第6話 うちにおいでよ
「キミ、大丈夫? ケガはない?」
僕は何も信じない。出て行っても奴隷として売られるんだ。僕は詳しいんだ。ウキ太に大袈裟なボディランゲージをさせながら僕はこの怪しい女を追い払う。
「ダマレコムスメ! オマエニボクノナニガワカル!」
「ほんとに人間だよね? これでゴブリンだったらどうしよう……」
「ニンゲンシツレイ。オレサマフキゲン」
「とりあえず出て来てよ。おうちはどこ?」
なかなか立ち去らない失礼な女の顔を見てやろうと、僕はうろから身を乗り出した。
そこに立っていたのは、緑のベレー帽を被った軍服の女だった。赤い胸元までの髪をカールしてサイドで一つに纏めて、意志の強そうな赤い瞳に、長い睫毛。小さめだが美しい鼻に、今は苦笑いを
細身だが出ているところは出ていて、それを無理矢理軍服に収めているせいか、やけにムチムチとしているように見える。裏地に何かの柄が入ったマントと、編み上げのロングブーツがとても凛々しい。
……ふんっ……控えめに言って美人ですね。話だけでも聞いてあげようじゃありませんか。
「一体何のご用でしょうか? うちには松ぼっくりくらいしかありませんよ」
「う、うちなの? ここが? ……お父さんとお母さんはどうしたの?」
「いやあ、捨てられちゃいました! ハハッ!」
「ハハッ! じゃないよ!? さっきの男の人たちはお迎えじゃないの?」
「鋤とナタを持って迎えに来てくれた、親切な人たちでして……。ハハッ!」
「ああ……そう……」
そういうと彼女はチラリと、いまだボディランゲージを続ける骨の猿、ウキ太を見る。いやらしい目でウキ太のことを見ないで欲しい。
「あの大変恐縮なんですが、水を分けて頂けませんか? お渡しできるものは松ぼっくりか、ウキ太の体くらいしかありませんが……」
「ウキ太……? 両方いらないけど……」
すると彼女は何もない空間に手を差し入れ、その中から銀の水差しを取り出した。おぉ! すごい! チートだ! チートしてるぞ!
「すげー!」
思わずそれが言葉に出てしまった。彼女はまた苦笑いしながら、木のコップに水を入れて僕に渡してくれた。
うめぇ……。乾いた喉に染み渡る水の味。水みたいでいくらでも飲める。おかわりもいいのか!?
ゴクゴクと僕が飲み続けていると、隣にしゃがみこんだ軍服さんが口を開く。
「ねぇ、食べ物はあるの?」
「な、ないです……」
「キミ。水もない。食べ物もない。それでこれからどうするの?」
「僕はこの森の奥でスローライフをするんです」
「この森で? ……持って3日ってところかなぁ?」
軍服さんが真面目な顔で余命を宣告した。
「ウキ太と僕が力を合わせれば……足りない分は勇気で補いますよ」
「勇気でお腹が膨れるならいいけどさ……。君が骨を動かせる力を持っているのはすごいと思うよ。でもさっきみたいなモンスターが出て来たら、次こそ食べられるよ?」
「モンスター?」
僕のオウム返しに彼女は笑った。
「あの黒い大きいのだよ。この森はディグニス山のふもとにあるの。生存競争の中で山を追われたモンスターがまた降りて来ても不思議じゃないの。あんなのまだ弱い方なんだよ?」
「嘘でしょう?」
あんなのが弱い方とか、思っていた以上にこの世界はハードモードなのかもしれない。確かに魔女がユニークモンスターじゃなくて、あれが通常モンスターだったとは思わなかった。RPGの最初の村であんなのが出る世界のか……。
それによく考えたら、ここに居たら村人がまた殺しに来るかもしれないしなぁ。困った。
「お姉さんはどこかスローライフに向いた良い場所知らないですか?」
「え? 私のおすすめは孤児院に行くことなんだけど……。そうか、ここはザーグラーだったね……」
軍服さんは腕を組み、うーんと唸りだす。曰くザーグラーは弱小国家で社会福祉なんてないから、例え首都に行ったとしても孤児院なんてなく、よくてスラム行き、悪くて餓死らしい。僕のスローライフはどこにあるんですか?
「せめてもう少し安全なところに行ければいいんですけどね……」
「それなら心当たりがあるよ」
彼女はニヤリと笑うと、立ち上がる。ブワッサとマントを翻し、僕に向けて手のひらを広げる。
「うちにおいで!」
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