーファイアートレントだっけ?

 兎も角しばらくしてファイアートレントは太めの主柱4本と細い板材に加工された。


 そして固まった溶岩の跡がイリスさんの手によって再びぐずぐずに溶かされ、そこに極太のファイアートレント棒が突き入れられた。


「らめぇっ」


「どうしたんだいリフォロくん!?」


 あ、つい。煮えたぎる溶岩の中でも火トレントの柱はそそり立っている。


「垂直にお願いするよ」


「任せてよ!」


 水平器を柱に当てながら、柱を持ってふよふよと浮かぶイリスさんを下から眺める。溶岩が固まるまであのまま支えながら飛んでいるようだ。


 うん。パンツの軍服は素晴らしい。惜しむらくは生地が厚いことだろうか? 軍服だし、しょうがないんだけどね。下着のラインが出ないのは頂けない。


「イリスさん、スカートの軍服ってないんですか?」


「下からお尻見ながらそんなこと言うのは流石に感心しないよ!?」


「少年! 私はスカートだぞ!」


 聖鑿せいのみで柱の両端に凹凸をつけているペシアさんがスカートをひらひらする。ドレスアーマーで大工してるのはどうなんだ? 


 ペシアさんのドレスアーマーのスカートの中はレースのパニエになっていて、ふんわりしている。でもパニエあったらパンツが見えないよね?


「うーん……。なんか違うんですよね」


「思春期の少年は難しいな……」


 ペシアさんがスカートをめくって自らのパニエを観察しだした。……この人本当に勇者なの?


 でも膝から下に見える脚にはストッキングに包まれている。……ということは、ガーターベルトですよね? 絶対そうですよね?


「うーん……。違わなくないですね」


「コラ! 勇者のくせに健全な少年を誘惑するんじゃない!」


「健全じゃないだろ!」


 はい。ごめんなさい。

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