第28話 前世の従者と遊園地③

「────とても興味深い魔法体験でしたね、魔法の無い世界で繰り出される魔法の創造……少しだけ前世の感覚に重なる部分がありました」


 マジック・オブ・フォースというアトラクションに乗った後、アリシアはそんな感想を漏らした……火の魔法や氷の魔法の映像のパフォーマンスと共に、乗り物が揺れたり炎の時は熱風、氷の時は冷風が流れたり、とにかくとても臨場感があった。

 本当の魔法と同じかと言われればそうでは無いと答えるほかないが、遊園地のアトラクションの一つとして楽しむ分には上出来だろう。


「そうだな、冷風を感じた時は一瞬だけ前世でのアリシアの氷魔法を思い出した」

「ふふ、前世の私の氷魔法を無防備にあれだけの時間浴びてしまっていたら、アレクティス様は今頃全身氷漬けになってしまっていますよ」

「冗談じゃないだけに想像しただけでゾッとするな」


 そんな感想を言い合いながらも、俺たちはその後も様々なアトラクションを楽しんだ……脱出ゲーム────


「アレクティス様、ご安心ください!この建物が爆破されてしまう前に、必ずや私がアレクティス様のことをお外にお連れして見せます!!」

「あ、あぁ……まぁ、ゲームだから、ほどほどにな?」

「はい!アレクティス様のことをお連れするため、手段を問わないつもりです!」

「それはほどほどじゃ無いだろ!というか、スマホを出すな!アリシアがスマホを出すと大体とんでもないことが起きるんだ!」


 その次は────


「そこのカップルさん!よろしければ、こちらのコーヒーカップに乗ってみませんか?カップルさんであれば、とても良いお時間をお過ごしできると思いますよ」

「あぁ、俺たちは────」

「わかりました!是非過ごさせていただきます!」

「アリシア!?」


 男女二人で居たことからカップルだと誤解されてしまい、アリシアもその誤解に対してかなり乗り気だったため、コーヒーカップに乗ることになり────


「アレクティス様、私がこのコーヒーカップを誰よりも回転させ、私のアレクティス様に対する愛情がこの世に存在する他のどのような愛情よりも大きいと証明して見せます!」

「え?待て、これはそういうアトラクションじゃ────」

「アレクティス様!これが私の愛です!」

「ま、待てアリシ────」


 その後は思い出すだけで頭がクラクラしそうなこととなったが、その後もいくつかのアトラクションを楽しむと、時刻は夕方となっていた。


「色々と乗ったな……今日はもう最後ってことで、あのよく目立ってる良い景色の見れそうな観覧車に乗らないか?」

「はい!私、観覧車も乗ったことが無いので、是非乗ってみたいです!」

「それなら行こう」


 そう話が決まり、俺とアリシアは二人で一緒にその観覧車へ向けて歩き出すと、俺たちは二人でその観覧車に乗り込み、隣になるように座る。


「今日は本当に遊園地というものを満喫したな」

「そうですね!アレクティス様と共に過ごす遊園地というものは、本当に楽しかったです!」

「アリシアがそう言ってくれたなら、誘った甲斐があったな」


 そんなことを話していると、観覧車が上がって来て外の景色がよく見える高さまで来たので俺たちはそちらに目を向けて話す。


「良い景色だな」

「はい、とても……」


 それから二人で静かに街並みを眺めていると、俺は今ふと気になったことをアリシアに聞いてみることにした。


「なぁ、アリシア……アリシアは、前世の世界とこの世界、どっちが好きだ?」

「どちらの世界が好きか、ですか……」


 アリシアは、少し考えた素振りを取ると────俺たちの居るゴンドラが夕暮れの光と重なった時、アリシアは笑顔で言った。


「私は、アレクティス様の居らっしゃる世界でしたら、どちらの世界でも構いません……私が愛しているのは世界ではなく、アレクティス様なのですから」

「アリシア……その気持ちに対して俺が今アリシアの望む形で応えることはできないが、それでも、アリシアがそんなにも俺のことを想ってくれているのは素直に嬉しい……ありがとう」

「とんでもございません!」


 それからも俺たちが前世での思い出などを話し合っていると、あっという間に観覧車は一周したため、観覧車から降りると入場ゲートへ向けて歩き出した。


「今日は本当に楽しかったな」

「えぇ、とても……是非またアレクティス様と遊園地、もしくはそうでなくともこういった場所へご一緒したく思います」

「そうだな、これからたくさん二人でこの世界を見て回ろう」


 観覧車では前世のことを、そして今は今日のことを振り返ったり、今後のことも少し話し合ったりしながら入場ゲートを出た。

 これであとはアリシアの家のリムジンの乗らせてもらって帰るだけ……ところどころアリシアの常識外れなところはあったものの、結果的には何もトラブルが無く良い一日に────と心の中で今日の総括を始めようとした時、手に何か冷たいものが当たったと思えば、その瞬間に雨が降り始めた。


「こ、こんなに突然!?いや、それよりもアリシア!ひとまずそこにあるコンビニに避難しよう」

「は、はい!」


 俺とアリシアは、雨の中急いでコンビニへと走った……幸いにも俺たちが雨に当たっている間は雨の勢いは弱かったが、コンビニの中に入ってからは雷なんかが鳴り始め、本当の豪雨となっていた。

 アリシアは、スマホの画面を閉じると俺に向けて言った。


「突然の豪雨により車は渋滞、電車の方はかなりの遅れが出てしまっているようなので、少なくとも今帰宅するというのはあまり賢い選択では無いかもしれません」

「そうか……一体どうしたものか」


 帰れないとなると、大人しくここで豪雨が収まるのを待つしか無いが……とても数十分程度じゃ収まりそうに無いし、かと言って長時間店内に居たら迷惑になる。

 俺がこれからどうすべきかと悩んでいると、アリシアが言った。


「アレクティス様、私から提案があるのですが……よろしければ、本日は私とアレクティス様の二人でホテルへ宿泊しませんか?」

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