第19話 アンデッドのたわわ
「なぁ、イリス。サーダインではその……肉だけで食べるのかい?」
あっ、僕が思ってても言わなかったことを、ペシアさんがさらっと口に出した。しょうがないにゃあ……。
「わかりました。鳥と小麦を練ったパンもどき持ってきます……」
「ごめんね。リフォロくん、お願いできる?」
「いや、違うだろ!? パンはまだしも、なんでドラゴン肉に鳥肉を追加しようとするんだ! 野菜だよ、野菜!」
ぐっ! ……僕とイリスさんは言葉に詰まった。だって、そんなのないんだもん。
イリスさんの謎空間収納にも入っていないと言っていた。野菜なんてそんな文明的な食べ物がこんな山の中にあるわけ……。
「しょうがないわねぇ」
「君たち、本当にどんな食生活を送ってるんだい?」
二人は謎空間に腕を突っ込むと、ピーマンやししとうのような野菜と球根のような赤玉ねぎのような野菜を取り出した。それらを器用にナイフで切ると、鉄板兼大剣の上に手際よく並べる。
すごい! それだけでバーベキュー感がマシマシになった。茶色い焼けた肉の色だけではない。赤と緑の野菜が僕たちを待ってますぞ。
少し焦げた野菜に塩を振りかけて食べる。……苦い、辛い。
「苦いし、辛いよぉ……」
イリスさんが僕の気持ちを代弁してくれた。焼肉のタレが恋しい。
僕もマヨネーズとか作ってお金持ちになれませんか? 卵とお酢はどこですか?
「しょうがないわねぇ」
しょうがないわねお姉さんと化したスティーリアさんが再び謎空間に手を突っ込むと、両手で持てるくらいの素焼きの壺を取り出す。
ドレッシングを手渡された僕はそれに焼き赤玉ねぎと長いピーマンししとうもどきをつけて食べてみる。
……甘い。そうだよね。蜂蜜だもんね。
「懐かしい味がするね。蜂の巣を燃やして怒られたこと思い出すよ」
「……あったわね。それこそ適材適所でしょう?」
氷属性は虫に強いらしい。そんな殺虫剤あったね。
二人の話を聞いていると、僕の想像してる蜂と違う気がひしひしとしてきた。気にしたら負けだ。
サーダイン風のドレッシングがおいしく感じてきた頃、ペシアさんが謎空間から濾過機を取り出した。
「忘れてないうちに渡しておくよ。これが約束の濾過機だよ」
1メートル四方の箱で上から水を入れるとタンクに水が貯まる。それをファンタジーパワーで浄化してくれるようだ。すごいぞ! お手入れ要らずなのも素晴らしい。
最もおすすめしたい点は蛇口が付いていることだろう。前にもらったやつは入れた水が全部出てきてしまう、垂れ流しタイプだったからね……。
そして何やらお礼として槍斧? バルディッシュ? みたいなものをイリスさんがペシアさんに渡していた。それからは何やら黒いオーラみたいなものが漏れていたけど、深く考えないものとする。
あとは良い小麦粉も貰った。小石が混入していなくて、きめ細かいおいしい小麦粉らしい。
うちの小麦は小石は入ってるし、ゴミも入ってるもんね。この世界では普通らしいけど。
これでまた文化度が向上した。ペシアさんには感謝しかない。
ドラゴン肉もなくなり、片付けも一段落ついた。
僕たちは小屋に戻って寝る準備をした。着替えるからとスティーリアさんに僕は小屋を追い出されてしまった。大変遺憾である。
……寝る前にどこで寝るかで一悶着あったけど、僕はイリスさんと寝るのは譲らない。
次の日、朝はタコスもどきに余ったドラゴン肉を挟んだものを食べた。
ドラゴンは本当においしい。ちょっとドラゴンを見る目が変わってしまうかもしれない。食材の方に。
イリスさんとスティーリアさんは二人でサーダインに顔を出しに行った。レッサードラゴンを捌いたり色々あるのだろう。
家を建て替えようという話が出ているが、とりあえず場所を探さないといけない。比較的平らな場所は農地の予定地か小屋か川原くらいしかない。
川原は大雨とかあったら流されそうだし、農地のところを使ってもらうしかないだろうか。幸いにしてまだ何も植えてなかったし、苗は移動できる。
「ここにしましょうか? モグ次とモグ造には悪いですけど」
「……そ、そうだね」
ペシアさんがモグ次とモグ造に引いている気がする。まだ肉が付いてるから、確かにちょっとグロい。
その時、すっかり骨だけになったトリ男が前を通った。体長40センチメートルくらいだったはずなんだけど、尻尾がとても伸びていた。
今朝起きるとドラゴンのしっぽの骨が一部消えていたこととは無関係だろう。……不思議なこともあるもんだなぁ……。
もっと高度な技術があれば、小屋と川原の中間にある岩肌の辺りを削ったり杭を打ったりしてなんとかできそうなんだけど。
農地は段々畑みたいに斜面を頑張って整えるしかないかもな。ウキ太たちが。
建てる場所を検討していると、後ろから悪寒がした。また誰かトリ男かウキ太か? と振り返ると、そこにはりっちゃんが居た。
「おはようございます」
りっちゃんからアンデッドの気配をひしひしと感じるけど、僕はりっちゃんのたわわを押さえつけているコルセットに注目することでスルーすることに成功した。
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