第18話 焼肉ドラゴン、オンステージ!
「な、なんでさっきまで普通だった二人が険悪になってるの!?」
僕たちが外に出るとイリスさんが叫んだ。イリスさんには悪いけど、スティーリアさんには負けられないよ。
またペシアさんが爆笑してるけど、僕は
「リアちゃん何したの?」
「私は悪くないわよ!」
何やら言い合っている姉妹の前には、長さ10メートルはあるであろう巨大な……何これ? 水色の尻尾?
「何ですか? これ」
「よくぞ聞いてくれたね! 私たちが今日倒してきたレッサードラゴンの尻尾だよ!」
「おぉ! これが!」
聞いたこともなかったけど、とりあえず僕は驚いておいた。でもなんか色が外国のお菓子みたいで、あんまり食欲を刺激する色ではない……。
「……おいしいんですか?」
「ふふふ。はい、リフォロくんには一太刀目の大役を与えるよ!」
僕の手にナイフが渡される。切り分ければいいのかな?
尻尾の断面は昔マンガで見たような中心に骨があって肉はピンク色でおいしそうだ。お腹側が蛇腹のようになっていて筋っぽい。背中側には脂が集まっている。水色だし寒いところに住んでるドラゴンなのかもしれないな。
「では僭越ながら……」
僕はそう言いながらナイフを突き立てる! ……刺さらないんですけど? 僕がグイグイ、ギコギコ、ザクザクやっても1ミリも傷がつかない。
「わー! 大変だよー、リフォロくん! このままでは晩御飯が食べられないー!」
棒読みで何か小芝居が始まったけど、一体何が始まるんです!?
僕が思わず隣に立つスティーリアさんをチラ見すると、不服そうな顔をしながらあごでペシアさんを2回指した。
え? どういうこと? とペシアさんを見ると、なぜか彼女は剣を構えていた。
「私に任せろ!」
そそくさと大きな竹で出来たような
「ペシア、いくよ!」
「さぁ来い!」
イリスさんが尻尾を天高く放り投げた。めちゃくちゃだよこの人たち……。
剣を両手に持ったペシアさんの姿が風を巻き起こしながらかき消える。すると空中から鈴のなるような美しい金属音がシャリンシャリンと数回鳴った。
そして空から肉が降って来た。……比喩表現じゃなくて本当に降って来た。
僕の持つ笊にボタボタボタ! と細切れにされたドラゴンの肉が降って来る。隣のスティーリアさんも微妙な顔でそれを受け止めている。
最後に骨と背脂が置かれていた寸胴に降り注ぐと、綺麗に一枚のまま残った皮をイリスさんが受け止めた。
「お見事だよ!」
「これが聖剣の力だ!」
それは違うと思うけど、素晴らしい包丁さばきだった。
「普通に切りなさいよ……」
隣でスティーリアさんが文句を言っている。
「すごいよ! ペシアお姉ちゃん!」
僕はとりあえずペシアさんを褒めることにした。
「……ねぇ、ペシアお姉ちゃんって何か説明してくれるかな?」
あ、やっべ。
なんとかイリスさんを丸め込むことに成功した僕たちは、ドラゴンの肉で焼肉らしきものをすることになった。
鉄板の代わりにバカデカい大剣が出てきて、それに肉を載せて焼いている。……すき焼きも農具の
寸胴の
三人はスティーリアさんが作った氷を入れたグラスでワインを飲んでいる。やっぱり氷属性の人だったか。僕は負けないぞ。僕だけ水だけど負けないぞ。どうせ氷属性の人はすぐ腕に氷つけて剣とかにするんだろ!
それにしてもドラゴンの味は驚くほどおいしかった。6本足のヘラジカよりおいしい。あれは獣臭かったけど、ドラゴンは臭くないし、程よいサシが入っていて、舌の上で溶けるとかいうあれだよ! 噛むけど!
「どこで獲って来たんですか?」
ドラゴン焼肉に舌鼓を打つイリスさんに聞いてみた。もぐもぐと食べていたイリスさんはドラゴン肉を飲み込むと、ワインをぐいっと煽った。
「よくぞ聞いてくれたね! ディグニス山で行ったレッサードラゴンの間引きの成果だね!」
ディグニス山は僕の住んでた村の北にある森のさらに北に見えた山だ。生存競争が激しいらしく、魔女みたいな化け物まで追いやられて麓の森まで流れて来るような魔境らしい。
レッサードラゴンが増えると、その他の魔物まで麓に来るようになってしまう。それで人に被害が出る前にドラゴンを間引いて
「北の雪深いところだけあって氷竜の類だからね。私が助っ人して来たんだよ」
「退役してるのに、いつもごめんなさい」
「あはは! 適材適所だよ。それにおいしいお肉も貰えたしね」
その氷竜のレッサードラゴンというのは、スティーリアさんとは相性が悪く、イリスさんがいつも助っ人に駆り出されるようだ。
僕はイリスさんにこんがり焼かれるドラゴンたちを幻視した。彼らのご冥福をお祈りしながら、僕はムシャムシャと肉を食べた。
「なぁ、イリス。サーダインではその……肉だけで食べるのかい?」
あっ、僕が思ってても言わなかったことをペシアさんがさらっと口に出した。
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