第24話 前世の従者とメイド喫茶②

 その建物の中に入った途端に、俺とアリシアはそんな声をかけられた……ど、どういうことだ?こんなに大勢、というか……


「……」


 辺りを見回してみると、俺たち以外にも一般の人物と思われる人物たちが何人か椅子に座っていた。


「どうかなされましたか?ご主人様」


 メイド服を着た女性が、辺りを見回して困惑している様子の俺に対してそう聞いてきた時、アリシアが口を開いた。


「アレクティス様のことをそのようにお呼びしても良いのは────」


 が、俺はそのアリシアの言葉を手で静止すると、この目の前のメイド服を着た女性に一つ聞いてみることにした。


「あの、ここってもしかして何かのお店なんですか?」


 屋敷と言っていたからてっきり家なのだと思っていた俺だが、建物内のテーブルや席の配置が明らかに店のそれだったため俺がそんな疑問を投げかけると、メイド服を着た女性が言った。


「もちろんそうです!入り口の看板にも書かれている通り、ここはメイド喫茶というお店で、ご来店してくださったご主人様やお嬢様におもてなしをさせていただくのが私たちの仕事です!」


 ────メイド喫茶……!

 そうだ、どうして気付かなかったんだ……街中で突然メイド服を着た女性に話しかけられるなんて、どう考えたってお店関連で、メイド服を着た女性が働いている場所なんてメイド喫茶しかない。

 今まで行ったことがないし、普段耳にすることも無いからすっかりメイド喫茶という単語が頭から抜けてしまっていた。

 俺は、ここは俺やアリシアのような高校生が来る場所では無いと判断して口を開いて言う。


「すみません、俺たち────」


 俺が退店する言葉を口にしようとした時、アリシアが意図せずその俺の言葉を遮るような形で重みある言葉を放った。


「メイドという名を冠する以上、半端なおもてなしは許しませんよ」


 その言葉を聞いたここに居るメイド服を着た女性全員が一瞬そのアリシアから感じるただならない雰囲気に悪寒を走らせたようだったが、仕事中ということもあってかどうにか笑顔を崩さずに一人が言った。


「は、はい!もちろんでございます!ご主人様とお嬢様のために、精一杯おもてなしさせていただきます!」

「……でしたら、私たちを席に案内してください」

「え?」


 俺がアリシアの言葉に困惑するも、メイド服を着た女性は「か、かしこまりました!」と言うと、俺とアリシアのことを先導し始めてくれたため、俺たちはその後ろをついて行く……が、俺はアリシアの言葉に覚えた困惑を晴らすためにアリシアに聞いてみることにした。


「アリシア、怒ってたみたいなのにどうしてこの店で過ごそうと思ったんだ?」

「この世界のメイドという存在を、一目見ておきたかったのです……もっとも、アレクティス様に質の低いものを差し出すようなら────このお店を土地ごと買収し無くします」

「は……!?」


 と、土地ごと買収……!?

 前世で本当のメイドだったアリシアに色々と思うことがあるのはわかるが、それにしたって────


「アリシア、それは────」

「ではご主人様!お嬢様!こちらの席でメニューをご覧になって、注文したいものがあればそちらのベルでお呼びください!」

「はい」

「わ、わかりました」


 俺たちがそう返事をすると、そのメイド服を着た女性は軽く頭を下げて俺たちの元を去って行った……すると、アリシアが暗い声で言う。


「あの女性、頭を下げる角度が低すぎます、メイドという名を冠し主人を敬う気持ちがあれば自然と頭は深く下がるもの、それが無いということは────」

「ま、まぁアリシア、ひとまずメニューを見よう、もしかしたら何か美味しいものがあるかもしれない」

「アレクティス様がそう仰るのであれば、是非そうしたく思います!」


 俺の提案を聞いたアリシアは、先ほどの暗い声とは対称的にとても明るい声でそう言った。

 そして、俺たちが隣り合わせになるように座り、二人でメニュー表に目を通すと、一番最初に出てきたのが────


『ラブラブ♡ドキ萌えオムライス♡』


 俺はそれを見て何とも気まずい心境を抱いていると、隣のアリシアは────俺の気まずいなどという感情が気にならなくなるほどに目のハイライトを消すと、前世の氷魔法を思い出すような冷気を感じさせながら冷たい声音で言った。


「私の敬い、愛しているアレクティス様の綺麗なお目に、このような低俗な名称の商品、それも愛の意が込められた言葉の入っているものを映すとは……この罪は、万死に値します」

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