第14話 お姉さん二人<後編>

 そんな目立つ3人は数件の店を回った。


 まず服屋を訪れた。僕のボロ服が綿麻のシャツとチュニックに、ジーンズのような丈夫そうな生地のズボンにクラスチェンジした。下着も買ってもらった。下着は腰紐タイプのトランクスだった。水着にも使えそうだ。



 それから小麦粉を買った。これが本当に麦かは僕にはわからないが。この世界では小麦らしい。なんか荒いし小石が混ざってるが……。


 それに苗は売っていなかったので、野菜の種を買うことにした。


 紫色のトマトらしき野菜の種。大根らしき生え方をする瓜。いや、緑色の大根じゃないか? 


 故郷で見覚えのあったほうれん草もどきも一応買っておいた……。あれおいしくないんだけど、それしか売ってなかったので仕方がない。


 最後は工具や農具を売っている店だ。分類としては鍛冶屋になるのだろうか?


 金槌や斧、釘、釘抜、のこぎりなどの大工道具。それにすきくわやザルなどの農具を購入して貰い、イリスさんの謎空間収納に入れておいてもらう。


 これで畑を作ったり、小屋を補修したりできるはずだ。あ、忘れずに穴を塞ぐための板材も買っておいてもらおう。


 それにしても、あのボロ小屋は根本的になんとかしないといけない気がする……。建てられるならきちんとした家を建てたいけど、家なんて建てたことないし、適当に建てたらすぐ歪みそうだよね……。


「時に、少年は大工の心得はあるのか?」


「ないですけど……。穴を塞ぐくらいは出来ると思います」


「そうか……。それも手配した方がよさそうだな」


 何やら期限よさげにペシアさんは頷いている。大工の知り合いでも居るのだろうか?




 そして僕たちは再びペシアさんのお屋敷へと戻った。


 ペシアさんが言っていた濾過器をイリスさんに渡す。直径30センチメートルほどの筒型で上から水を入れると、そのまま濾過された水が下側に付いた口から出てくるという、野営用の簡易型のものらしい。一番上に装着されている布を定期的に掃除すれば、かなり長持ちするとのこと。


「いい小麦と、大きめの濾過器は近いうち届けるよ」


 とペシアさんは言う。これはとりあえずのものらしい。律儀な性格をしていらっしゃる。大変ありがたい。


 別れの挨拶を済ませ、僕がまた簀巻きにされると、また楽しげにペシアさんは笑っていた。本当に笑いの沸点の低い人だ。


 イリスさんがふわりと飛び上がり、ペシアさんが見えなくなるまでの間、彼女は僕たちに手を振ってくれていた。手を振り返せないのが残念だ。




◇────────────────◇



 帰宅した僕は早速文化度の向上に取り掛かった。


 まず買ってきた板材で目立つ隙間を塞ぐ。見栄えは最悪だが、外から追加の板を釘で打ち付ける。ウキ太が。


 これで少しは室内の寒さもやわらぐだろう。


「ねぇ、リフォロくんはパンって作ったことある?」


「ないですね……。発酵させないといけないんじゃないですか?」


「……なにそれ」


 そのような会話があり、僕たちの生活にパンが追加されることはなかった。代わりに作ったのはタコスの生地……トルティーヤっていうんだっけ? ……だった。


 小麦粉に水を加え、鳥を焼いた時に出た脂を少し入れる。それをこねて、伸ばしたものをさっと焼けば完成だ。


 問題は具がくだんの鳥肉しかないことだろう。鳥肉を裂いたりしておいしく食べる努力はしてみたものの、やはり根本的に野菜やソースが必要だ。


「どこかの国の屋台で食べたことあるかも。懐かしいよ!」


 そんなことを言いながら、もしゃもしゃと鳥タコスもどきを食べてくれたイリスさんには感謝しかない。鳥だけよりはおいしいのだが……。





 それから数日、ウキ太は八面六臂の活躍を見せた。


 できるだけ平らなところを畑にするべく、ウキ太は斧を使って数十本の木を切り倒し、耕作(予定)地を確保する。


 そこを耕すのもウキ太だ。耕運機にもなるなんてすごいぞウキ太。


 24時間働けるウキ太はブラックを越えてイービルな扱いだが、ここに労働基準法なんてないんだ。諦めてくれ。


 切った木はイリスさんが小屋の横に積んでくれた。……重機かな? 残った切り株も燃やしてもらうと、それは一瞬で炭になった。パワーが違いすぎる。


 そこで得た炭は木炭として使えそうだったので、後日ウキ太が川で捕まえた魚を焼いたり、トリ男が獲ってきた鳥を焼いたりするのに活用することにした。人間万事塞翁が馬である。……使い方あってる?


 そんなスローライフを楽しんでいると、ヤツはやって来た。


 その日人類は思い出した。ヤツらの恐怖を……。

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