第26話 前世の従者と遊園地①

 ある日の体育の時間。

 男女ともに体育の授業が予定よりも早く終わったということで、俺たちのクラスは残りの時間で男女混合ドッジボールを行っていた。


「継条!七海さんと隣の席の恨みだ!喰らえ!!」


 なんとも理不尽な理由で、クラスメイトの男子生徒が俺に向けてボールを投げてきた……幸いにも俺はこの世界でも運動神経は良い方であり、ましてや魔法の込められた魔球が高速で飛んでくるのが当たり前の前世の記憶を思い出した今となっては、間違ってもドッジボールで俺が後れを取ることはあり得ない。

 ということで、俺はそのボールを軽々キャッチしようとした────が。

 そのボールをキャッチしたのは俺ではなく、スタイリッシュに俺とそのボールの間に割って入ってきたアリシアだった。


「何あの取り方!」

「かっこいい……!」

「七深さんってやっぱりすげぇ」


 クラスメイトたちから称賛の声が上がっていたが、アリシアはそんなことを全く気にした様子も無く言う。


「アレクティス様に攻撃するとは……良い度胸です」


 アリシアは小さな声でそう言うと、俺に向けてボールを投げてきた男子生徒に対してボールを放った。

 アリシアの放つボールを男子生徒は避けることができず「あああああ!!」という声を上げながらコート外へ出て行く。

 そんな調子でドッジボールは終了し、無事俺とアリシアの居るチームが勝利すると、あの後も大活躍をしたアリシアの元へクラスメイトたちが集まっていた。


「七深さん、すごいね!何か運動とかしてたの?」

「ふふ、嗜み程度ですよ」

「あのキャッチはどうやったんですか!?」

「経験から来るものだと思われます」


 経験……一歩間違えれば前世のことを吐露してしまいそうだが、いくらアリシアと言えどそこまでのことはしないだろう。

 その後、体育の授業が終わると各生徒たちは更衣室へ向けて歩き始め、俺とアリシアも二人で隣り合わせになりながら一緒に更衣室へ向けて歩いていた。


「そうだ、アリシア……次の土曜日時間はあるか?」

「はい!土曜日は元より何も予定はありませんが、仮に何か予定があったとしてもアレクティス様のためであれば無理矢理にでも空けてみせます!」

「そ、そこまでされるのもなんだか申し訳ないが……まぁいい」


 俺は相変わらずなアリシアによって少し調子を崩されながらも、続けて本題に入る。


「実は、バイト先の先輩……ほら、アリシアも会ったあの女性の先輩が『ちょうど二人分余ったからこれあげる!彼女ちゃんと二人で楽しんできてね〜』って遊園地の半額チケットを2枚くれたんだ」

「彼女……!やはり、あの方は見る目があるのですね……!」


 アリシアは、目を輝かせてそう言った……普通は遊園地の半額チケットという方に意識が行きそうなものだが、こういったところもアリシアらしいと言えるだろう。


「それで、せっかく半額チケットをもらったから、それなら先輩の言ってくれた通りアリシアと一緒に遊園地に行きたいと思ったんだが……どうだ?」

「遊園地という場所は耳に挟む程度で行ったことはありませんでしたが、アレクティス様とご一緒できるということでしたら是非ご一緒させていただきたく思います!」

「わかった、じゃあこの土曜日は一緒に遊園地に行こう」

「はい!」


 ということで、俺とアリシアはこの土曜日一緒に遊園地へ行くことになった……俺自身、継条輪としては何度か行ったことはあったが、それも小学生ぐらいの頃で、ましてや前世の記憶を思い出してからはまだ遊園地に行ったことが無く、アリシアと一緒に遊園地に行ったこともないため、この土曜日がどんな一日になるのか、今からとても楽しみだ。

 ────この時の俺は、アリシアとあんなことになるということを、想像すらできていなかった。

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