第16話 死霊術師への試練
「白湯しかなくて申し訳ないんですけど……。僕はリフォロと言います」
「いえ、お構いなく。私のことは、りっちゃんとお呼びください」
「……りっちゃんさんですか?」
「敬称は不要ですよ」
僕は湯気の立つ木のコップをテーブルに2つ置く。無表情で彼女はりっちゃんと呼べ、と僕に言った。聞き間違えじゃないよね?
深呼吸してもう一度彼女の顔を見直しても、無表情な顔で白湯に口をつけていた。
「り、りっちゃんですね……。それで、イリスさんでしたら夕方には帰ると仰ってましたよ」
「そうですか。ところであの骨たちはあなたが?」
「ええ、そうですけど……」
りっちゃんは骨ダメ系女子だったかな? 彼女は無表情で僕のことをじっと見つめている。
「あなたには素晴らしい死霊術の才能があります。我が国でさらにその才能を伸ばしませんか? 寮付きの魔法学校だってありますし、もし希望されるのでしたら保護者の方も同行して頂けるように、取り計らいます」
あ、スカウトだった……。
りっちゃんは熱心に僕を勧誘し続けた。それが僕のためを思ってであることは、十分に伝わってきた。しかし僕にはイリスさんに文化的な生活をさせるという使命が……。
僕がなんと言って断ろうかと悩んでいると、玄関のドアがコンコンとノックされた。
「りっちゃんさん、お話の途中ですが失礼しますね」
「さんは不要ですよ。……どうぞ」
眼鏡の位置を直しながら、コクリと頷くりっちゃん。渡りに船とばかりに僕は玄関へと向かう。
「……どちら様ですか?」
「私だよ! 少年!」
小屋の中に置かれたテーブルに白湯の入ったコップが1つ増えた。
向かい合うように座った動きやすそうな白い服を着たペシアさんと、黒い服を着たりっちゃん。まるでオセロだな。
二人の間に僕が挟まると何色に変わるのだろうか? と現実逃避してしまうくらいには、空気が悪かった。
「それでお前は何をしているんだ?」
「仕事の話をしに来たら、逸材を見つけた。勧誘の邪魔をしないで」
いつもは朗らかなペシアさんの目が鋭くりっちゃんを睨みつける。珍しく来客が二人もあったかと思ったら、いきなりお客さんたちがバチバチとやり始めたんですけど……。
「ペシアさんも、りっちゃんも落ち着いてください」
「り、りっちゃん……だと……!?」
目を見開き、驚愕の表情でじっとりっちゃんを見るペシアさん。一方りっちゃんはそっと視線を逸らした。
目を細くして、疑惑の表情でじっとりと僕をみるペシアさん。一方僕はそっと目を逸らした。
「あの外の動いてた骨は少年の仕業なのか?」
「ええ、まぁそうですけど……」
「別に死霊術が悪いとは言わない。だが魔王国はだめだ! あそこは確かに学業に関しては一流だよ。でもご飯が薄味すぎる! あんなの喜ぶの老人だけだ!」
腕を組み、めちゃくちゃに魔王国の飯を
「そんなのすぐ慣れます。先ほどリフォくんはうちに留学してくれるって話になったんですから、変なこと吹き込むのはやめてください」
「リ、リフォくん……?」
「もう私たちはリフォくんとりっちゃんの仲ですよ」
勝手に話が進んでいく。僕はもう留学することが決まっている上に、リフォくんりっちゃんの仲らしい。そんな話をした覚えは全くないのだけど、眼鏡の位置を直しながら、りっちゃんは無表情でこちらを向いて頷く。……え? 何ですか?
「なっ……なんだその空気!? 少年! 私のこともフレンドリーに呼べ! 呼ぶんだ!」
「フレンドリーに呼ぶって何て呼べばいいんですか!?」
「ほら……お……お……」
「お?」
立ち上がってまくし立てていたペシアさんの歯切れが急に悪くなる。段々と頬を赤らめ、僕の顔とりっちゃんの顔を見比べている。
「お姉ちゃんってさ!」
僕が思わずりっちゃんの方を見ると、また無表情で頷かれた。だから何だよ!?
「……ペ、ペシアお姉ちゃん?」
「聞いたか! 私の勝ちだ!」
「どういう勝負なの!?」
「よって義弟リフォロと聖者イリスは聖国が預かる!」
ペシアさんの勝利宣言とともに、僕の隣に移動してくると、両手で僕の肩を掴んだ。その様子をりっちゃんは静かに見つめている。誰か説明してくれよ!
「ただいま! リフォロくん!」
僕が虚空に説明を求めていると、バーン! と玄関のドアが開き、イリスさんが帰って来てしまった。
椅子に座って肩を押さえられている僕が油の切れた歯車のように玄関に振り向くと、玄関で扉を開け放ったポーズのまま固まるイリスさんの後ろに、青い髪のイリスさんが居た。
編み込んだ髪を後ろで纏めて、同じ軍服を着ている。背も顔もまったく一緒だけど、心なしか軍服の中のボリュームはイリスさんに軍配が上がりそうな気がする。それでも十分すごいと思います。はい。
「なんで勇者と魔王が居るの!!」
青イリスさんが叫んだ。
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