第27話 前世の従者と遊園地②

 ────土曜日。

 今日はアリシアと遊園地に行く日であり、前回同様アリシアとの待ち合わせ場所を決めていたため、俺はその待ち合わせ場所へ向かった。

 そして、その待ち合わせ場所が見えてくると、そこにはどこか透明感のある綺麗な白のブラウスに、ベージュのミニスカートを履いているアリシアの姿があり、アリシアと目が合った……かと思えば、前回同様俺の方に小走りでやって来て言った。


「おはようございます!アレクティス様!」

「あぁ、おはよう……アリシア?前回も少し思ったが、俺を見つけたからと言ってわざわざ小走りで俺の方に来なくても、そのまま待ち合わせ場所で俺のことを待ってくれてたらすぐにアリシアのところに行くからそんなに焦らなくてもいい」

「それは承知していますが、アレクティス様と一秒でも早く会いたいというのが私の心情なのです!いえ、本当は会いたいと思うことすらなく一日中アレクティス様のお傍に控えさせていただくことが望みです!あぁ、いつかアレクティス様か私の自宅、もしくはホテルなどでもこの世界でアレクティス様と一つ屋根の下前世のように生活を共にしてみたいものです……アレクティス様のご自宅に関しては、また今度というお話もアレクティス様から頂けましたので、その時のことを今でも心より楽しみにしております」

「だからあれは違うって言ってるだろ!」


 俺は、アリシアが俺の家に入りたいという旨の言葉を言って来た時、帰ってもらうための言葉を咄嗟に発してしまった時の誤解を解こうとそれからも少し話したが、アリシアは全く俺の言葉によって自らの考えを変えている様子は無かった。

 この世界でアリシアと一つ屋根の下で生活をする、か……そんなことをする機会は間違いなくまだまだ先、というかそもそもこの世界でそんなことが起きる可能性はほとんど無いだろうから、そのことはあまり考えなくても良いだろう。

 その後、俺とアリシアは二人で相変わらず見慣れないし乗り慣れない黒のリムジンに乗ると、二人で一緒に遊園地へと向かった。

 そして、約一時間ほどが経過すると目的の遊園地の前に到着して、俺たちは入場ゲートの前までやって来た。


「入るか」

「はい!」


 そして、遊園地の中に入ると────直後、アリシアが明るい声で言う。


「実物を見たことはありませんでしたが、ここが遊園地という場所なのですね!」

「あぁ……改めて見るとすごいな」


 この入り口からでも見える特徴的なデザインの高い建物や、ジェットコースターの動線と思われる鉄の道を見て、俺たちはそう声を上げた。

 継条輪としての記憶しか無い時と、前世の記憶も思い出した今とでは、この遊園地を見るだけでも感動が違う……人間が、それも魔法の無い世界の人間がこんなものを作れたなんて、とても信じられない……なんだか、思っていた以上にテンションが上がってきたな。


「アリシア、遊園地は基本的に乗り物に乗る場所だから、まずは何か面白そうな乗り物に乗ってみよう」

「わかりました!」


 ということで、俺たちは近くにあった『自由にお取りください』と書かれたこの遊園地の地図を手に取ると、それらしきアトラクションの前までやって来た。


「アトラクション名がマジック・オブ・フォース……建物の外観からしても魔法に関連してそうなアトラクションだし、数あるアトラクションの中からまずここを選んだのは正解だったのかもな」

「はい!流石はアレクティス様です!」


 そして、俺たちは二人で一緒にそのアトラクションの列へ並ぼうとした────が、アリシアは列に並び始める入り口の場所で足を止めると、そこにあった看板を見て言った。


「通常でしたら120分待たねばならないところを、どうやら料金を支払えばほとんど並ばずとも乗れるようですね」

「あぁ……まぁ、一回アトラクションを乗るためだけに何千円も支払うことができるのは、お金持ちぐらいだから、俺たち高校生は大人しく並────」


 と言いかけた時、俺は今一緒に居るアリシアが社長令嬢であるということを思い出し、その言葉を言い換えようとした……が、その時にはもう遅く、アリシアは明らかにとても高級感のあるカードを手に取ると言った。


「ご安心ください!その程度でしたら、現金であったとしてもカードであったとしても難なく対応することが可能です!アレクティス様、私について来てください!」


 そう言うと、アリシアは俺の前を歩き始めた……きっと、看板に書かれていた並ばずにアトラクションに乗れる乗車券の購入できるというこの列横を目指しているんだろう……俺は、そんなアリシアについて行きながら言う。


「ま、待ってくれアリシア、確かにただ数時間待つだけなのは暇かもしれないが、俺はアリシアと一緒に過ごせればその時間だって楽しい時間になると思うんだ」

「それには私も同感です、私もアレクティス様のお傍に居ることができれば、それだけで幸せ……ですが、だからこそ、アレクティス様との楽しい時間というものをつまらない理由で無くしたく無いのです────前世でアレクティス様が死期を迎えられようとしているというのに何もできず、アレクティス様との楽しい時間も、共に過ごす時間も、生きる意義さえ失ってしまったあの頃の無力な私には、もう戻りたく無いのです」

「アリシア、前世のアリシアは────」

「アレクティス様とお話をしている間に、目的地へ到着したようです……乗車券を購入してまいりますね」


 そう言うと、アリシアは乗車券を買うべく目の前の窓口に居るスタッフさんに話しかけていた。


「……そうか」


 俺は前世で誓ったことによってアリシアとそういう関係になることはできない……が、アリシアも、前世から大きなものを背負っていたんだな。


「やっぱり、俺は主人失格だ」


 俺は、アリシアの後ろ姿を見ながら、アリシアがその背中に背負っていたものを考えると胸が苦しくなった……が、アリシアが今この時間を楽しくするために動いてくれているというのであれば、それを無下にすることは絶対にしたく無かったため、この遊園地の間はそのことについては全く考えず、ただただアリシアとの遊園地を楽しむことにした。

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