第2話 骨と村人
「踊れ」
口から自然に出た言葉に、リバーワームは跳ねた。へにょりと死んでいたはずのリバーワームが、僕の目の前で宙を舞ったのだ。
「おぉっ!?」
僕は驚いて立ち上がり、リバーワームと距離を取った。いまだピョンピョンと跳ね続けるリバーワームの死体は、僕を目がけて跳ねながら追いかけてくる。
「来るな来るな!」
僕がそう声をかけると、リバーワームはその場でポトリと地面に転がった。その時の僕は死霊術師の力が自分にはあった、という喜びより、恐怖の方が大きかった。
死体のワームが僕の身長ほど跳ねながらこちらに向かって来たこともそうだが、死霊術師やネクロマンサーなんてファンタジーじゃ敵方の職業だ。
ゾンビやスケルトンを率い勇者や冒険者たちと戦う。そして敗れる……。そんな未来しか思い浮かばなかった。
それにこの力が村人に家族にバレた場合、僕は火炙りにでもされるんじゃないだろうか? 迷信深くて森の中の魔女の話なんかをいまだに信じている人たちだし。
とにかく僕はこの力を使うつもりはない。自らの首を絞めるようなことは慎むべきだ。
……まぁ、ちょっと両親にうっすらと探りを入れるくらいはしてもいいかもしれないな。
「父さん、母さん。死んだ生き物が動いたりすることってあるの?」
その夜、僕はできるだけ悟られないように、かつ単刀直入に両親に質問した。ただの子供の戯言として流してもらえる。そう思っていたのだが、両親は苛烈に反応した。
「どこで見たんだ! リフォロ!」
「川かい? 当分行かなくていいよ!」
両親は僕と兄をベッドに放り込むと、足早に外へと走って行ってしまった。言い訳する暇もなかった。
これは翌日聞いた話だが、村の男が総出で辺りを捜索したらしい。
死体が動く。ニワトリ?(この世界に居るのかはわからないが、大人たちは真面目にニワトリの鳴き声の真似をしたんだよ!)らしき鳴き声が聞こえる。大きな足音が響く。
そのようなことは凶兆で、魔女の現れる前兆らしい。もしそのような現象に遭遇したら全力で逃げるように、と強く両親から言い含められた。
もしかして本当に居るんだろうか? それとも何か特定の生物のことを、魔女と呼ぶのだろうか?
疑問は尽きないが、2日経っても特に魔女が現れる前兆が起こらなかったことから、厳戒態勢は解除された。皆には悪いことをしてしまったな。
それから僕は罪悪感もあって、僕はいつもより頑張って……2割増しくらい頑張って村の仕事を
2割増しの秘密。それは僕には新たな相棒ができたからだ。
川のそばに転がっていたサルの死体だ。ウキ太と名付けたその死体は、僕の代わりにリバーワームを収獲している。
最初は肉のついていた死体だったのだが、毎晩川の中に隠れさせているうちに魚に突かれでもしたのか、見事な白骨死体になっていた。それでも膂力は変わらず仕事してくれるのだから、すごいよ死霊術。この相棒の誕生により、僕の総作業効率は120%上昇。休息効率は63%上昇した。
いや、使わないって思ってたんだけど、実際使ってみるとこれが便利で……。魔力かなんか使ってる感覚もなく、ただただ死体が無料で仕事を手伝ってくれる。こんなの止められるはずがない。しかもある程度自律して動いてくれる上に、僕の指示には念じるだけで従ってくれる。こんなの駄目人間になってしまうよ。
ワームの収獲も増え、たまに魚まで持ち帰るようになったことを、家族も村人も喜んだ。
それにしてもこれだけ獲っても全く減る様子のないワーム。やつらは一体どこから来てるのだろうか……。
僕はそんな充実した地獄の毎日を送っていた。その日も僕は川でウキ太とワームを獲りながら、遊んでいた。
針があれば釣りとかも出来るんだけどな……。
石を使って小さなダムを造り、そこを塞ぐことによって魚を閉じ込める。そうやって迷い込んだ哀れな魚を捕獲する。寒いところだけあって、小さいサケというかマスっぽい魚が獲れる。水がとんでもなく冷たいのでここもウキ太にやってもらう。なんて便利なんだ。
そんなことをしていると、突然後ろから声をかけられた。
「リ、リフォロ! そいつから離れろ!」
──────────────────
面白そうだと思いましたら、☆、ブクマ、♡で応援下さい。励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。