第20話 前世の従者は怒っている②
目的地に到着したのか、リムジンの動きが止まった────リムジンに乗っている間、俺はどうにか弁明を図ろうとしたが、アリシアの暗い目元やアリシアの冷たい表情を見て今弁明を図ったとしても逆効果にしかならないと悟り、俺は今の今まで大人しくしていた。
「降りましょう」
「……あぁ」
いつになく冷たい声音でそう言うアリシアに少し動揺しながらも、俺とアリシアは一緒にリムジンから降りる。
すると、目の前には高い建物があった。
「……ここは?」
「防音に優れたビジネスホテルです、机、椅子、ベッドなどの最低限生活に必要なもの、それもシンプルなものしか置いていないので、楽しい時間を過ごすわけでないときに借りる部屋としてはとても良い部屋なのです」
……ということは、これから楽しくない時間を過ごすことになるということか。
「それでは参りましょう」
「……あぁ」
そして、俺とアリシアは二人でそのホテルの中に入ると、アリシアがフロントの人とやり取りをしてから、アリシアは鍵を受け取りそのまま二人で鍵に書かれている号室の部屋の中へと入った。
ビジネスホテルというだけあって、以前アリシアと行った最上階のワンフロアの部屋とは違い、本当にシンプルな内装だった。
普段ならこのシンプルな感じの方が落ち着けると思うが、目元を暗くして冷たい表情をしているアリシアが一緒に居ると思うとこのシンプルな部屋が殺風景のように思えて仕方が無い。
「では、アレクティス様……どうぞベッドへ腰をお掛けになられてください、お話を聞かせていただきます」
どうして椅子では無くベッドなのか、という疑問は少しあったが、この際話を聞いてもらえるのであればなんでもいい。
俺はベッドに座ると、立ったままのアリシアに向けて早速誤解を解くために言う。
「アリシア、さっきも言ったが誤解なんだ、俺だってどうして突然メイド姿の女の人が俺に話しかけてきたのか、全く見当も付かない」
俺がそう弁明するも、アリシアは言う。
「そのような言葉で私が惑わされるはずがありません……私も前世ではアレクティス様の従者、メイドとして過ごさせていただいておりましたのでよくわかることですが────自らが主人と認めた人物以外に仕え、その方を敬い仕えることなど例え命と天秤にかけたとしても許し難きことなのです……つまり、あの女性がアレクティス様のことをご主人様と呼んだこと、それこそがあの方はアレクティス様のことをそれほど大きな存在として受け止め、そしてアレクティス様と主従の契約を交わしているという証拠なのです」
……アリシアの言っていることは正しい。
前世の記憶が戻る前の継条輪だったのであれば、今のアリシアの言葉を聞いたとしてもあまりピンとは来なかっただろうが、前世の記憶を思い出した今の俺にはアリシアの言葉が正しいということがよくわかる……一人のメイドが主人を定め、その人物に仕えると言うのは一日二日という話じゃない────文字通り、生涯を懸けたもの……だが、だからこそどうしてあのメイド服を着た女性が俺のことをご主人様と呼んだのか、そのことが本当にわからない。
というか、そもそもこの世界にメイドなんて存在は居ないはずだ……学校でも街でも、メイドを従えている人間なんて見たことがない。
「なぁ、アリシア、アリシアの言っていることは俺も本当にその通りだと思うが、俺だって本当に何が何だかわからないんだ……だから、一度さっきのメイドが居た場所に戻らないか?あの人にどうして俺のことをご主人様と呼んだのか、その事実確認をすれば────」
「この期に及んで、私以外の女性、それも今本題としているメイドの女性に会いたいと仰るのですね……つまり、アレクティス様は私よりもあの女性のことをお傍に置いておきたい、ということですか」
「ち、違う!アリシア────」
「アレクティス様、私は怒っているのです」
そう言うと、アリシアは懐から何かを取り出して、俺の両手を一つにまとめ、その懐から取り出したもの────手錠によって、俺の両手首を拘束すると、俺のことを優しい手つきでベッドの上で横にさせた。
そして、アリシア自身もベッドの上にやって来ると、落ち着いた口調で言う。
「前世の世界でしたら、アレクティス様にこういったことをするだけでも本当に想像を絶する労力が必要だったでしょう……アレクティス様のことを拘束するというだけでも魔法のある世界では難しく、仮にアレクティス様のことを道具で拘束したとしても、それも魔法で簡単に逃れられてしまいますから」
それから、続けてアリシアは頬を赤く染めて妖艶な表情で言った。
「────ですが、この世界は本当に素晴らしき世界です、魔法も無ければ特殊な武具も無いので、こうして手錠をかけるだけで、アレクティス様は私に抵抗できなくなるのですから」
「ア、アリシ────」
俺が口を開くも、アリシアはそれを遮るように俺の口元に自らの人差し指を置いて、俺の顔を覗き込むようにしながら少し口角を上げて優しい声色で言った。
「ご安心ください、アレクティス様……私は一度このようなことをされたからと言って、アレクティス様のことを見限ったりは致しません……いえ、例えアレクティス様が何度このようなことをなされたとしても、その度に私は私のアレクティス様への愛を、アレクティス様の身と心に強く刻み、いずれはアレクティス様は私のことだけを見てくださるようになるのです……ですからアレクティス様、今はどうか、私に身を委ねられてください」
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