第30話 前世の従者とホテル②

「そ、添い寝!?」

「はい!」


 驚いてアリシアから出た言葉を繰り返す俺に対して、アリシアは笑顔で頷いた。

 アリシアとの本格的な添い寝なんて、前世ですらしたことがないし、それも今世ともなれば添い寝なんてどれだけの意味を持つか計り知れたものでは無いため、そう簡単に受け入れることはできない。

 ……こうなったら、俺にとっては苦渋の選択だが仕方ない。


「そういうことなら、俺は椅子で寝るからアリシアがベッドで寝てくれ」


 俺は、できるだけ平静を装いながらそう言った。

 これなら俺とアリシアの寝る場所は異なることになり、俺とアリシアが添い寝をしなければならなくなる理由もなくなる。

 今の状況で論理的に考えれば俺の求める状況を叶えるにはこうするしかない────が。

 アリシアは、小さく口角を上げて言う。


「アレクティス様、私との添い寝をすることが恥ずかしいからと言って、そのような嘘を吐いてはいけませんよ?アレクティス様はベッドで無ければ眠れないお方だということは、私が誰よりも知っているのですから」

「っ……」


 そう、あんな提案をした俺だったが、実は俺はベッド以外で眠ることがほとんどできない……それでもアリシアとの添い寝を天秤にかけた場合……俺が再考していると、アリシアが言った。


「明日円滑に帰宅するためにこのホテルに泊まるという話でしたのに、それが明日体調不良になってしまっていては本末転倒だと思います」

「そ、それは……その通りだな」

「でしたら、本日は私と添い寝をするのが私にとってもアレクティス様にとっても最適解、ということになりますね」


 本当にこれが最適解なのかはわからないが、少なくともアリシアの意見はこの場では正しく、俺に反論する余地など全く残されていなかったため、俺はそれを甘んじて受け入れることにして頷いた。

 すると、アリシアが続けて言う。


「でしたらアレクティス様、次はお風呂のお話ですが、本日は私と一緒に────」

「入らない」

「……私がアレクティス様のお体を洗わせていただきたく────」

「結構だ」


 睡眠場所はともかくとして、お風呂に関してはどう考えたって一人でも事足りるため俺が即座にアリシアの提案に対して否定を入れると、アリシアは頬を膨らませて明らかに納得していない様子で「……わかりました」と言った。


「となると、後は着替えの問題だな」


 当然、俺たちはまさか今日こんなことになるとは考えていなかったため、着替えなど用意できていない……だから着替えをどうするか────そう考えていた俺に対して、アリシアが言った。


「お着替えでしたら問題ありません、こちらのホテルには各部屋にバスローブが常備されています」

「バスローブ……そうか、それなら一応は安心か」

「はい……これにて一度話は一区切りかと思われますので、ホテルサービスにて食事を頼みましょう」

「そうだな」


 その後、俺とアリシアは、このホテルに置いてあったメニュー表を手に取ると、様々な料理を見ていく。


「できるだけアレクティス様に食べさせて差し上げやすい料理が良いですね」

「どうして俺が食べさせてもらう前提になってるんだ!」

「そうでは無いのですか!?」

「そうじゃ無いに決まってるだろ!」


 そんなやり取りをしながらもルームサービスにて俺たちは料理を注文すると、それを頼んで、どうにかアリシアからご飯を食べさせられるのを拒みながら二人でその料理を食した。

 そして、話し合いの結果俺が先にお風呂に入ることに決定すると、俺はお風呂に入った……少しだけ危惧していたが、特にアリシアに覗かれるようなことはなく無事にお風呂を済ませると、バスローブを着てお風呂から出て、次にアリシアがお風呂へ入る番となった。

 そのすれ違いざまにアリシアが言う。


「まぁ、アレクティス様……!バスローブ姿もなんとも高貴で美しいです!」

「そ、そうか?」

「はい!」


 アリシアの感性は俺にはわからなかったが、ひとまず褒めてくれたことに対してはお礼を言うと、アリシアは嬉しそうにお風呂場へと向かった。

 ここまで来ると眠るだけのため、俺は大人しくベッドでアリシアのことを待つことにして────数十分後。


「ア……アリシア、上がったか」

「はい、とても良い湯を堪能させていただきました」

「そ、それは良かった」


 そう言いながら近づいてくるバスローブ姿のアリシアに、俺は少し動揺していた。

 アリシアのスタイルがバスローブに収まりきらないほど良いため、ボディラインや胸元が刺激的になっていることは言うまでもないが、お風呂上がりだからなのかいつもより色っぽく、良い香りも放っていて、なんというか────魅力的だった。

 俺がそんなことを思っていると、俺の目の前までやって来たアリシアが俺の顔に手を添えて言う。


「アレクティス様?顔がお赤いようですが、どうかなされましたか?」

「い、いや、大丈夫だ」

「嘘です!もしかして、のぼせられたりしたのですか?私がしっかりと確認しますので、顔を近づけさせていただきます!」

「だ、だから、本当に大丈夫だと────っ!?」


 俺に近づこうとしてくるアリシアのことを俺から離そうと軽くアリシアの肩に触れた瞬間、同時に逃げるように後ろへ後退しようとしていた俺はバランスを崩してしまい、俺はベッドに倒れ込んでしまい、アリシアはそんな俺に覆い被さるような体勢になった。

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