第35話 前世の従者と服屋②

 突然アリシアの下着姿が視界に映った瞬間、俺は顔を上に向けて言う。


「な、何をしてるんだ!?い、今、下着姿だったよな!?」


 一瞬だったが、アリシアが白の下着姿になっているのが俺の脳裏にしっかりと焼きついた……焼きついてしまった。


「はい、アレクティス様は今まで私の試着した服の姿を似合っていると褒めてくださいましたが、次は私が服を着た姿では無く私の下着姿への感想をお聞きしたく思いましたので、このような行動を取らせていただきました!」

「なんでそんな発想になるんだ……!というか、試着が終わったわけじゃ無いなら俺は出る、今度こそ4着目をちゃんと着てくれ」


 俺は心の中で大きな溜息を吐きながらも、その試着室を後にしようとした────が、アリシアは俺の手首を握って言う。


「お待ちください、アレクティス様はまだ先ほどの私の問いにお答えになられていませんので、出て行かれるのであれば先にそちらにお答えください!」

「ど、どうして俺がそんなことに答えないと────」

「アレクティス様がお答えになるまで、私はアレクティス様の手首をずっと握っています!必要とあらば店員さんへの協力申請も辞さないつもりです!」


 どうして店員がこんなことに協力するんだと言いたいところだが、おそらくアリシアの社長令嬢としての力でその辺りのことはどうともなるんだろう。

 それなら、あとはアリシアの下着姿について俺がどう思ったかを答えるしかないということになる。

 ……本当ならこんなこと答えたくないが、ここで俺が拒むことによって店を巻き込んだ騒動とかになることだけは御免なため、俺は大人しくそのアリシアからの問いに答えることにした。


「白の下着は、アリシアによく似合ってて良いと思う」

「っ……!ありがとうございます!アレクティス様にそう思っていただけたのでしたら、私も満足です!」


 そう言うと、アリシアはすぐに俺の手首を離してくれたので、俺は即座にアリシアの居る試着室から出た。

 そして、アリシアはカーテンで体を隠し顔だけを試着室から覗かせると、俺に向けて小さく微笑みながら言う。


「もう少し詳細なお話は、いずれベッドの上でお聞かせ────」

「そんなことにはならないから早く4着目に着替えてくれ!」


 俺がそう伝えると、アリシアは再度小さく笑いながらカーテンを閉めた。

 こっちはあのホテル宿泊から色々と頭の中でアリシアについてぐるぐる回ってるっていうのに────余計に、アリシアのことが頭から離れなくなりそうだ。

 そんなことを思っていると、アリシアは4着目に着替え終わり、その4着目を俺に見せてきた。

 4着目も似合っていると感じそのことをそのまま口にすると、アリシアはとても嬉しそうだった。

 アリシアが4着の試着を終えたところで、俺がアリシアに試着して欲しい服を全てアリシアが試着してくれたことになるので、次は俺がアリシアの望む服を試着することにした。


「それで、アリシアは俺に試着して欲しい服が何着ぐらいあるんだ?」

「そうですね、最初は100着ほどあったのですが、それでは修学旅行の日用品を買う時間が無くなってしまうと思い、厳選に厳選を重ねどうにか10着に留めることができました!」


 10着でも十分に多い気はするが、もしかしたら100着も試着をしないといけなかったという可能性を考えると10着というのが可愛らしく見えてくる。


「わかった、なら10着全て試着する」

「ありがとうございます!」


 それから、俺は10着を順番に試着していくことにした。

 1着目。


「あぁ、アレクティス様、とても麗しきお姿です!」


 2着目。


「高貴さが隠せておりませんね!素敵です!」


 3着目。


「私はアレクティス様のお格好に魅了されてしまいました、あぁ、アレクティス様……!」


 そんなことがあと6回繰り返され────最後の10着目になる頃には。


「はぁ、はぁ、アレクティス様、どうしてそんなに格好がよろしいのですか?素敵なアレクティス様のお姿をこれほど連続的に見せられてしまっては、私……!」

「お、落ち着けアリシア!……アリシア?……アリシア!?」


 その後、俺は何やら怪しい息遣いで俺のことを抱きしめようとしてくるアリシアのことをどうにか躱し続けて過ごした。

 そして、一難去ってまた一難。


「本日私たちが試着したお洋服を、全て購入させていただこうと思います!」

「はぁ!?」


 アリシアが計14着の服を購入すると言い出したため、アリシアのことをどうにか常識的な女子高生で居させたいと思っている俺は全力でそれを阻止しようとあの手この手で説得したがそれらは全て失敗したため、俺は最後に伝える。


「俺たちはこのあと修学旅行の日用品を買うから、それで荷物がどれぐらいになるかわからないし、そもそも服を14着も持って帰るなんて物理的に無理だ」


 これなら反論は出ないだろうと踏んでいたが────


「でしたら、郵送していただきましょう」


 と、簡単に反論されてしまい、俺はもはや為す術無くアリシアが見たこともないようなカードでそれらの服を購入するところを黙って見届ける他無かった。


「とても良い買い物をしました!アレクティス様のお洋服は10着ともプレゼントするので、気が向いた時は着用してくださいね!」

「……あぁ」


 アリシアがプレゼントしてくれるというのは嬉しいことだが、それ以上に俺は複雑な感情を抱いており、両手を上げて喜ぶことができなかった。

 そして、俺たちはその後で修学旅行に日用品を購入して行くと、いつの間にかショッピングモールの前には黒のリムジンが停まっており、俺はそのまま家まで送ってもらった。


「……修学旅行、楽しみだな」


 修学旅行でアリシアと向き合わなければならなくなるという予感に対してどこか緊張感を抱きながらも、今の俺はそれ以上に修学旅行を楽しみにしていた。

 それから日は流れ────修学旅行当日。

 俺やアリシア、他のクラスメイトや教師も含め、俺たちは海外行きの飛行機に乗るべく空港へやって来ていた。

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