第23話 前世の従者とメイド喫茶①

 俺は、暗い目元と冷たい表情であのメイドに厳罰を課すといったアリシアと一緒にホテルから出てリムジンに乗ると、そのリムジンが動き始めたタイミングで聞く。


「アリシア、厳罰って……一体何をするつもりなんだ?」

「厳罰という文字通り、身勝手にも私のお仕えしている方のことをアレクティス様の許可も取らずにご主人様と呼んだことへの罰を下しに行くのです」

「俺はそんなこともう気にして無いから、今日元々の予定だった普通の高校生がどう過ごすのかっていうので今から時間を過ごさないか?」

「アレクティス様からそのようなご提案をしていただけることはとても嬉しいことではありますが、申し訳ございません……仮にも前世の従者して、あの者の言動を許すわけにはいかないのです」


 どうにかアリシアのことを落ち着けようと奮闘した俺だったが、俺がここまで言ってもダメな時のアリシアは本当に何を言ってもダメな時のため、俺は今アリシアのことを落ち着けることは諦めて大人しくそのままリムジンの行くままに身を委ねた。

 そして、少ししてからリムジンが止まると、どうやら先ほどの場所へ到着したらしいため、俺とアリシアは一緒にリムジンから降りる。


「さて……あの女性は一体どこへ────」

「あ!ご主人様〜!」


 アリシアがそう言いかけた時、甲高い女性の声が聞こえたかと思えば、その声の主であるメイド服を着た女性が俺たちの前に現れた。

 どうやら、先ほどと同じ人のようだ。


「ご主人様!先ほどは突然立ち去られて何かお忙しかったみたいですけど、もうご用事は大丈夫なんですか?」


 俺がそれに対して返事をするために口を開くよりも早く、俺の隣に居るアリシアが相変わらず────というか、より一層目元を暗くして冷たい表情で言った。


「あなたは一体何が目的なのですか?私の唯一無二の恩人であり主人であり大切な方に向けて軽薄にもご主人様と呼び擦り寄るなど、断じて許されることではありませんので、相応の理由が無いようでしたら早急に対処させていただきます」

「対処……?えっと、よくわかんないんですけど、もしお時間があればご主人様とお嬢様のお二人で────」


 メイド服を着た女性がそう言いかけると、アリシアは寒気を感じそうなオーラを放ちながら言った。


「あなたにお嬢様などと呼ばれる筋合いはありません」

「ぇっ!?えっ、と……」


 先ほどまではまだアリシアが怒っているということをあまり理解できていなかったのだと思うが、今のアリシアの雰囲気や表情からアリシアが怒っていることを理解したのか、もしくはそのアリシアの冷たい表情に軽く恐怖を覚えてしまったのか、メイド服を着た女性は動揺した素振りを見せながらも続けて言った。


「お、お二人で、お屋敷へ来られますか?」

「……え?屋敷?」


 そのメイド服の女性の言葉にすぐに反応したのは俺の方で、その反応を示した俺に対して、メイド服の女性はアリシアからの視線より逃れるかのように俺の方を向いて言った。


「はい!紅茶やコーヒー、簡単な料理も作れますよ!」


 ……この世界に屋敷と呼ばれるものがあったのか?

 いや、この世界のどこかにはあるんだろうが、それがまさかこんなにも身近にあったなんて……俺がそう思っていると、意外にもアリシアが頷いて言った。


「そういうことでしたら、是非赴かせていただきましょう」

「ほ、本当ですかっ!?ありがとうございますっ!」


 メイド服を着た女性は高い声でそう言うと「ではこちらへついて来てください!」と言って俺たちを先導し始めてくれたため、俺たちはそのメイド服を着た女性について行く。

 その道中、俺は隣を歩くアリシアに聞いた。


「アリシアがあのメイド服を着た女性の言葉に頷いたことにちょっと驚いたが、アリシアもやっぱり屋敷っていう言葉に興味が湧いたいのか?」


 単純な疑問と予測からそう聞いた俺だったが、アリシアは首を横に振って言った。


「いえ、彼女の居住地が分かれば、今後色々と手筈を整えやすいと考えたまでです」


 居住地が分からないとできないことなんて絶対にろくなことではないと思った俺だが、相手のメイド姿の女性もかなり乗り気のようだし、今から二人のことを止めるのは難しいだろう。

 それから数分の間歩いていると────


「こちらです!どうぞ入ってください!」


 メイド姿の女性がそう言って示した建物は、まるで遊園地にでもありそうな感じのメルヘンな雰囲気の建物だった……が、とても屋敷には見えない。

 どういうことなのか全く分からなかったが、ひとまず俺とアリシアはこのメイド姿の女性の言うとおりにその建物の中へ入った────すると。


「おかえりなさいませ!ご主人様!お嬢様!」


 ────え?

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