第31話 前世の従者とホテル③
「ア、アリシア……!悪い、今のは違うんだ!」
俺は、アリシアの方に触れたままバランスを崩してしまい結果的にこのような体勢になってしまったことを謝罪する。
というか────さっきからずっと感じていたことだが、本当に今のアリシアは色っぽく、良い香りを放っていて魅力的で、先ほどよりも距離が近づいたことによってよりそのことを感じる。
それに、もともとバスローブ姿ということもあってただでさえ体の露出があったのに、今俺に覆い被さっている形になっていることで、よりアリシアの大きな胸元が視界に────
「……アレクティス様?やはりお顔が赤いようですが、どうかなされましたか?」
俺に覆い被さりながら首を傾けてそう聞いてくるアリシアに対して、俺は言う。
「ど、どうもしてない、気にしなくていい」
「そういうわけにはまいりません、理由をお教えになってください」
そう言うと、アリシアはさらに俺との顔の距離を近づけてきた。
そして────その時、俺は今までこの状況やアリシアのいつもと違う雰囲気、そして寝室ということもありベッドライトしか付けていない程度の明るさだったことが重なって気付けなかったが、アリシアの顔が少し赤くなっていることに気が付いた。
「アリシアこそ顔が赤いようだが、どうしてだ?」
俺がそう聞くと、アリシアがどこか照れた様子で言った。
「愛しているアレクティス様が目の前でお体を少しだけ覗かせたバスローブを着ており、互いにベッドの上、それも覆い被さるような体勢ともなれば私とて顔の一つや二つ赤くなってしまいます」
っ……!
それは、俺今アリシアに抱いていることと同じようなことと置き換えることも可能だ……が、そうなると一つ確認しなければならないことがある。
「愛している俺、っていうところは重要なことなのか?」
「もちろんです、今仮に目の前に居るのがアレクティス様で無い男性で同じ状況になったとしても、私は顔を赤くしないどころか嫌悪感を示すだけでしょう」
その通りだ……俺だって、仮に今この状況になっているのがアリシア以外の女性だったとしたなら、おそらく今と同じような感情は抱かない。
おそらく抱く感情としては困惑、もっと言えばアリシアと同様に嫌悪感かもしれない……そして、そうなってしまう理由は、その相手が。
────その相手が、アリシアでは無いから……と考えられるが、それを認めるためには俺はその根源すら認めなければならなくなる。
相手がアリシアでは無いから嫌悪感を示すなんて、それは────もう、アリシアのことを異性として好きだと言っているのと同義になってしまう。
だから、それを認めなければならなくなる……が。
────それだけは、断じて認めることができない。
「……俺の顔が赤いなんて、アリシアの気のせいだ」
「気のせいなどでは────」
そう言いかけたアリシアだったが、俺の目を見てその言葉の続きを言うのをやめると「そう……かもしれませんね」と言い、俺に覆い被さるのをやめた。
その後、二人で隣同士に改めてしっかりベッドで横になる。
「おやすみなさいませ、アレクティス様」
「……おやすみ、アリシア」
アリシアは何も悪くなく、ただの俺の心情によるものだが、俺は今アリシアのことを視界に入れたくなかったため、アリシアとは反対方向を向いて眠りにつくことに決めて、アリシアの反対方向を向いて目を閉じ、そのまま眠りへと落ちた。
そして、今日の出来事によって俺は過去の────前世の記憶を無意識のうちに掘り起こしていたのか、前世の記憶の嫌な夢を見た。
「お前だって、本当はあいつのことを────」
違う!俺は絶対に、絶対にそんなことは考えない!!
◇七深華音(アリシア)side◇
「ぅ……アリシ……ア……俺……に……」
「アレクティス様……」
アリシアよりも早く眠りに落ちたアレクティスだったが、その様子は酷くうなされていた。
そして、アリシアはそんなうなされているアレクティスが自分に背を向けて眠っていることに悲しさを覚えながらも、そんなアレクティスのことを背中から抱きしめて眠っているアレクティスには届かない声を届ける。
「アレクティス様は、何を背負っておられるのですか?私如きがこのようなことを申し上げるのは申し訳ありませんが、先ほどのアレクティス様は私のことを異性として……一体、何がアレクティス様をそこまで苦しめているのですか?……私は、また苦しんでいるアレクティス様に、何もして差し上げることができないのですか?」
そう言うと、アリシアはさらにアレクティスのことを抱きしめる力を強めて、アレクティスと共に眠りへと落ちた。
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