第13話 お姉さん二人<前編>

「それで山の中で隠れて暮らしているんですね……」


「だってしつこいんだもん! 士官宿舎にまで迎えが来たんだよ? しかも妹を間違えて連れて行こうとして……」


「その歳の士官の女が2人も居るとは思わなかったんじゃないか?」


「それでも髪の色も全然違うのに酷いよ!」


 それからイリスさんは退職願を出し、そのまま国を出たそうだ。


 行くあてもなく飛び出したイリスさんは大陸各地を回り、途中寄ったここ、アグラでペシアさんにあの小屋を紹介してもらったらしい。


 聖国と魔王国、その間の緩衝地帯となっている山で隠れるには色々と都合がよかったとか。


「私はここに住めばいいって言ったんだけどね……」


「だって絶対あの人たち来るもん! それに私はあの小屋を気に入ってるから大丈夫だよ。ね? リフォロくんもそう思うよね?」


 お茶を飲みながら、笑顔で僕に同意を求めるイリスさん。出会って間もないのに、こんな笑顔を僕に向けてくれるなんて、なんて優しい人なんだろうか。女神と言っても過言ではない。いや、もうこれ女神だよ。


「……思わないです」


「リフォロくん!? また裏切ったね!」


 イリスさんの突っ込みが可愛すぎて、つい否定したくなってしまう。なんかこれ癖になりそう……。

 でも実際問題として複数の懸案事項がある。


「まずあの小屋は隙間風がすごいです」


「で、でも寒くないでしょ?」


「いやそれはイリスだけだろ……?」


 呆れ顔のペシアさんが突っ込みを入れた。


「食べ物が塩味の血生臭い鳥しかないです」


「うっ! でも慣れたらおいしいし!?」


「小麦を持って行くといいよ……」


「川の水をそのまま水瓶に貯めるので、なんか虫が浮いてます」


「ぐっ! でも煮沸してるし!?」


「濾過器を持って行くといいよ……」


「お世話になっている身としては、家主にはもう少し文化的な生活をして欲しいと思います……」


「うぅっ……」


「少年、私も協力は惜しまないよ……」


 非文化的の烙印を押されたイリスさんは、全てを諦めたかのように机にパタリと倒れ込んだ。





 それから僕たちは街に出た。


 その前にサーダイン金貨とラワース金貨の交換レートの世知辛さを目にして、複雑な気持ちになったりしたけど、僕は元気です。貧乏国家は辛いのう。


 そして買い物にはペシアさんも同行していた。意外と暇しているらしい。


 それにしても着替えたペシアさんが現れた時には驚いた。ドレスアーマーだったのだ。


 基本的にはボリュームのあるドレスなのだが、関節部やすねと腕、それと胸には銀色のプレートで補強されている。本当に実在するんだと、妙に感心してしまった。白を基調としながらも、銀と金であしらわれていて、なにやら厳かな感じがする。


 ペシアさんは儀礼用の見せかけだと言っていたけど、それでも素晴らしいデザインだ。


「ふーん……。リフォロくんはそういうのが好きなんだ……」


「イリスさんの軍服も格好いいと思いますけど……なんかムチムチのぱつぱつじゃないですか?」


「だって退役してから成長したんだもん! しょうがないじゃない!」


 僕らのやりとりにまたペシアさんがケラケラと笑った。


 アグラの街並みは白い煉瓦を基調としていて美しい。道も煉瓦で舗装されていて、文明を感じてしまう。


 あの山小屋の周りも草ボーボーの獣道のままじゃなく、土を整えたり、木で簡単な階段を作るくらいはしたいな。


 それにしても街の人たちも朗らかと言うか、優しい。隣に美人が2人居ることが原因かもしれないが……。


 途中イリスさんのことを「聖者様」と呼ぶ人が幾人か居た。聖国では勇者より強い人は聖者扱いらしい。勇者より強い人は勇者の師匠くらいしか居ない、勇者を鍛えた人物は聖者様、という三段論法かららしいのだが……。


 まぁ、イリスさんは確かに聖者、聖人の類であるいことは間違いない。


 そしてペシアさんは様付けで呼ばれていた。やっぱりこの街の偉い人なんだろうな。

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