第12話 リフォロは激怒した

「それは構わないが、まだイリスはそんな不遇な目に遭ってるのかい?」


「不遇なんかじゃないよ……」


「君のような英雄が山奥に追いやられているのが不遇じゃないなら何なんだい?」


「それは……」


 やはり、という思いが強かった。イリスさんほどの人格者、かつ美人で強い人があんな山小屋で、野宿レベルの生活をしているなんておかしいと思ってたんだ。


「……不遇です」


「リフォロくん!? 裏切ったね!」


「少年もわかってくれるか。彼は家族なんだろう? ちゃんと説明してあげなきゃ可

哀想だよ」


「うっ! そ、それは……」


 渋々といった様子で、イリスさんは説明を始めた。


「あのね、私……その……」


 イリスさんがチラリとペシアさんを見る。ペシアさんが頷く。


「えっと……勇者と魔王を倒しちゃったんだ……」


「…………はい?」


「あはははははははっ!」


 ぽかんと間の抜けた声をあげた僕を見て、ペシアさんが大爆笑している。いや、意味がわからないんですけど……。


 机をバシバシと叩きながら、過呼吸になるまでペシアさんは笑い続けた。


「はぁー……。面白かった……」


「ペシア、笑いすぎだよ!」


「……どういうことなんですか?」


「ほら、少年も全然わかってないじゃないか。もっと最初から説明してあげないと」

 

 それからイリスさんの説明が始まった。


 それを要約すると、こうだ。まずこの大陸の二大強国であるラワース聖国とブライ魔王国は、3年に一度、決闘方式で主導権を巡る戦いをする。


 もちろん他にも国はあるが、基本的には観戦武官を派遣するに留まるらしい。前回の決闘の時はイリスさん姉妹が、故郷サーダイン大公国から派遣されていた。


 そしてイリスさんは観戦の準備に飽き、現地のラワース聖国の外交官に聞いた。参加しちゃだめなんですか? と。


 外交官は本気と思っておらず、笑いながらいいですよ、と答える。ペシアさん曰く中の下の国、サーダインの軍人ということでかなり見下されていたようだ。


 素直なイリスさんはそのまま参加申請。妹さんが気付き、取り下げようとするも、それはできなかったらしい。


「そして結果勇者と魔王に勝ってしまった、ということだ。少年」


「え? それでどうして不遇になるんですか? 主導権がもらえるんですよね?」


 その主導権が何かは知らないが、不利になるようなものを取り合ったりしないだろう。言わばオリンピックの金メダリストが不遇な目に遭ってるようなもんだろう? 酷い話だ。


「少年はサーダイン大公国の隣にある国を知ってるかい? ランダイン王国と言うんだけど……」


「いえ、ザーグラーから出て来たばかりの田舎者ですので……」


 ペシアさんは、ザーグラー? と首をかしげた。どうやら僕の故郷はドマイナーらしい。


「ランダイン王の下にあるサーダイン大公の国なんだ。つまり、なんだ、ランダイン王国はイリスの手柄を横取りしようとしたんだね」


「ランダイン王国は昔からめちゃくちゃだよ! いっつも偉そうだし!」


 腕を組んでぷんぷんと怒り出したイリスさん。何やら過去の軋轢もあり、思う事もあるのだろう。イリスさんが怒ると、室温が上がるので落ち着いて欲しい。


「それでもサーダイン大公はそれを断った。もし戦争になったとしても、聖国と魔王国が味方してくれるからね。それでその御年72歳のランダイン王は……どうしたんだった?」


 ペシアさんはニヤニヤと笑いながら、楽しそうにイリスさんに話を振った。するとイリスさんが薪ストーブくらい熱くなった。これが本当の燃料投下ってやつか。熱いのでやめてください。


「ど、どうなったって……! 私とランダイン王が結婚するって話になったの!」


「呆れた王だ。生かして置けぬ」


 殺意に目覚めた僕が思わず立ち上がると、ペシアさんはまた嬉しそうにバシバシと机を叩いて笑い出した。この人、清楚な見た目してるのになかなか愉快な人だな……。

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