第39話 前世の従者と修学旅行②

 ────翌日。

 幸い、アリシアと同じ部屋で宿泊すると言っても、この部屋は以前アリシアと宿泊したホテルとは違いシングルベッドがしっかり二つ用意されていた。

 そのため、俺は昨日の夜アリシアと同じベッドで眠ることは避けることができ、以前のように朝から色々と感情が大変になるようなこと無く起きることができた。

 そのことに俺は安心感すら抱いていた……のだが。


「アレクティス様!どうして昨日の夜は私がアレクティス様と添い寝することを拒まれたのですか!?」


 そんな俺とは反対に、アリシアはとても不満げな様子でそう聞いてきた。

 俺は、当たり前のことのため改まって言うのも変に感じられたが、アリシアにはそういったところもしっかりと伝えていかなければならないため、俺はそれを伝える。


「こんなシングルベッドにアリシアと二人で寝たら、体が密着するからだ」

「だから良いのでは無いですか!」

「堂々と言うことじゃない!」


 その後も俺とアリシアは朝からいつも通りのやり取りを繰り広げると、ホテル内にある飲食エリアで朝食を食べる時間となったため俺たちはそこに向かって一緒に朝食を食べる。

 そして、朝食を食べ終えて街に出てくると、先生が言った。


「これから一時間、この街の範囲内で自由行動を開始します……が、完全な自由時間ではなく、この街の建物や人と話して感じたことなどをしっかり紙にまとめ、できるだけ一人一回は英語で現地の方とコミュニケーションを取ることをお忘れなく……また、決して人に迷惑をかけないようにお願いします、以上です」


 先生がそう言うと、クラスメイトたちはとても楽しそうな声を上げてそれぞれ班ごとに自由行動を開始し、俺とアリシアも早速その街を歩き始めた。


「それにしても……ここは、本当に前世の街並みにそっくりだな」

「そうですね、魔法が無い分細かい部分は違うように思えますが、少なくとも建築様式や装飾の部分などがとてもそっくりですね」


 こんな場所を二人で歩いていると、本当にまるで前世の頃に戻ったかのような感覚になる……主人と従者の関係だった、あの頃に。


「見てください、アレクティス様!あちらにアイスクリーム店がありますよ!」

「本当だな、せっかくだし行ってみるか」

「はい!」


 俺とアリシアは、英語で店員の人とやり取りをする。

 幸いにも継条輪は英語が苦手では無く、アリシアに至っては本当に英語力が完璧だったため、スムーズに注文をすることができた。

 俺が頼んだのはチョコ味で、アリシアはバニラ味。

 俺たちはそれぞれコーンの部分を手に持ってそれぞれのアイスを食べる。


「美味しいですね、アレクティス様!」

「あぁ、海外だとまた味が少し違うが、これはこれで美味しい」


 それから、互いにアイスを堪能していると、少ししてからアリシアが言った。


「アレクティス様!私のバニラ味のアイスもお食べになられてみますか?」

「え?良いのか?」

「はい!」

「そういうことなら、一口貰おう」


 アリシアの言葉に甘える形でアリシアの持っているアイスのコーンの部分を握ろうとした────が、アリシアはその俺の手を躱してそのアイスを俺の口元に差し出してきて言った。


「アレクティス様、あ〜んです!」

「はぁ……!?い、いくらなんでも街中でそれは────」

「あ〜んです!」

「……」


 笑顔で押し切るようにそう言ってくるアリシアのことを止めることなど、この世界の誰にもできるはずはなく、俺は大人しくそのあ〜んを受け入れるように口を開いてそのバニラ味のアイスを食べた。


「いかがですか?」

「……美味しい」

「お口に合ったようで何よりです」


 そう言って、アリシアは嬉しそうに微笑んだ。

 ……食べ方がどうにしても、アリシアが自らのアイスを俺に分けてくれたのは事実のため、俺もアリシアに言う。


「アリシアも、俺のチョコ味のアイス食べるか?」

「良いのですか!?是非お願い致します!」


 そう返事をしたアリシアに、俺はそのアイスを渡そうとした────が、アリシアは嬉しそうに口を開けるだけでそのアイスを受け取ろうとしない。


「……わかった」


 俺はアリシアの言葉無き要望に応える形でアリシアにあ〜ん、といは言わずにそれと同じことをすると、アリシアはそのアイスを食べて言った。


「っ!こちらのアイスもとても美味しいですね!」

「あぁ、そうだな……」


 街中でアリシアにあ〜ん、をしてしまったことに少しダメージを負いながらも、俺はなんとなく聞く。


「アリシアはどっちのアイスが好きなんだ?」

「そうですね……アレクティス様と一緒に食べられるのであれば、私はどちらとも好きです!」

「それだと答えになってないな」

「でしたら、私はアレクティス様が大好きです!」

「それはもっと答えになってない!」


 その後、俺とアリシアは様々な場所を巡る。

 ────クレープ店。


「アリシア、クレープはこう持つんだ」

「ア、アレクティス様の手が私の手に……!」

「そんなところを見ろとは一言も言ってない!」


 ────インテリア店。


「前世の家具にそっくりだな」

「そうですね……アレクティス様はこちらのティーポットとこちらのティーポットで淹れた紅茶、どちらがお好きですか?」

「そうだな……アリシアの淹れてくれた紅茶だったらどれでも美味しいから、どっちでも良いな」

「っ……!!」


 など、様々な場所を回りながら、俺はあることを感じていた。

 やはり────アリシアと居る時間は、自らに嘘を吐けないほどに楽しい。

 そして、楽しいだけじゃない……アリシアが俺に笑顔を向けてくれる度に、俺は……っ。

 愛したいのに愛せない、それがこれほどまでに苦しいことなのかと今酷く痛感している────だが、俺にはそんなことに苦しむよりも前に、やらないといけないことが残っている。


「……アリシア、少し話したいことがあるから、場所を変えないか?」

「もちろんよろしいですが、ここではダメなことなのですか?」

「あぁ、この話をするのに打ってつけの場所がある」


 俺が真剣にそう伝えると、アリシアにもその俺の真剣さが伝わったのか、先ほどまでの街を楽しんでいる雰囲気から変わり真剣な表情で頷いて言った。


「わかりました」


 ────今日で、アリシアが背負って苦しんでいるものを俺が取り除く。

 それが、俺のやらなければならないこと。

 俺は、そんな強い信念を抱きながら、アリシアと二人でその場所へと向かった。

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