第29話 前世の従者とホテル①

「ふ、二人でホテル!?本気で言ってるのか!?」

「もちろんです、交通ルートが全て使え無いのであれば、近くにあるホテルに宿泊するのが最善だと思われます」

「そう、かもしれないが……」


 アリシアと二人でホテル?

 それはつまり、アリシアと一つ屋根の下で生活するっていうことだよな?

 この世界でアリシアと一つ屋根の下で生活をする、そんな機会は間違いなくまだまだ先、なんだったらこの世界ではそんなことは起きないという可能性を考えていた矢先にこんなことになるのか……!

 俺がそう思っていると、アリシアが俺に聞いてきた。


「私は一夜限りだとしてもアレクティス様と前世のように同じ屋根の下で生活できることを嬉しく思いますが、アレクティス様は私と二人でホテルへ宿泊することがあまり好ましく無いのですか?」

「好ましく無いというか……どうしてもこの世界の常識に当て嵌めて考えれば、そういったことは基本的に恋人同士でするようなことだから思うことはある────が、常識云々なんて言ってられる状況じゃ無いし、俺もアリシアの提案に賛成しよう」

「っ……!ありがとうございます!でしたら、今すぐにホテルの予約を行わせていただきますね!」


 そう言うと、アリシアは嬉しそうにスマホの操作をし始めた。

 アリシアがスマホを操作する度にとんでもないことが起きてしまうのが日常の常だが、今は少し頼もしく感じるな。

 前世でも、アリシアは俺が困っている時に本当に助けになってくれて……


「……」


 アリシアがスマホを操作してくれている間、俺が一人物思いに耽っていると、アリシアが近くのホテルの予約を完了したらしいため、俺たちはコンビニで傘を購入してからそのホテルへと向かった。

 そのホテルのエントランスも、以前アリシアと一緒に行ったホテルとは違う系統でとても高級感に溢れており、俺は相変わらず場違いを感じながらもアリシアがフロントの人とのやり取りを終えるのを待った。

 そして、アリシアがフロントの人とのやり取りを終えると、俺とアリシアはエレベーターを使って目的の階に上がり、俺たちの部屋へと入る。

 その部屋はモダン風のオシャレな部屋で、俺はひとまずそこにあった椅子に腰掛けると────アリシアは、俺に近付いてきて俺の体を触り始めた。


「ア、アリシア!?何してるんだ!?」


 突然のことに驚いた俺だったが、よく見るとアリシアの手にはハンカチが握られており、アリシアはそのハンカチを俺に見せながら言った。


「アレクティス様のお体が濡れていたので、拭かせていただこうかと……万が一にも、アレクティス様が風邪を引いてしまってはいけませんので」


 傘を差していたと言っても、豪雨の中ではそれも完全では無いか。


「……そうか、ありがとう」

「っ……!いえ!アレクティス様にお仕えさせていただくことこそ、私の生きる意味ですのでお気になさらないでください!」


 そう言うと、アリシアは俺の服の濡れている部分を丁寧に拭いてくれた。


「……一人じゃ拭きづらいと思うから、アリシアのことは俺が拭こう」

「っ!ありがとうございます!」


 俺は、アリシアからハンカチを受け取ると、アリシアの服の濡れている部分を拭き始める……こうして何気ない日常、と言えるのかはわからないが、それでも日常の中でアリシアと触れ合っていると前世のことを思い出して温かい気持ちになるな。

 俺がそんなことを思い、アリシアの服を拭き続けていると────あるところで手と目が止まった。


「……」


 アリシアの胸元が濡れている、それもその服は濡れていることもあってどこか透け感があって、今は大丈夫だがハンカチで拭いてアリシアの体と今より密着すれば、アリシアの中に着ているものが見えてしまうかもしれな────というか!俺がアリシアの胸元なんて拭けるわけがない!


「アリシア、悪いが前の方は自分で拭いてもらってもいいか?」


 そう言って俺がアリシアにハンカチを差し出すと、アリシアが言った。


「もしかして、私の胸元に触れてしまうことを気にしておられるのですか?そのようなこと、お気になさらずともよろしいですよ?」

「気にするに決まってるだろ!」

「そうですか……では、失礼致します」


 そう言うと、アリシアは俺からハンカチを受け取って、俺の目の前で自らの胸元を拭き始めたため、俺はすぐに視線を逸らした。

 そして、その視線を逸らしたついでに室内を回ることにした。

 俺たちの今居た広い空間に、個室、お風呂、クローゼットに寝室、完璧な布陣だな……俺は、寝室のベッドに触れながら呟く。


「良いベッドだな、これならよく眠ることができそうだ」


 今日寝る時このベッドの上で眠ることが俺の中で楽しみにな────ろうとした時、俺はとんでもないことに気が付いてしまい、寝室から出る。

 すると、寝室のすぐ目の前には、自らの服を拭き終え俺の元へやって来たのであろうアリシアの姿があった。


「ふふ、少年のように好奇心旺盛に部屋を探索するアレクティス様のお姿、遠くから見ていてとても愛らしく感じました」

「そんなことよりも!アリシアに一つ確認したいことがある」

「はい、なんでしょうか?」


 俺は、疑問符を浮かべているアリシアにその確認したいことをぶつけた。


「この部屋、ベッドが一つしか無いんだが、もう一つはまだ俺が見つけれていないだけでどこかにあるのか?」


 恐る恐るそう聞いた俺に対して、アリシアは笑顔で言った。


「ベッドでしたら一つしかありませんので、本日は私がアレクティス様の添い寝を務めさせていただくこととなります」


 俺はその言葉に驚愕を通り越して、戦慄を感じていた。

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