第34話 前世の従者と服屋①

「────無事アレクティス様と同じ班になることもできましたので、私は今から修学旅行がとても楽しみです!」

「そうだな」


 修学旅行で同じ班になることができた俺とアリシアは、放課後になると二人で一緒に街にある大きなショッピンモールへとやって来ていた。

 ショッピングモールに来る理由は人それぞれであり、また人によってもその時の目的次第で変わるものだと思うが、今日俺とアリシアがショッピングモールにやって来た理由は今話題としていた修学旅行で必要となりそうな日用品を買っておくのが目的だ……そんな目的を持ちショッピングモール内を歩いていた俺とアリシアだが────アリシアは、その中にあった服屋の前で足を止めた。


「アレクティス様、少しこちらの洋服店を覗いて行きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「あぁ、問題無い」

「ありがとうございます!」


 アリシアは嬉しそうな表情でそう言うと、服屋の中に入って行った。

 今日の本題は修学旅行に必要となりそうな日用品を買うというものだが、アリシアと服屋に行く、そんな時間があっても問題は無いだろう。

 俺は、楽しそうなアリシアの後ろをついて行く形で服屋の中に入ると────アリシアが足を止めた場所で違和感を覚えた。


「アリシア、ここにあるのは男性用の服だけみたいで、女性用の服は反対にあるみたいだからそっちの方に行ったほうが良いんじゃないか?」


 服屋を覗きたいと行ったアリシアに、俺は至極真っ当だと思える提案をする。

 その提案に対して、アリシアは俺にとって予想外の返答をしてきた。


「いえ!私はアレクティス様にお似合いのお洋服があればと思いこちらにやって来ましたので、問題はありません!」

「そ……そうか」


 普通、元々予定にあったわけではなく咄嗟に服屋を覗きたいとなった時は、自らの気に入る服があるかどうかを確認するために覗くというのが自然だと思うが、どうやらアリシアにはそういった常識すら通用しないようだ。

 俺が心の中でアリシアに対して驚きながらも服を見ているアリシアのことを見守っていると、一通り男性用の服を見たアリシアが言った。


「アレクティス様!全てのお洋服がアレクティス様にお似合いになりそうなので、こちらにあるお洋服────」

「ちょっと待て!アリシアが次に何を言おうとしているのかはなんとなくわかるが、試着もせずに答えを出すのは早計だ」

「っ!?試着してくださるのですか……!?」


 そういうつもりは無かったが、そうで無ければ本当にアリシアがここにある服を全て買うと言い出しかねないため、ここは俺が試着する他無いだろう。


「あぁ、試着しよう……だが、俺だけ試着するっていうのもなんだし、せっかくならアリシアも試着したらどうだ?」

「私が……ですか?私は特にお洋服に困っていませんので……」


 そんなことを言ったら俺だって特に服に困っているわけではない……それでも俺が今から服を試着しようとしているのは、流れ的に俺がアリシアのためにも試着をした方がいいと感じたからだ。

 ここで、俺には二つの選択肢がある。

 一つ目は、ここで「なら、俺だけでいいか」と返し、俺だけが試着をする。

 二つ目は────俺が今、純粋に私情からアリシアに伝えたいことを伝える。


「……」


 問題は、二つ目の俺の本音が前世の俺の誓いを破ることに繋がる恐れがあるのかどうかだが……別に、そんなことは前世で主人と従者の関係だったとしても通常通り行われていただろうし、この世界でも異性の友達同士で十分に起こり得ることのため、きっと前世の俺の誓いを破ることには繋がらないはずだ。

 俺は、自分にそう言い聞かせると、俺はもしかしたら前世と今世を含めて初めてアリシアに完全な私情でお願いをした。


「アリシア……アリシアが嫌なら無理にとは言わないが────それでも、その……俺も、色んな姿のアリシアが見たいっていうか……俺も、アリシアに着て欲しい服を選んでアリシアに試着して欲しいと思うんだが、いいか?」


 俺が今まであまりしたことがないことに、口が下手になりながらもそう伝えると、アリシアは嬉しそうな表情で俺との距離を縮めてきて言った。


「ア、アレクティス様が私に着て欲しいお洋服、ですか!?わ、私も是非アレクティス様にお洋服をお選びいただき、試着させていただきたいです!!」


 アリシアがとても嬉しそうにしていることに、俺は本音を伝えて良かったと思うと、その後今度は女性服が売っている場所へ移り、俺はアリシアに試着して欲しいと思う服を数着選んだ。

 そして、互いに相手に試着して欲しいと思う服をカゴに入れると、試着室の前までやって来た。


「ではアレクティス様、まずは私が試着させていただこうと思いますので、少々こちらでお待ちください」

「わかった」


 そう言われた俺は、大人しく試着室の前でアリシアのことを待つことにした。

 それから数分後────制服から、その服に着替えたアリシアが試着室から姿を現した。


「アレクティス様……!いかがでしょうか……?」

「あぁ、似合ってる」

「っ……!そ、それでは、次のお洋服に着替えて来ますね!」

「頼む」


 声を上擦らせてそう言うアリシアの言葉に対してそう返事をすると、アリシアは続けて2着目、3着目と試着をしてくれ、俺はそれら全てに似合っていると言った。

 当然、嘘で言っているわけではなく、全てが本当に似合っていたからだ。

 そして、アリシアは最後の4着目を着替え終えたらしく、俺に試着室のカーテンの目の前にやって来るよう言ってきた。

 俺にはどういう意図がわからなかったが、言われた通りにそのカーテンの前までやって来ると────勢いよくカーテンが開いたかと思えば、俺は突然アリシアの入っている試着室の中に引き摺り込まれ、アリシアは勢いよくカーテンを閉めた。


「ア、アリシア、一体────」


 そう言いかけた俺がアリシアの姿を見ると────アリシアは、先ほどの試着の際に履いていたスカートをそのまま履いており、上半身に関しては下着姿となっていた……そして、頬を赤く染めて俺に距離を縮めてくると言った。


「アレクティス様……私は、いかがでしょうか?」

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