第22話 沸騰する小風呂

 寸胴に水と竜脂を入れ、中火でコトコトと煮続ける。アクが出まくるので取り除き、脂の中の肉の部分がそぼろみたいになってくるので、それは取っておく。


 残ったスープを布でして、冷やしたら白い油の塊ができる。


 取り除いたそぼろはあんかけで食べたりするとおいしいんだよね。それは豚の話だし、片栗粉がないのでできないんだけど……。


「たまにはスープでも作ろうか」


「なんか適当でもおいしそうですもんね」


 料理の才能のない二人が思いつきが始まる。


 沸かしたお湯に竜脂から出たそぼろを入れてぐつぐつと煮てみる。あっ……アクがまた出てきた……。


「……これスープですか?」


「なんか作ってる途中に戻っちゃったね……」


 先日もらった赤タマネギを入れてみたりおいしく食べる努力はしてみたけど、例えるなら醤油ダレの入ってないラーメンのの出汁だしみたいな……?


「食べれないことはないよ」


「食べれないことはないですね」


「スティーリアさんは今日は来ないんですか?」


「どうして急にリアちゃんのこと気にするんだい!? 確かにリアちゃんはお料理上手だけどさ……。いっそ今度お料理を教わった方がいいかもしれないね。リフォロくんが」


 イリスさんに料理担当をぶん投げられながら、竜脂を絡めて炒めた鳥を挟んだタコスもどきを頂く。これをタコスと呼んだらタコスの国の人に怒られそうだ。


「竜脂すごいですね。あのパサ鳥がジューシーに!」


「これはまたレッサードラゴンを狩って来ないといけないね」


 文化度の向上に犠牲は付き物。レッサードラゴンさんには不運だったと諦めてもらおう。その前においしい野菜の供給も急がねばなるまい。


 それにしてもバターやら胡椒やら醤油やらどこかにないものか……。



 食事を終え、川原に来るとそこら中に僕が支配しているワームの気配を感じる。支配してわかったことなのだが、やつらは上流から来るらしい。そして魔素のようなものを体に溜め込むようだ。それが食べた時のジャリっとした食感に繋がっていたのかもしれない。


 撒いたワームが勝手に増えている気がするけど、きっと気のせいだ。あいつらもしかして分裂すんの……?


 水につけておくと、それが抜けて食べられなくもない味になっていたのかもしれないな。



 なぜ僕が夜に川原に居るかと言うと、風呂に入るためだ。川原に鎮座する巨岩の上をイリスさんが消毒したあと、タライで巨岩の窪みに水を注ぐ。いつもありがとうございます。


 やや沸騰する湯舟が入浴できる温度に下がると、僕は服を脱ぎ湯に浸かる。


「川原の温泉みたいで風流な感じでいいなぁ」


「そうだろう、そうだろう」


 僕の独り言に答えながらイリスさんのつま先が湯舟にちゃぷりと入れられた。


「ん? ……あれ!?」


 僕はキレイな二度見を決めた。ってイリスさんがなんでここに!? 急にねんがんの混浴が手に入ったぞ!


 しかし残念なことに、イリスさんの周りにはまるで規制がかかっているかのように湯気が立ち込めている。何をするイリスさん!


「たまには家族水いらずもいいかと思ってさ」


 湯気の向こうからチャプチャプと水の音と気配はするのに、月明かりに照らされるのは湯気ばかり。こんなの絶対おかしいよ!


「私は熱さを感じなくてさ。今も水に入ってるみたいな不思議な感覚なんだよね。寒くはないんだけどね」


「そ、そんなこともあるんですね」


 それどころではないが。


「魔法に目覚めた人ってそういうのが多いんだって。リフォロくんも何かあるのかな?」


 なら僕にアンデッドっぽいものを感じられるようになったのも、その一種なのだろうか?


 いや! それよりももっと大事なことがある!


「あの、イリスさん! 湯気でイリスさんのがよく見えないんですけど!」


「リフォロくん!?」


 イリスさんの驚いた声が上がるとぶくぶくと風呂が沸き立ち、辺りに大量の湯気が立ち込める。


「あっつい! あっつ!!」


 僕飛び上がるように湯舟から脱出する。なんとか茹でられずに済んだことを神に感謝しよう。ラーメン。

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