第40話 前世の従者が背負っているもの①
俺がアリシアの背負っているものを取り除くべく、アリシアとの話場所に選んだのは────
「ここだ」
「ここは……」
今、俺たちの目の前には、前世の貴族の屋敷を思わせる屋敷がある。
当然、前世の俺の屋敷と全く同じ造形とは言えないが、その屋敷の雰囲気は前世で俺たちが過ごした屋敷を思い出すのに十分な雰囲気だった。
「この街全体がそうだが、この屋敷は特に前世を思い出すだろ?この世界でも貴族制度があった時に、貴族が住んでいた屋敷らしい……今は歴史の学習や観覧の目的で使われていて、住むことは許されないが少しの間入るぐらいなら自由にして良いらしい……修学旅行のしおりの自由行動例にも書かれていた場所だ」
「覚えております、貴族の生活を学びたい方はこちらにと書かれていましたね……確かにここでは前世のことをよく思い出せそうですが────ということは、アレクティス様のお話というのは前世に関係するお話なのですか?」
「そうだ」
俺がアリシアの問いに答えると、アリシアはそれから真剣な表情で口を閉ざした。
その後、俺とアリシアは二人でその屋敷の中に入ると、その屋敷の中にある客室に入り、俺はそのソファに座った。
「アリシアも、俺の対面にあるソファに座ってくれ」
「かしこまりました」
アリシアはこの前世を思い出させる屋敷に居るからか、もしくはいつも通りなのか、ソファに座った俺の後ろに控えていたため俺がアリシアもソファに座るよう伝えると、アリシアは一度俺に頭を下げてからテーブルを挟んで俺の対面にあるソファに座った。
すると、俺は口を開いて言う。
「アリシア……俺は、できるだけアリシアには笑顔で居て欲しいと思っている」
突然俺がそんなことを言い出したことに少しだけ驚いた様子のアリシアだったが、俺は続けてアリシアに言う。
「だから、当然だが俺はアリシアに苦しんで欲しくないと思っている……ずっとアリシアの愛を拒んでおいて都合が良いと思うかもしれないが、できることならアリシアに苦しんで欲しくないというこの気持ちに嘘は無い」
「……アレクティス様がそう思ってくださっていることは、前世で従者として仕え、今世でも前世の記憶を思い出してからは誰よりもアレクティス様のお傍に居る私には、理解できているつもりです」
俺は、そう言ってくれるアリシアの言葉を聞き届けると、口を開いて本題に入る。
「でも……アリシアはそんな俺の願いとは反対に、今前世のことを背負って苦しんでいる」
「っ……!それは……」
このことは、飛行機に乗っている時のアリシアの寝言や、遡ってアリシアと一緒に遊園地に一緒に行った時の言葉からも明らかだ。
「俺は、そのアリシアの苦しみを前世の主人として無くしたいと考えている……だからアリシア、苦しいことだとは思うが、アリシアが今背負って苦しんでいることを俺に教えてくれないか?」
アリシアが苦しんでいること、それに真正面から向き合うことで、俺はアリシアの苦しみを無くしたい……そう考えて俺がアリシアにそう言うと、アリシアは少し間を空けてから言った。
「私の苦しみをアレクティス様に吐露するなど、従者としてはあまり良い行動とは言えませんが、アレクティス様がそう仰るのであればそれも引き受けましょう……ですが、失礼ながらそれを吐露させていただく前に、私にもどうしても譲れない条件があります」
「……譲れない条件?」
俺が珍しいアリシアの言葉に少し疑問を抱くと、アリシアが強い眼差しを俺に向けて言った。
「私が私の苦しみを吐露した後、アレクティス様にもアレクティス様がお苦しみになられている理由を私にお教えいただきたく思います」
「っ……!?お、俺は、苦しんでなんて────」
「私にアレクティス様の嘘など通用致しません!」
「っ……」
俺の苦しんでいること、それは────俺が前世でアリシアの主人だったために、アリシアのことを愛したくても愛せないこと……だが、そんなことをアリシアに言ってどうなるんだ?
そんなことを伝えても、アリシアのことを余計に苦しませてしまうだけ……だが、そのことを約束しないとアリシアの苦しみを無くすことができないと言うのであれば……
「わかった……ちゃんと、全部話す」
「アレクティス様がそう仰ってくださるのであれば……私も、私が前世のことでずっと脳裏に焼きついてしまっていることをお話します」
そう言うと────アリシアは、アリシアが背負い苦しんでいる前世のことを思い出すように遠い目をしながらその背負っているものについて話し始めた。
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