第36話 前世の従者への誓い①

 俺たちが飛行機に乗る便になると、俺たち生徒はそれぞれ班ごとに横並びになるように席に座るよう言われ、俺とアリシアは隣になるように席に座った。

 通常であれば、班は三人が基本とされている。

 が、このクラスの人数ではどうしても二人になってしまう班が一つ出てしまうため、アリシアが率先して俺と二人になるということを主張した結果俺とアリシアが二人班となったというわけだ。


「それにしても、エコノミークラスなのですね……飛行機と言えばファーストクラスが大前提だと思っていたため、てっきり油断してしまっていました」

「学校の修学旅行でファーストクラスなんて乗れるわけないだろ?大体、高校生が飛行機に乗れるってだけですごいことなんだ」


 現に、周りの生徒たちはまだ飛行機がフライトを開始し始めたわけでもないのにとても楽しそうに話している。


「今からでも、私とアレクティス様の分のファーストクラスを購入────」

「ま、待て待てアリシア!今からなんて絶対に無理だから今回は諦めた方がいい……それに」


 俺は、相変わらず常識外な行動を取ろうとするアリシアのことを真剣に止めながらも、アリシアの目を見て思ったことを言う。


「俺は、エコノミークラスでもファーストクラスでも、アリシアが隣に居てくれるならそれだけで満足だ」

「ア、アレクティス様……」


 アリシアは感慨深そうな表情で俺のことを見てきて俺の名前を呟いた。

 こういったことを伝えるのは少し恥ずかしいような気もするが、思っていることをしっかりと伝えることも大事────


「それはつまり、私へのプロポーズということでよろしいでしょうか!?」

「はぁ!?な、なんでそうなるんだ!?」

「私が隣に居てくれるだけで満足というのは、一種のプロポーズのようなものではないかと考えます!」

「ち、違う!俺はそんなつもりで言ったわけじゃ────」

「ご安心ください、アレクティス様……こんなこともあろうかと、修学旅行に行くとなっても抜かりなくこちらを用意しております!」


 そう言ってアリシアが自信満々に見せてきたのは、婚姻届だった。


「って!どうしてそんなもの持ってるんだ!」

「今のような状況を想定してです!」

「今は必要無いから閉まってくれ!」

「今は、ということは後ほど────」


 その後、俺はどうにか俺との結婚や婚約といった方向に話を持って行こうとするアリシアのことを落ち着かせることに成功すると、いよいよ飛行機は離陸し、空を飛び始めた。

 そして、それからしばらくした頃。


「アレクティス様、着くのは夜になり、明日から本格的に修学が始まるとのことでしたので、お昼寝をなされてはいかがですか?」

「……そうだな、アリシアも寝るのか?」

「私はアレクティス様の身を第一に考えているので、不足の事態に備えこのまま起きさせていただきます」

「そうか、あまり無理はせず眠くなったらちゃんと寝るようにな」

「はい!」


 俺はアリシアに念のためそう伝えておくと、そのまま眠りへと落ちて行った。

 ……頭の中に、今日の修学旅行先の建物の雰囲気が前世で俺やアリシアが居た場所と似ているというのがずっとあるからだろうか。

 眠りについてすぐに、俺の視界には前世の光景が映し出された。



◆◇◆

 今日は、近隣の俺と同じ侯爵の貴族であるジェイコブ侯爵との面談の日。

 何やら、俺に商談の話があるということだったので、今日は時間を作った。

 商談と言われても特にお金に困っているわけでは無いので、その話を受けるかどうかは内容を聞いてからだ。

 俺がそんなことを思いながら廊下を出ると、メイド服を着たアリシアが俺に挨拶をしてきた。


「アレクティス様!おはようございます!」

「おはよう、アリシア」

「本日は面談の用事があるとのことでしたので、しっかりと廊下の方を掃除しておきました!」

「確かに、いつも綺麗だが掃除をした直後だからかいつもより綺麗に見えるな……今日も水魔法を使ったのか?」

「はい!その方が確実で早く終わりますので!」

「流石のコントロール力だな」


 俺がアリシアの水魔法のコントロール力に関心を抱いていると、アリシアが俺に向けて聞いてきた。


「ところでアレクティス様……確認なのですが、本日の面談相手は女性では無いのですよね?」

「あぁ、前にも言ったが女性じゃない」

「でしたら良かったです!もし婚約のお話などでしたら……」


 そう言うと、アリシアは氷魔法による冷気を放ち始めたため、俺は首を横に振って言う。


「ち、違うから安心してくれ」


 その俺の言葉を聞いたアリシアは、安心したように笑顔になると言った。


「でしたら良かったです、アレクティス様への愛は私が居れば十分ですから」


 俺はそのアリシアの言葉に、苦笑して返した。

 ────これが、俺とアリシアの日常だった。

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