第20話 アーススパイク聖剣で斬る
「おはようございます」
僕がじっと胸を見ていると、りっちゃんはかかとを弾ませるようにしてたゆんたゆんと動かしてくれた。……金か? 金が目当てか? いや、僕は無一文なんですけどね。
「何だ? 嫌味か?」
ペシアさんがそう反応した。別にペシアさんも小さいわけではないと思うけど、周りが皆大きいからね……。みんな違ってみんないい。
「別にあなたに見せてるわけではありませんけど……。それで建てる場所は決まったんですか?」
「この畑の予定地に建てようか、という話になりまして。山側に立てられたらよかったんですけどね」
「流石にあそこに建てる自信はないな」
勇者の力を持ってしても傾斜のある山肌は無理か……。
りっちゃんがクイッと眼鏡を直した。何やら不敵な笑みのような無表情を浮かべている。僕は少しだけ表情が読めるようになってきたかもしれない。多分、気のせいだけど。
「平らにすればいいじゃないですか。その場所見せてもらえます?」
三人で山肌へ移動する。その山肌は荒涼としており、小さな小石が転がって落ちていくのが見えた。崖まではいかないけど、滑落したらまず助からないであろう。
「……では」
スッと一歩前に出ると、りっちゃんは両手を前にかざす。すると地面が揺れ始めた気がする。微震にびびって一歩下がると、山肌が棘になり、勢いよく天に向かって伸びた!
「ひえっ」
アーススパイクと呼んでも問題ないような岩の棘が僕の目の前に大量に現れた。……今もなお現れている。地震を起こしながら、どんどんと奥へ奥へと棘が生まれ続けた。
それが治まったかと思うと、りっちゃんはペシアさんに向き直る。
「水平にお願いしますね」
「ああ、そういうことか! 任せろ」
ペシアさんは昨日の聖なる包丁をどこからともなく取り出すと、音もなく一振りした。風鈴の音のような甲高い音が一つ響くと、一拍置いてアーススパイクたちが斬り飛ばされた。
轟音を立てながら斬られた先端が山肌を落ちていく。環境破壊は気持ちいいね!
斬られた断面はまるで磨かれた床のように、つるりとしている。見事に平らになっている。そこへりっちゃんが歩いて行くと、何か液体が入った箱をことりと地面に置いた。
「水平じゃないですよ」
……水平器!
その後、2回生やしては斬るを繰り返し、なんとかアーススパイク場は水平になった。ペシアさんはもううんざりといった顔をしている。あんなんで水平になるもんなんだな……。
「りっちゃん、ペシアお姉ちゃん。ありがとうございます」
「いいんですよ、リフォくん」
「お安い御用だよ、少年!」
二人のおかげで小屋の建っている平らな場所からそのまま伸びるように岩場ができた。これで農地を潰さなくて済んだ。これにはモグ次とモグ造も草葉の陰で喜んでいるだろう。今も元気に耕しているけど。
「それでこれからどうするんですか?」
「どうするんです?」
僕とりっちゃんがペシアさんを見る。
「え? こんな岩場にどうやって家を建てるかなんて知らないよ」
「え?」
僕が疑問符を浮かべると、りっちゃんは僕を見ながら無表情で頷いた。いや、だから何だよ!
その後、忙しいとのことでりっちゃんは帰って行った。帰り際に僕の両手を掴んで、また頷いていたけど、あれは一体何なんだろうか……。
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